マンスリーレビュー

2018年4月号

MRIマンスリーレビュー2018年4月号

巻頭言|砂場の先

代表取締役社長 森崎 孝
日本はトヨタ自動車の改善(KAIZEN)をはじめとして、高品質な製品を製造する手法を編み出し、こつこつと改善・改良を続けることにより、ものづくり日本の伝統を築き上げてきた。一方、科学技術の進歩が著しい現在においては、日本ならではのお家芸に加え、従来の延長線上ではない製品やサービスを創出するイノベーションが求められている。

このため、官民を挙げて、イノベーションを起こす試みを支援する環境づくりが極めて重要であることは言うまでもない。例えば、自動運転を推進する上で、制度面での支援は不可欠である。イノベーションを加速し、社会に実装するためには、後押しする仕組みづくりが帰すうを制することも多い。

現在国会で審議されている砂場づくり(Regulatory Sandbox)も一つの有効な手法である。現行の法制度が想定していない新しい技術やビジネスモデルを創り出すことを目的として、一時的に現行法適用を停止し、実験的にスピーディーな検証を可能とする規制緩和策である。小さな子供が砂場で試行錯誤しながら成長していく姿を模して、砂場遊びとも言われている。

世界を見渡せば、金融サービス分野で先進的な取り組みを加速している英国やシンガポールで導入の事例があり、ルワンダでは、長年の課題であったへき地の医療サービスを向上させるため、わずか1年足らずの間に砂場を活用したドローンによる医療品配送を実現している。

今回の取り組みは、これまでの国家戦略特区や企業実証特例制度の仕組みを一歩前に進めるものと言われているが、実験を繰り返すだけでは意味がない。その成果を広く社会に実装することが大事だ。実験にとどまるのではなく、砂場を一つのステップとして、規制のない開かれた市場を新たに作る。その市場で、事業化を競う国内外の企業が次々とイノベーションを引き起こすことが、目指すべき姿である。遊びから成長へと進化できるか、砂場としての真価が問われる。
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