マンスリーレビュー

2020年8月号トピックス5デジタルトランスフォーメーション経済・社会・技術

ポストコロナのデジタル対応力

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2020.8.1

政策・経済研究センター酒井 博司

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • 企業がデジタル技術を使いこなせないことが日本の競争力低下の背景。
  • 給付金の遅れにより政府や社会のデジタル活用力の低さも露呈。
  • 散在する知識資本を連携させる仕組みづくりで競争力低下に歯止めを。
国際経営開発研究所(IMD)「世界競争力年鑑」※12020年版によれば、日本の競争力総合指数は63カ国・地域で34位と、1989年の統計開始以来で最低となった。競争力を構成する四大分類では「ビジネス効率性」が55位※2と最も低い。具体的な弱点として、同分類内の個別項目を見ると「企業の意思決定の迅速性」「ビッグデータ分析の意思決定への活用」はいずれも最下位の63位だ。企業がデジタル技術を使いこなせず日本の競争力低下を招いていることが、あらためて浮き彫りになったかたちである※3

新型コロナウイルス感染症の拡大は、この状況に歯止めをかける契機となりえる。コロナ禍対策の給付金手続きに時間がかかるなど、企業だけでなく政府や社会のデジタル化対応の遅れが露呈した。一方、デジタル技術が実現させたリモートワークやオンライン診療などについては、安全性や利便性を確保する手段として日常生活で非常に役立つとの認識が一般に広く浸透した。コロナ禍を経た社会では、企業の価値創造や消費者の効用を高めるためにデジタル技術を有効活用する重要性がさらに増す。この機を捉えて今こそ、社会全体でデジタル活用力を高めなければならない※4

日本にとっての朗報は、デジタル技術活用のための潜在力自体は依然として非常に強い点である。同年鑑によると、四大分類の「インフラ」に含まれる項目のうち、日本は「モバイルブロードバンド加入者数」で1位、「インターネットユーザー数」は5位となっている。研究開発によって蓄積・育成されるデータや人材などで構成される知識資本を見ると、「保有特許数」は3位、「研究開発支出」は6位である。

こうした強みを日本の競争力に反映させるには、政府や企業、大学・研究機関に散在している知識資本を結びつけることが不可欠だ。単に研究成果を実用化するための産官学連携ではなく、俯瞰(ふかん)的かつ中長期的な視点に立って知識資本を幅広く活用する仕組みが求められる。アイデア収集やニーズ探索を進める有力なコーディネーターも必要とされるだろう。コロナ禍を経た今度こそ意識改革が進んで、日本のデジタル対応力、そして競争力の底上げにつながるよう強く望む。

※1:IMDはスイスのビジネススクール。毎年6月に「世界競争力年鑑」を公表している。

※2:その他四大分類の日本の順位は「経済状況」11位(昨年16位)、「政府の効率性」41位(同38位)、「インフラ」21位(同15位)で ある。

※3:MRIマンスリーレビュー2018年9月号「国際競争力順位にみる日本企業の弱点」参照。

※4:当社プレスリリース「ポストコロナの世界と日本」(2020年7月14日)。

[図]「 世界競争力年鑑」から見た日本の強みと弱み