マンスリーレビュー

2018年4月号トピックス4スマートシティ・モビリティ

地域のインバウンド消費を掘り起こすモバイル決済

同じ月のマンスリーレビュー

タグから探す

2018.4.1

政策・経済研究センター山藤 昌志

スマートシティ・モビリティ

POINT

  • インバウンド消費額は4兆円超え。しかし観光客単価は伸び悩み。
  • 中国人観光客にモバイル決済増加の兆し。消費喚起への弾みとなるか。
  • モバイル決済は地域の「コト消費」の鍵に。日本発サービスに期待。
2017年の訪日外国人消費額が過去最高の4.4兆円に達した。けん引役は消費額全体の4割を占める中国人観光客である。一方で、1人あたりの旅行中消費額は2015年の25万円超から足元では20万円弱と伸び悩んでいる。この背景には昨今の元安傾向や中国政府による高級品への関税引き上げ措置があるが、中国人観光客の消費停滞を助長するもう一つの要因として指摘されているのが、日本の決済手段だ。

中国国内では近年モバイル決済が急速に普及し、今や生活に欠かせないインフラとなっている。こうした中で訪日観光客は、依然として現金が主流となっている日本の決済環境にストレスを感じるという。三菱総合研究所の試算では、モバイル決済が使えないことによる消費減退効果は最大で消費額の2割強、3,000億円に上っている可能性がある※1

他方、中国人観光客の日本での決済手段には、変化の兆しが見られる。「訪日外国人消費動向調査」が示す訪日中国人の決済手段を見ると、2017年に入って「その他」が顕著に増加している(図)。同調査での「その他」は内訳が明らかになっていないが、同じ時期に日本の小売業で導入が加速した中国系モバイル決済「アリペイ」および「ウィーチャットペイ」の影響である可能性が高い。日本の大手流通業はここにきて中国人観光客向けのモバイル決済環境をさらに充実させる動きを見せており、2018年春以降にモバイル決済の普及で、消費がどこまで喚起されるかが注目される。

モバイル決済の広がりは、モノの購入にとどまらず、地域固有の体験サービスなどの「コト消費」を促す。地域内での経済活性化、いわゆる乗数効果が期待できる。情報提供・予約・送客から観光のアフターフォロー、さらには決済サービスまでを一手に提供できるスマホ上の対話アプリが、地域密着型の新たな日本発決済サービスの基盤となる。現状、LINE Payがタイや台湾を中心に1,000万人規模のユーザーを獲得しているが、本丸の中国人観光客には食い込み切れていない。地域経済の新たな循環モデルを生むべく、モバイル決済と地域サービスが連携した日本発サービスによる挑戦が望まれる。

※1:各種データより三菱総合研究所推計。訪日中国人のモバイル決済利用割合と1人あたり消費額との関係を定量化した上で、直近の訪日消費におけるモバイル決済利用割合(20.9%)が中国都市部の利用割合(98.3%、2017年6月「日銀決済システムレポート別冊」より)にキャッチアップしたと想定した場合の1人あたり消費増加率を算出した。

[図]訪日中国人観光客が利用した決済方法(複数回答)