マンスリーレビュー

2020年8月号トピックス6最先端技術

50周年記念研究 第7回:SF思考学を用いた未来創造

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2020.8.1

未来構想センター藤本 敦也

POINT

  • 既存データの積み上げから予測する未来社会像には限界がある。
  • SF作家の思考方法を活用し挑戦的でリアリティーある未来社会像を。
  • 街づくりワークショップやビジネスモデル改革などへの応用を目指す。
社会の不確実性が高まり、価値観の多様化や急速な技術革新が進む近年、長期的な未来を予測することは困難になっている。これまでも未来を予測し対応すべく、シナリオプランニングやマクロトレンド分析などさまざまな手法が開発され使われてきた(図)。これらの手法の特徴は、人口動態などの既存データの積み上げから見えてくる確実なトレンドを把握することや、社会制度の変革を予測し、確実性の高い未来社会像を作成することにある。しかし、納得度が高い未来は描けるものの、具体的でワクワクし、実現したくなる未来社会像を描けないことも多かった。

こうした反省から社会起点発想の限界を超えるべく、デザインシンキングなどのヒューマンセントリック型の未来創造手法が登場した。人間中心で未来社会像を考えるため、具体的でニーズがはっきりしている未来社会像を描くことができる。しかし、短期的な「ありたい未来社会やサービス」は導ける一方、未来の人々の価値観を予測することが難しいこともあり中長期的な未来社会像は描きづらかった。

そこで、当社では中長期的かつ挑戦的な未来像を具象化するScience Fiction(SF)作家の思考法に着目し、筑波大学と共同研究している。AIのシンギュラリティをはじめイノベーションの発端にSFがあった前例は多い※1。SFが単に科学技術を振興し研究者を導いたというだけでなく、深いレベルでイノベーションに影響していた点に着目すべきだ。

SFを用いた具体的な手法としては、「未来における新技術や新価値観は何か」「それがもたらす社会や業界の変化」「その社会のライフスタイルと新たな課題や対策」をステークホルダー全員で描き、バックキャストにより非連続でワクワクする未来像を策定する。SF思考学では、不確実だがインパクトが大きい変化を重視する一方、未来社会に生きる個々人がおかれた状況における「人間中心の視点」も併せもつ。多様な価値観に基づく「生きている様」を具体的に描くことができ、より創造的な未来感とリアリティーの両立が可能となる。2020年内をめどに、街づくりワークショップや企業における研究開発やビジネスモデル改革などへの活用を行う予定である。

※1:SFは各時代の科学や技術の発展に応じて描かれてきた面があり、SFの影響を受けるエンジニアやサイエンティストも多い。AI分野におけるシンギュラリティ(技術的特異点)の概念も、未来学者レイ・カーツワイルとSF作家ヴァーナー・ヴィンジが共同で作成したものである。

[図]未来予測手法の比較