マンスリーレビュー

2021年7月号特集1デジタルトランスフォーメーション経済・社会・技術

社会課題を解決する公共・金融行政DX

2021.7.1

公共DX本部木本 昌次

POINT

  • デジタル社会実現に向け、利用者視点でのDXデザインを。
  • 法制度・規制・縦割り行政の変革が、社会全体のDXを主導。
  • デジタル技術活用で課題を解決し、新たな価値創出のステージへ。

1. これからの社会課題解決の鍵=DX

世界最先端のデジタル国家を目指し、ICTを活用して社会システムの抜本改革を進めてきた日本だが、これまでのところよい結果は出せていない。

日本のデジタル競争力は、国連の経済社会局(UNDESA)が2020年7月に発表した「世界電子政府ランキング」では14位、スイスの国際経営開発研究所(IMD)が2020年9月に発表した「世界デジタル競争力ランキング2020」では27位と低迷している。

世界電子政府ランキング上位の国、例えばデンマーク(2020年は1位)では「市民が公的機関や銀行・保険会社などの民間企業からメールを受け取る電子私書箱(Digital Post)」の市民への普及率が90%以上となっている。オーストラリア(同5位)では、「市民の診療記録や検査結果、処方箋などの健康情報データを登録・蓄積し、本人と医療従事者がアクセスできる『My Health Record』と『モバイルアプリHealthNow』」の市民の登録が90%以上であり、インターネット、スマートフォンを活用した公共サービスが十分に受け入れられている※1

これに対し日本は、マイナンバーカードの普及率が2021年5月にようやく30%を達成できたという水準である。公共機関に電子申請できるようになったといっても紙の申請書式を電子媒体に置き換えただけにとどまるなど、利用者が「使いやすくなった、便利になった」と実感できるには至っていない。

われわれを取り巻く環境は目まぐるしく変化しており、今後の社会がどうなるか先読みは難しい。こうした中、サービス対象者が民間分野と比べ圧倒的に多い「公共分野」、規制が多い上、グローバルな対応を求められる「金融行政分野」には、今後の社会環境や制度の変化に迅速に対応でき、かつ利用者に高い満足度を与えることができるサービスの提供が強く求められる。

これまでに構築したシステムをうまく活用、連携すれば、簡単に新しいサービスを創れそうなものだが、実際には思うように進まないことが多い。

抜本改革を阻む根本的理由はどこにあり、どうすれば解決できるだろうか。当社では、利用者視点でのサービス創出をゴールとして意識し、3ステップでDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めることが解決の鍵と考える。

本号は行政の観点から、また、次号では産業の観点から、当社のDXに関する考えを提示する。

2. 公共・金融行政分野のデジタル推進の動向

近年、AI、IoTをはじめとした情報技術の画期的な進歩、また特にインターネット、モバイル端末の普及とともに、これまでなかった高度な機能(リコメンド、AIチャットボット、電子マネー、音声認識・会話など)をもった民間サービスが続々と現れている。

利用者側からすると、公共サービスにも同等以上のものを期待する。実際、海外の中には、民間と同じような先進技術、装置を取り入れた公共サービスを提供できている国もある。

しかし、日本の公共分野では、こうした新しいサービスを十分に提供できておらず、利用者(国民、企業)からは不満が漏れている。こうなってしまうのは次のような構造的理由によると考える。

(ア) 縦割り行政に応じたシステム
縦割り行政の弊害で、省庁や自治体では自らの組織の業務を規範としてシステム設計を進めてしまっている。結果、利用者側からすると一度で済ませたい手続き(例:法人設立に係る手続き)を行政の所掌ごとに行っている。関連するシステム間の連携も、設計仕様、システムライフサイクルがバラバラなため、多大な調整負荷がかかり、期間も要している。

(イ) 連携を阻む規制
前例のない、新しいサービスを行うのには、さまざまな規制をクリア(許可、申請)しなければならない。また、特に金融行政分野は所轄省庁などへの報告、検査に関する細かな規定があり、こうした対応に相当の時間を割かれてしまう。

(ウ) 膨大なレガシー(既存の業務、システム)の存在
公共機関では既に多くの業務が情報システム化され、長年運用されている。ただ、依然として申請書、帳票などで紙の入出力を行っている業務も少なくない。こうした業務の大幅な変更は影響範囲が大きく、情報システム側も大改造が必要である。担当職員には相当量の知識、調整能力が求められるが、短期異動の制約下で十分な体制を敷くのは困難である。


このような障壁を取り払うには、必要な情報を全てデジタル化し、デジタル空間内で参照、処理できるように推進することが必要だ。こうすることで、現在分散されている有用な情報を集約し、同じ空間内で最適に処理する方法を考え出すことが容易になり、調整負荷、時間を大幅に軽減できる。

政府でもデジタル推進に向けて大きく動き始めた。IT基本法を見直し、省庁をまたがる総合調整機能を有する組織「デジタル庁」を2021年9月に設置する。デジタル庁のホームページには、前述の (ア) ~ (ウ) の解消を目指すこと、また、「スマートフォンでワンストップ」「データ資源を活用」「デジタル空間で仕事」といった内容が記載されている。行政事務作業の効率向上はもちろんのこと、国民、企業の利便性が大幅に向上したサービスが登場することを期待したい。

また、金融行政分野においても、2020年10月に自民党から出された金融機関の規制対応の負荷軽減に向けた提言を受け、金融庁と日銀が共同データプラットフォーム(仮称)の構築検討を始めるなど、大きなコストがかかっている規制への対応をデジタル活用により軽減できないか検討が進められている。

ようやく社会全体でデジタル化を促進し、利用者視点でのサービス創出に活用するタイミングとなったといえよう。

3. デジタル社会を実現するためのステップ

デジタルを活用する機運が急速に高まってきているとはいえ、全ての業務、処理をデジタル空間内で行えるデジタル社会を実現するのは簡単ではない。現業務、システム安定運用を維持しつつ、利用者視点に立った設計に変えていくには次のように段階的にデジタル化、デジタル活用度合いを上げていくとよいだろう(図)。
[図] 公共・金融行政DXを目指す3ステップ
[図] 公共・金融行政DXを目指す3ステップ
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出所:三菱総合研究所

Step1:デジタイゼーション

業務中で、デジタル化されていない作業、再度アナログに戻ってしまっている作業を抽出、整理する。紙による申請が変えられない場合は、手早く、正確に記入内容をデジタル化する方法を考える。また、一度デジタル化された後に再びアナログ(紙)に戻ることのないよう、画面上で簡単に確認できるよう全面的に業務手順、書式を変える。これにより業務に関連する情報が全てデジタルデータとなり、場所、時間の制約を受けない環境を得られる。

Step2:デジタライゼーション

Step1の後、単にデジタルへの置き換えではなく、「デジタル化したゆえに業務効率、利用者の利便性を上げることが可能となるサービス提供方法」を実施するものである。制度、業務を見直し、利用者(国民、企業)視点でシステム設計(サービスデザイン思考)をし直し、サービスを提供する。

役所への届け出を例にすると、まずその手続きで登録するデータ、受理判断などのプログラムの所在を整理する。次に各所に散在しているデータや処理プログラムを集約し、必要内容を簡単に探し出し授受できる仕組みを作る。そして業務処理手順や構成するプログラムを見直し、利用者視点に立って、民間分野で活用されているデジタル技術(映像配信、音声認識、位置情報表示など)をフルに活用し、役立つサービスに繋げていく。

Step3:DX(真のDX)

Step3のDXはこれまでなかった新たなサービスを利用者視点から設計し、手早く、簡単に創出し、提供するものである(Step1からStep3を通してDXと呼ぶこともあるため、Step3はこれと区別して「真のDX」と称した)。

方式はStep2で述べたものと同じ仕組みを使うが、この段階で目標とするのはこれまでにない新しいサービスの構築だ。AI、ロボット連携、ビッグデータなどを活用し、利用者がこれまでと違う便利さを実感できるシステムの登場を期待したい。スピードも最重要で、「2、3年かけないとサービス提供ができない」では通用しない。「求める声が上がったら1年以内にサービスを提供できる」ようでありたい。

4. DXに取り組む上での留意点

前節で示したStep1からStep3は、各段階の完了を待たずに次段階に進めるのでもよい。重要なのは、組織内で取り扱う業務のデータや処理操作に関する内容を、システムが違っても確認でき、利用できる仕組みを作っておくことである。こうすることで新しいサービスが求められた際も、必要な情報を集め、迅速にシステム設計を行うことができよう。

さらに、最も実現すべき「利用者視点の新しいサービス」を提供するためには、狙い、効果、デジタル活用イメージなどをビジョンとしてまとめておくべきである。これを創ることで、DXを推進するための組織、必要な人材、ICTインフラが具体的に見え、また、ビジョンの実現を阻害する制度などの要因が明らかになる。

DXへの取り組みは短期で完結するものではない。中期的な取り組みになることを見据え、マイナンバー活用、公的基礎情報データベース(ベース・レジストリ)など、自組織や提供サービスに影響の大きいDX政策の動向に常に注視していく必要がある。また、組織内では継続的にビジョンを振り返り、適宜更新を行うとともに推進レベルが低下しないよう計画的に必要人材の確保、教育訓練を図ることが重要である。

本号では、次頁以降を次のように、公共分野、金融行政分野のDX推進の課題、その解消に向けた具体的な取り組み方法や留意点について述べる。

(1) 中央省庁を中心とした「行政」
(2) 国民の直接の窓口となる「自治体」
(3) 規制報告を伴う「金融行政」

また、次号では個別組織(企業)におけるDX推進に向けての具体策を述べる予定である。

DXに本格的に取り組み、デジタル技術を駆使し利用者視点のサービスの提供を行う「デジタル社会」をぜひ実現させよう。

※1:行政情報システム研究所「令和2年度行政におけるデジタル・トランスフォーメーションの推進に関する調査研究 各国調査レポート」(2021年3月31日)。

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