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2018年9月号トピックス2エネルギー・サステナビリティ・食農

海外で開発が進む小型原子炉の可能性

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2018.9.1

原子力安全事業本部阿部 真千子

エネルギー・サステナビリティ・食農

POINT

  • 海外では、小型モジュール原子炉(SMR)開発を官民で推進中。
  • 福島事故の教訓を生かして、高い安全性を追求する設計思想。
  • 再生可能エネルギーとの共存も期待されるが、最優先すべきは国民の安心。
新たな小型モジュール原子炉(SMR : Small Modular Reactor)の開発競争が、海外で急速に熱を帯びている。米国政府は2018年4月、SMR開発で世界の先頭を走っているとされるNuScale社に約4,000万ドルの研究開発資金支援を行うと発表した。6月には英国でも、複数の企業に対する研究資金提供が決まった。

SMRはその名のとおり、核分裂を起こす炉心やタービンに蒸気を送るシステムなどを、小型の発電モジュールに一体で納める。1モジュールあたりの電気出力を5万kW、高さも20~30メートルまで抑えたものが開発されている。太陽光や風などの強さに左右される再生可能エネルギーの出力変動に対する調整電源として、適切な地域に分散配置する使い方も念頭に置かれている。また、発電モジュールは工場で組み立て、トラックなどに載せて運べることから、従来の原子力プラントに比べると、建設にかかる初期投資を大幅に抑制できる(表)。

SMR開発は、2011年の福島第一原子力発電所事故(福島事故)で明らかになったリスクを、大きく低減させる考え方に基づいて進められている。福島事故は、津波により冷却水をくみ上げるポンプ機能が失われて炉心が過熱してしまったことが、直接的な原因とされる。NuScale社が開発中のSMRでは、発電モジュールは地下のプールに設置される予定である。想定外の災害発生で原子炉を冷却する電源や追加的冷却水が途絶したり、運転員による操作ができなくなったとしても耐えうる安全設計(受動安全)を志向している。

SMRの実用化は、開発で最も先行している米国でも2020年代後半ごろになる見通し。建設・エンジニアリングコストを競争に耐えうる水準まで下げるなど、乗り越えるべき課題も多い。従来の原子炉にはない安全設計思想をもつSMRは、日本政府が主力電源化を目指している再生可能エネルギー発電と共存できる可能性はある。ただし、福島事故から日本が学んだように、国民の理解と安心のための、安全への取り組みこそが最優先されなければならない。
[表]従来の原子炉と小型モジュール炉の比較