マンスリーレビュー

2019年9月号トピックス1デジタルトランスフォーメーション経済・社会・技術

量子コンピュータ向けソフトウエア開発に投資を

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2019.9.1

未来構想センター澤部 直太

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • 「量子コンピュータ」の実現可能性が高まり、渋滞緩和や創薬などに期待。
  • 「量子アニーリング」と「量子ゲート」にはそれぞれ一長一短が。
  • 柔軟なオープンイノベーション体制のもと、ソフト開発にも早期に投資を。
量子効果を応用した「量子コンピュータ」の実現可能性が高まり、従来型のコンピュータ(古典コンピュータ)では解析が不可能とされてきた難問の一部に解決の糸口が見えてきた。交通渋滞を緩和するための経路探索、新素材開発(マテリアルズ・インフォマティクス※1)、創薬などに有効な組合せ最適化問題※2への適用など、飛躍的な効果が期待されている。

量子コンピュータの方式には、「量子アニーリング方式※3」と「量子ゲート方式※4」の2種類がある。量子アニーリング方式は2011年にカナダのD-Wave Systems社が商用マシン1号機に実装して注目を集めた。同方式の特徴は、「組合せ最適化問題を高速に解ける」「商用化で先行している」「今後数年でより大規模な問題も解けるようになる可能性がある」ことにある(表)。比較的短期に成果が期待できるとして、NEC、日立製作所、富士通といった国内の大手IT企業が量子アニーリング方式のマシンの開発に注力し、電力、航空のシミュレーション分野などでの実用化も進み始めている。

一方、古典コンピュータのような汎用性が期待されるのが量子ゲート・マシンである。Google、IBM、Intel、Microsoftなどの米国IT企業、Alibaba、Baiduなどの中国勢は、汎用量子コンピュータ市場に対して巨大資本を投入している。開発には10年以上かかる見込みだが、将来市場における主導権を狙う格好である。

量子アニーリング方式は組合せ最適化問題しか解けず、量子ゲート方式の実用化には時間がかかるといった課題もある。今は旺盛な投資意欲も減少するおそれがあるが、日本は将来の革新的な応用を考え、継続的な研究開発を推進すべきである。ハードウエア開発がある程度進むと、次の主戦場はソフトウエア開発となるはずだ。量子コンピュータ上でアプリケーションを動かすためのソフト開発投資を増やし、国際競争力も高める必要がある。その際、オープンイノベーションなどを活用してハード・ソフトの枠を超えてさまざまな研究者や民間企業が集えば、ハードウエアの主流がいずれの方式になったとしても柔軟に対応ができるだろう。

※1:データマイニングや機械学習などITを駆使して、新素材を効率的に開発する手法。
MRIマンスリーレビュー2017年11月号特集「マテリアル革命が日本を救う」参照。

※2:膨大な選択肢から最適な組合せを得ることを目的とした問題。「巡回セールスマン問題」(与えられた複数都市を1回ずつ訪問し、最後に出発した都市に戻る場合に、最短となる経路を求める問題)が有名。

※3:東京工業大学の西森秀稔教授が1998年に提唱した原理を利用した量子コンピュータの方式。組合せ最適化問題に特化している。

※4:量子力学における重ね合わせの原理を利用した量子コンピュータの方式。古典コンピュータと同様の汎用性を備える。

[表]量子コンピュータのハードウエア開発状況