マンスリーレビュー

2019年12月号トピックス4デジタルトランスフォーメーション

地域金融機関がシニアの老後資金の不安を解消する

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2019.12.1

金融イノベーション本部能鹿島 武志

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • 「老後の資金に関する不安の解消」に地域金融機関の役割は重要。
  • 住宅ローン情報などを活用して不動産事業者などとのマッチングも。
  • 地域における中古住宅の循環、ひいては空き家問題の解決にも貢献。
高齢社会を迎える日本で老後に豊かな生活を送るために何が求められるか—。その一つは「老後の資金に関する不安の解消」である。シニア世代の資産の5割以上は住宅資産が占めるとされる※1。これら住宅資産の活用は不安解消に向けたひとつの解決策になりうるが、流動性の低さから現金化に結びつかないケースも多い。だが、地域金融機関が保有する情報と地域企業のネットワークなどを活用すれば、住宅資産の活用の幅が広がり、流動性を高めることが可能になる。

シニア世代をターゲットとした住宅資産の活用の一環として、住宅を担保に融資が受けられるリバースモーゲージ※2のような貸出制度がある。しかし課題も多く※3シニア世代の幅広い資金ニーズをみたすには至っていない。シニアのニーズと物件の価値などに見合った、最適な活用方法の提案が必要とされている。

着目したいのが、地域金融機関に眠る未活用の取引データである。地域金融機関には、ローンを申し込んだ時点の顧客の各種属性・家族・物件情報に加え、長期にわたる返済口座の状況など豊富な情報が蓄積されている。ここからシニア顧客の現時点の状況と住宅資産に関わるニーズを分析・予測し、住宅資産活用にノウハウのある工務店や不動産会社などの取引先事業者とマッチングできれば、住宅資産を所有するシニア、事業者双方にメリットがある(図)。例えば、金融機関の提案があって初めてシニア本人が住宅資産の価値に気付き、事業者が仲介に動くケースもあろう。一戸建てに転居を検討中の現役世代との仲介が進めば地域における中古住宅の循環も促され、リバースモーゲージの商品価値拡大にもつながるだろう。

このように地域金融機関の提案型新事業の効果は大きい。金融庁が国会提出した銀行法改正案の可決により、顧客関連の情報を、当人の同意を得た上で第三者に提供する業務が可能となる※4。地域金融機関が保有する情報の利活用が加速するとみられる。全国846万戸(2018年時点)ともいわれる空き家の問題が近年大きな社会課題として浮上しているが、住宅事情の改善を通じた地域の活性化にも大いに貢献する。

※1:住宅・宅地資産の合計。出所:総務省「平成26年全国消費実態調査(世帯主の年齢階級別1世帯当たり資産額)」(2014年9月~11月実査)

※2:高齢者が自宅に住んだまま、所有する不動産を担保にして一括または定期的に融資を受けるローン。住み慣れた自宅を手放さずに生活資金などを受け取れることからシニア世代にメリットが大きいとされている。

※3:下記のような課題がある。
・十分な担保評価がつかない
・商品によっては、資金使途が限られる
・相続人の同意が必要 など

※4:金融機関が地域企業の経営改善に貢献したり、利用者のニーズに応えたりできるよう、その業務に、顧客に関する情報を同意を得て第三者に提供する業務などを追加した。
出所:金融庁「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案」説明資料(2019年3月)

[図]シニア層の住宅資産を基点とした地域金融機関のビジネスモデルの例