マンスリーレビュー

2021年7月号特集3デジタルトランスフォーメーション経済・社会・技術

住民と行政のコミュニケーションを変える自治体DX

2021.7.1

公共DX本部青木 芳和

株式会社アイネス 公共ソリューション本部宮﨑 昌美

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • 自治体DXでは共同利用型サービスの活用が効率的かつ効果的。
  • 行政サービスは、オンラインとリアルでの対応に使い分けが必要。
  • 現場を起点とした業務変革ストーリーを描き、公益の最大化を。

持続的な住民支援のために自治体DXを

コロナ禍において、Webサイトでの感染状況確認のほか、特別定額給付金の申請やワクチン接種予約など、住民が行政と関わる機会が増えた。ペーパーレス・コンタクトレスなオンライン申請・予約への期待が高まる一方、高齢者を中心とした情報弱者への配慮が課題として顕在化した。

感染症対策や自然災害発生時の対応のほか、住民の高齢化に伴い「自助」「共助」を進める一方で、今後も生活支援における自治体からの「公助」の役割は大きい。

しかし、生産年齢人口の減少と連動して、自治体職員は2040年までに大幅に減少する見込みだ。住民のよりどころとなる自治体は「業務量の増加」と「職員数の減少」という課題を抱えているのである。持続的な自治体運営を行うためにも、業務改善にとどまらない抜本的な変革、つまり、自治体DXを推進することが、安心して暮らせる社会の必要条件となっている。

標準化・共通化の加速による共同利用促進

政府は、自治体における業務システムの標準化・共通化や住民向けマイナポータルの操作性改善など、インフラ基盤やアプリケーションの整備を進めている。業務システムとのデータ連携仕様の統一も行われ、AI技術などを活用した自治体向けデジタルサービスの種類も増えるだろう。

自治体の数は非常に多い※1ものの、業務内容は似た部分が多い。同じ業務システムやデジタルサービスを複数の自治体が共同利用することはいっそう進むことになろう。自治体DX推進においては、共同利用を前提に既成サービスを組み合わせることにより、デジタル移行の最終形である「真のDX」への歩みを効率的かつ効果的に進めることが可能になる。

自治体DXはデジタライゼーションの段階へ

デジタルサービス導入を都道府県が主導する事例が出てきている。愛知県、岐阜県、埼玉県などで、AIチャットボット、AI-OCR(画像情報の文字変換)、音声テキスト化の共同導入が行われ、これら各県内で多くの市町村が利用し始めている。

行政区域に縛られない広域な生活圏で利用可能となることで、住民の利便性が高まり、デジタルサービスの地域への浸透も進むことになる。

共同導入が進むAIチャットボットなどは、DXの第一段階(テジタイゼーション)である。

コロナ禍を受け、住民票発行などをオンラインで申請可能にする自治体が増えている。現状では、申請内容を紙に出力した上で処理するケースが多く職員の作業負担が増大している。今後は、申請自体のデジタル完結などによる業務プロセスのデジタル化(デジタライゼーション)が求められる。

DXで可能となる住民への手厚いサポート

当社グループは、生活困窮者相談や子育て相談などの自治体相談業務のデジタル活用を促進させるため、神奈川県の横須賀市や秦野市で実証実験を進めている。住民からの相談内容を音声テキスト化の技術を使って文字に起こし、記録票作成に役立てる(Step1:デジタイゼーション)。次に、相談内容の関係部署との共有や、制度・サービスの内容表示、さらには類似事案を抽出する作業が、AIを使ってオンラインで可能となる(Step2:デジタライゼーション)。この過程で蓄積された相談記録データの分析により、ベテラン職員と同等の的確な支援メニューの提案だけでなく、予防対策の実行(Step3:真のDX)が期待できる。

今後の行政サービスは、オンライン対応可能な相談や業務が職員の負荷を減らしてくれる分、オフライン(リアル)で接する必要がある住民を手厚くサポートして、地域福祉の充実など公益の最大化を図るべきだろう。例えばフィンランドのネウボラ※2のような住民支援を全世代に向けて効率的に行うことが、DXによって実現に近づく。

オンライン対応可能な業務が増えることで将来は審査などのバックオフィス系業務を中心に、都市部から地方への自治体間の業務委託、さらには民営化移行の足掛かりとなることも期待できる。

自治体DX成功のポイント

自治体DXを成功させるには、社会課題を起点とした業務変革ストーリーを描きつつ、住民や現場職員などのサービス利用者、さらには首長・幹部職員といった関係者を巻き込み、利用者に極力意識させることなく業務データを蓄積していくことが肝要である(図)。そのデータの分析を重ねることで、業務変革は実現に向かうのである。
[図] 自治体における業務変革ストーリーの描き方
[図] 自治体における業務変革ストーリーの描き方
出所:三菱総合研究所

※1:総務省統計によると、2021年6月14日時点で47都道府県、1,741市区町村(基礎自治体である東京23区を含む)が存在する。

※2:フィンランド語で「助言する場」の意味。自治体が設置・運営する子育て支援センターを指す。母子とその家族を、妊娠から出産を経て就学までの間、一貫して支援する。

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