マンスリーレビュー

2019年12月号トピックス1サステナビリティ経営コンサルティング

生分解性プラスチックに潜むトレードオフの関係を解決する

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2019.12.1

経営イノベーション本部舟橋龍之介

サステナビリティ

POINT

  • 海洋プラスチックごみ問題の解決に有効な新素材「生分解性プラスチック」。
  • 導入や普及に向けては「生分解性」と「安定性」の両立が不可欠。
  • 「マテリアルジャーニー・マップ」でブレークスルーを引き起こそう。
海洋に流出した廃棄プラスチックが微細化され、魚や貝、水鳥などの体内からマイクロプラスチックが検出されている「海洋プラスチックごみ問題」が、地球規模の社会問題となっている※1。この問題に対し、安倍首相は2019年10月に京都府京都市で開かれた国際会議※2で講演し、「生分解性プラスチック」の可能性を示した上で、技術革新による解決を求めるとの見解を示した。海洋プラスチックごみ問題は、新技術の社会実装という新たな段階に進んだといえよう。

生分解性プラスチックとは、微生物の働きによって水と二酸化炭素に完全に分解される機能性材料である。中でも海洋で分解される海洋生分解性プラスチックが注目を集めている。しかし導入や普及に向けた課題は多い。「材料の生分解性を高める」ことは、裏を返せば「材料の安定性を落とす」ことに通じるためである。生分解性と安定性というトレードオフを解決しなければ、生分解性プラスチックの実用化は進まない。

この課題に対しては、プラスチック製品の流出経路を可視化する「マテリアルジャーニー・マップ」の作成が有効だ。多種多様な用途に用いられているプラスチック製品それぞれに対し、「いつ」「どこで」「どのように」分解されるかを的確に設計することが前出のトレードオフを解決する糸口になる(図)。

重要なのは、「分解開始機能(トリガー)」と「分解速度」の設計である。例えば、海洋に漂流するレジ袋の材料を海洋生分解性プラスチックに置き換えるとする。この場合、「紫外線や波でプラスチックが崩壊し、その内部が海水に触れると酵素がトリガーとして働き、分解速度については数日間」となるよう設計したい。こうした技術は日進月歩で発展中である。海洋生分解性プラスチックで認証を取得している企業はまだ少数であり※3、開発に参入する余地は大きい。海洋生分解性プラスチック以外でも、畑の土壌にすき込めば分解が進む農業用マルチフィルムなどは廃棄の負担が軽減される製品として注目を集めている。マテリアルジャーニー・マップによって生分解性プラスチックを的確に設計し、ブレークスルーを引き起こそうではないか。

※1:MRIマンスリーレビュー「プラスチックごみ問題の解決に向けて」(2019年11月号)

※2:STSフォーラム(科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム)第16回年次総会(2019年10月開催)。

※3:海水中で生分解する「OK Biodegradable MARINE」の認証を取得している企業は世界で10社である(2019年10月時点)。しかし、大半の企業は一次元の繊維状や二次元のフィルム状に成形加工される再生セルロースで認証を取得している。一方、海洋生分解性プラスチックは繊維やフィルム状に加え、三次元のバルク(塊)状にも容易に成形加工できる。海洋生分解性プラスチックで同認証を取得している企業は日本のカネカ、米Danimer Scientific、同 RWDC Industriesの3社である。

[図] マテリアルジャーニー・マップの概要