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2020年8月号トピックス4ヘルスケア・ウェルネス経済・社会・研究開発

乳がん検診がもたらす女性活躍推進の社会

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2020.8.1

オープンイノベーションセンター鈴木 智之

ヘルスケア・ウェルネス

POINT

  • 40歳代以降、乳がん検診の継続受診率は低下。
  • マンモグラフィーの欠点を補う新たな検査機器の開発が進んでいる。
  • 企業は、罹患した社員が安心して治療し就業を続けられる環境整備を。
女性活躍を支える健康課題の中で、「乳がん」への関心は高い。35~44歳の女性が罹患(りかん)するがんの部位で、乳がんは33~41%※1と最も高く、生涯で罹患する確率も10人に1人※2にのぼる。術後の投薬治療期間は5〜10年と長期にわたり、その間ホットフラッシュ※3や子宮関連疾患などの副作用にも悩まされることも多い。

乳がんは、早期発見できれば治る病気だといわれている。ステージⅠで見つかれば5年生存率は97.7%だが、ステージⅢでは77.3%※4に低下する。定期的かつ継続的に検診を受けることが必要不可欠だ。しかし、厚生労働省の指針における乳がん検診の対象は40歳以上で、それより若い世代では本人が意識して行動しなければ早期発見は難しい。仕事や育児で多忙な時期と重なり、発見が遅れるケースも少なくない。

40~69歳においても、過去2年間における乳がん検診の受診率は44.9%※5で、欧米諸国などの約60~80%と比べると低い。さらに当社の調査※6では、2年に1回の継続受診をしていない回答者は、40歳代の場合24%だったが、60歳代では37%に及んだ。加齢に伴い乳がんの罹患率が上がるにもかかわらず、60歳代に「継続受診」をする人が少ないのは、憂慮すべき事態である。一般的に、がん検診における受診率の低さの原因としては多忙なライフスタイルやリスク認識の低さ、検査に伴う苦痛への不安などが指摘されている※7

受診率を上げる方策には、検査時の痛みや被ばくリスクが懸念されるマンモグラフィーに代わる新たな検査機器の活用がある。例えば、それらの欠点を補い、より再現性の高い撮像ができる超音波を使用した乳房用画像診断装置※8の開発も進んでいる。

さらに「働く世代」の受診率を上げるために、企業は、社員が検診を受けやすい環境と、罹患しても働き続けられる制度の両面から整備すべきだ(図)。長い治療生活に配慮した働き方と継続雇用へ会社が向き合わなければ、患者の不安を払拭(ふっしょく)することは難しい。乳がんという病に対して、個々人の意識改革だけでなく、企業も対応する仕組みを構築することで、女性活躍推進の社会実現に向かって前進していくことが求められる。

※1:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(全国がん罹患モニタリング集計(MCIJ))。

※2:国立がん研究センター「がんに罹患する確率〜累積罹患リスク(2017年データに基づく)」。

※3:自律神経の乱れなどによるほてりやのぼせの症状のこと。

※4:国立がん研究センター「全がん協加盟がん専門診療施設の診断治療症例について」(2020年3月)。

※5:厚生労働省「平成28年 国民生活基礎調査」(2017年6月)。

※6:プレスリリース「三菱総合研究所、ワコール、Lily MedTechと乳がんのアンケートを実施~高濃度乳房など関連知識の認知度は検診受診率に対して低くとどまる~」(2020年7月21日)。

※7:内閣府「がん対策に関する世論調査」(2017年1月)。

※8:東京大学発のベンチャー企業Lily MedTechが開発中の「リングエコー」。

[図]乳がんの治療ステップにおける課題と解決策

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