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2018年9月号トピックス5経済・社会・技術

インパクト投資の裾野拡大に向けて

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2018.9.1

オープンイノベーションセンター浜岡 誠

経済・社会・技術

POINT

  • インパクト投資の促進には起業・事業者と資金提供者の裾野拡大が必要。
  • インパクト評価は、起業・事業者と資金提供者を共通言語で結ぶことが大切。
  • 課題解決志向のベンチャー投資判断に向けて簡易評価シートの活用を。
投資の財務リターンと投資先の事業が生む社会的価値(インパクト)の双方を求める「インパクト投資」が、日本にも広がり始めた。リーマンショックを境に世界の企業経営は利益至上からESG※1、CSV※2といった複眼的なアプローチにシフトしつつある。旧世代とは違う価値観をもつミレニアル世代から、社会貢献意識の高い起業者が台頭しているのも、インパクト投資の興隆と軌を一にするといえよう。日本でも、起業・事業者と資金提供者それそれが裾野を拡大させ、インパクト投資の促進を図ることが、政府資金に頼らず課題を解決するという社会・時代の要請にマッチする。

インパクト投資は、投資目的、資金提供者などでさまざまなタイプに分かれる(図)。期待されるのは、資金提供者が単なるネガティブチェックにとどまらず、ポジティブなインパクトを志向しつつ、財務リターンともバランスを取る形だが、課題はインパクトの測定・評価である。財務リターンは定量・定期的に把握できるのに対し、社会インパクトは数値化するのが難しく、実現に要する期間も予測しにくい。世界的にも議論・工夫が重ねられているが、統一的なスタンダードは確立されていない。

一つの解決策として、投資先のビジネス戦略・成長に着目する考え方がある。社会課題解決を目指す事業計画を資金提供者も共有し、目標に向かう事業の伸長や成果を把握することで、インパクトの実現を間接的にフォローする。このように通常のビジネス評価に近いアプローチを用いれば、一般の民間企業などにもなじみやすく、ベンチャー企業のモチベーションとしても受け入れやすい。資金提供者と起業・事業者が、共通言語でゴールと進捗を共有することが大切である。

未来共創ネットワーク(INCF)※3金融WGでは、「社会課題解決型ビジネスに資金が回る仕組み」を検討する一環として、上記の考え方に基づく「投資判断の簡易評価シート」を作成した。事業の全体像を俯瞰し、活動内容と実現を図る変化、その整合性を確認できる点が特徴である。これを出発点に内外の関係者とも議論を深め、わが国のインパクト投資が量・質両面で世界にキャッチアップする一助としたい。

※1:Environment, Society & Governance(環境・社会・企業統治)。

※2:Creating Shared Value(共有価値の創造)。

※3:三菱総合研究所の提唱により2017年4月に発足した革新的技術とオープンイノベーションを活用して社会課題の解決策を共創・実現するプラットフォーム。
https://incf.mri.co.jp/

[図]インパクト投資の分布範囲