マンスリーレビュー

2018年9月号トピックス4経営コンサルティング

IPランドスケープの取り組み方

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2018.9.1

コンサルティング部門 経営イノベーション本部松浦 泰宏

経営コンサルティング

POINT

  • 知財情報を経営に活かす取り組みが注目されるが、国内での実績は少ない。
  • 事業戦略、M&Aなどに効果があるが、大企業でもハードルが高い。
  • 知財プラスワンの「スモールスタート」で始めることを推奨する。
欧米企業では、自社内外の知的財産(Intellectual Property)を俯瞰的に分析して、経営戦略や事業戦略の策定に活用する動きが広がっている。この取り組みは「IPランドスケープ」と呼ばれている。日本では、特許庁が2017年に改訂した「知財人材スキル標準(version 2.0)」で初めて使用した。知的財産立国を宣言した2002年ごろからこうした取り組みの重要性は幾度も指摘されてきたが、市場、技術、事業、経営など知財以外の分析機能が必要となるため、実践できる日本企業は大手の一部に限られていた。

知財とそれ以外の分析の組み合わせによって効果が得られる領域は、事業戦略のみならず、研究開発からM&Aまで広範である。例えば、事業戦略では、有望なビジネスモデルや新規事業の提案、研究開発では新規テーマの提案や特定分野の将来展望提示、M&Aでは提携・買収先の選定などに大きな効果をもたらす(表)。

しかし、複数の分析機能を知財部門に集約して実践しようとすることは、一部の大手企業以外には非常にハードルが高いのが現実である。効果的に実現するには戦略的な対応が必要だ。まずは、知財部門がその他の部門、例えば経営企画部門・事業部門・研究開発部門などに知財分析機能を提供して戦略立案する。次にIPランドスケープを社内に根付かせるために、知財部門が扱い慣れている、もしくは必要最低限のリソースで分析可能な案件に絞り込むことが得策だ。

当社のこれまでのコンサル経験から、知財部門の取り組みやすさの観点で、表に示すような知財をプラスワンした五つの分析を推奨したい。たとえば市場分析をプラスする場合、知財の出願状況から競合企業のアクションプランを予測するために、経営企画部門と知財部門が連携することもありうる。審査・監査部門が行っているM&Aや事業提携の相手企業の経済価値算出の精度が知財分析で高まるかもしれない。知財部門とその他の部門が連携して、IPランドスケープをスモールスタートで始め、機動力に富んだ知財活用を実践する企業が多数出てくることを期待したい。
[表]知的財産の効果的な活用方法例