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2020年8月号トピックス2デジタルトランスフォーメーション

コロナ禍を地銀経営の変革につなげる

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2020.8.1

金融イノベーション本部舟木 貴久

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • コロナ禍の貸し倒れリスクなどに押され、地方銀行の経営は厳しい局面に。
  • 接触制限下で資金繰り相談に対応した経験から業務改革の下地は整った。
  • 地銀にしかできないきめ細かい顧客支援も活用してピンチをチャンスに。
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、地方銀行の経営が厳しい局面にある。消費低迷に悩む地元企業への資金繰り支援に伴う貸し倒れリスクのほか、株安に伴う投資損益悪化や超低金利の継続が響いている。コロナ禍が長期化して企業の倒産や個人の自己破産が広がる「長期化シナリオ」が現実になれば、収益はさらに圧迫される(図)。

地銀にとって貸出金は資産に当たるため、貸し出し増は表面的には収益にプラスとなる。貸し倒れリスク顕在化の前に抜本的な業務改革ができるかが、今後の鍵になる。

改革の下地は整いつつある。資金繰りなどに関する相談が急増した一方、業務時間短縮や隔日出勤などを通じた接触制限下での対応を迫られたため、本当に必要な業務や顧客との接点に関する知見が蓄積された。例えば、非対面での既存顧客へのフォローを充実させたり、不要な報告書の廃止、審査権限の見直しが進んだ金融機関も多い。こうして培われた「やればできる」という自信は、レガシーな業務手法からの脱却を後押しすることになり、金融のデジタル化をさらに推し進めることになる。

コロナ禍が地銀に新たな成長分野を提供する可能性もある。間接金融ニーズが必ずしも高くなかった優良企業が、新型コロナのようなリスクに備えてコミットメントラインを設定・増額する例も増えている。今後、過密な東京から地方への人口流入が進めば、リテール商品のニーズは高まる。企業がサプライチェーンを見直して国内拠点回帰を進めれば、地方での融資や事業・人材のマッチングのニーズは高まる。

こうした中で地銀が存在意義をさらに高めるには、行政や産業、住民との強固なネットワークを活用して、コロナ禍で窮地に陥った企業と、失業やボーナス減に苦しむ個人を支援する必要がある。企業の事業再生にあたっては、事業譲渡先の選定や行政との連携に力を発揮できるであろう。返済に困った個人顧客に対しても、地域の生活水準を踏まえた支出の具体的な見直しの提案や、行政の支援制度を活用した生活建て直しのアドバイスなどを行うことができるはずだ。こうしたきめ細かいコンサルティング力を発揮してこそ、コロナ禍のピンチをチャンスに転じることができる。
[図]コロナ禍をめぐる地銀の今後に関するシナリオ

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