地球上で人口増加と経済成長のトレンドが続く中、生産・消費活動による資源不足や環境破壊の深刻化が指摘されている。開発途上国の経済成長と生活水準の向上は、量・質両面で食料需要の変貌をもたらし、世界的にタンパク質の供給が追い付かない可能性などが懸念される。化学と物理を基盤とし、化石燃料をはじめ天然資源に大きく依存する工業化社会の生産・消費スタイルを続けるかぎり、資源の限界と自然環境の破壊という問題を避けて通ることはできない。
近年、この問題を解決する有効な手段として、生物学に由来するバイオテクノロジーが注目されている。生物を構成する細胞は、膨大な種類の分子が織りなす精巧なシステムである。これを解明して自由にシステムを設計できるようになれば、環境への負荷を軽減しつつ、資源の限界を乗り越えて人口増加や生活水準向上に対応した生産を実現できる可能性がある。例えば、セルロースナノファイバーのように高機能な素材を低価格で大量供給でき※1、微細な藻類を使って効率的に燃料を生産できれば、石油資源などを用いずに、現状と同等ないしそれ以上の商品やサービスを提供できる。
バイオテクノロジーの進化に伴い、その適用可能領域も、量と質の両面で大きく拡大する方向にある。経済協力開発機構(OECD)は、こうした技術革新の流れに乗って、世界のバイオ市場規模が2030年には約1.6兆ドル(約170兆円)に達すると予想している(図1)。バイオ市場ではかつて健康分野の比率が高く、2003年時点で市場全体の87%を占めていたが、近年のゲノム解析・編集技術の劇的な進歩を原動力として、今後は農業・食料、さらには工業の各分野も急激に伸びると予想されている。代替肉や培養肉、バイオプラスチック、スパイダーシルクのように、これまでにない性質を持った新たな素材や商品・サービスの開発に拍車が掛かるだろう。
近年、この問題を解決する有効な手段として、生物学に由来するバイオテクノロジーが注目されている。生物を構成する細胞は、膨大な種類の分子が織りなす精巧なシステムである。これを解明して自由にシステムを設計できるようになれば、環境への負荷を軽減しつつ、資源の限界を乗り越えて人口増加や生活水準向上に対応した生産を実現できる可能性がある。例えば、セルロースナノファイバーのように高機能な素材を低価格で大量供給でき※1、微細な藻類を使って効率的に燃料を生産できれば、石油資源などを用いずに、現状と同等ないしそれ以上の商品やサービスを提供できる。
バイオテクノロジーの進化に伴い、その適用可能領域も、量と質の両面で大きく拡大する方向にある。経済協力開発機構(OECD)は、こうした技術革新の流れに乗って、世界のバイオ市場規模が2030年には約1.6兆ドル(約170兆円)に達すると予想している(図1)。バイオ市場ではかつて健康分野の比率が高く、2003年時点で市場全体の87%を占めていたが、近年のゲノム解析・編集技術の劇的な進歩を原動力として、今後は農業・食料、さらには工業の各分野も急激に伸びると予想されている。代替肉や培養肉、バイオプラスチック、スパイダーシルクのように、これまでにない性質を持った新たな素材や商品・サービスの開発に拍車が掛かるだろう。
