マンスリーレビュー

2018年4月号トピックス3スマートシティ・モビリティ

「プロデュース力」を発揮する地元企業が活性化の鍵

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2018.4.1

地域創生事業本部伊藤 保

スマートシティ・モビリティ

POINT

  • 工場誘致による雇用創出で地域経済を活性化するのは困難に。
  • 新ビジネス生み出す「プロデュース力」をもつ企業が不可欠。
  • 自治体は発想転換して多彩な支援策を講じ地域の魅力づくりを。
これまでは、企業誘致や地域内での創業・事業拡大支援が、雇用創出策の中心だった。特に大規模な雇用を生み出す工場誘致は、地域経済の活性化を大きく後押しした。だが、製造業による地方工場建設はリーマンショック以降、少なくなった。立地しても生産効率が上がった現在、かつてほどの人手は必要ではない。人口減少に伴い、企業が地方でまとまった数の労働者を確保すること自体、難しくなってきた。

国は2017年7月施行の地域未来投資促進法で、事業化支援の対象を製造業だけでなく、観光・サービス業や農林水産業にも広げた。人的需給のバランスがとれた地域経済の活性化を進めるには、大量雇用の受け皿になるのではなく、新ビジネスを創出する「プロデュース力」をもつ企業が不可欠になったといえる。

100年の歴史をもつ賀茂鶴酒造は、広島県東広島市西条地区の風情ある社屋を改装して、日本酒とフランス料理などを楽しめるレストランを開業。さらに、近隣の酒造会社も連携して観光拠点の「酒蔵通り」が整備された。携帯電話事業者の沖縄セルラー電話は2013年、沖縄がほとんど県外に依存しているレタスなどの農作物を、情報通信技術を活用して屋内栽培する「植物工場事業」を開始した。現在は県内有数の農業者として、マンゴーやイチゴの栽培にも乗り出している。

賀茂鶴や沖縄セルラーが新工場建設で100人単位の雇用を創出することはない。しかし、酒造や通信という本業を軸に、地縁や人脈を活用して観光・サービス業や農業などの新ビジネスを編み出している。雇用規模は5~10人単位にすぎないとはいえ、プロデュース力を発揮することで、新ビジネスが次々に根付いて持続的なスパイラルを生み出せば、地域は活性化し、魅力向上や課題解決につながっていく(図)。

自治体の側も発想を変える必要がある。従来は企業を誘致して、操業を開始するまで支援するのが主な仕事だった。だがこれからは、企業と組んで、地域の魅力を高める仕掛けづくりに向けて、多彩な支援策を講じる必要がある。そのためには従来の縦割りにとらわれず、関連する部署が広く緊密に連携すべきだろう。
[図]従来型の工場誘致から、新たな地域活性化へ