新制度で森林資源活用を本格化させるには

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2019.9.1

地域創生事業本部宮﨑 昌

地域コミュニティ・モビリティ

POINT

  • 民有林の資源活用を促進するため新たな制度と税制が整備された。
  • 森林所有者だけでなく消費者や市町村も巻き込んで事業性確保へ。
  • 自治体や企業の意識変革に乗って市場を急拡大させることも可能。
民有林の活用を、自治体が仲介して加速させる法制度※1が2019年春に整備された。2014年から個人住民税に一律して上乗せされてきた年額1,000円の「復興特別税」を引き継ぐ新税を創設し、国が年間約620億円を、市町村を中心とした自治体に配分する。

森林経営をめぐっては、国産材が競争力のある輸入材に押され採算確保が難しく、所有者や境界が不明で管理が十分行き届いていないことが課題とされてきた。新制度では森林所有者だけに責任を負わせるのではなく、消費者(納税者)や市町村も巻き込むかたちで難局の打開を図る。市町村と都道府県は安定財源を得ることで、森林資源活用への主体的な参画が可能となる。

新制度導入前から積極的に取り組んでいる地域がある。一例は福島県会津地域の13市町村が2016年度に着手した広域での連携である。森林資源の量や生産能力が異なる地域が行政単位を超えて結びつき熱利用に使う木質チップの需要喚起や国産材の販路開拓などを進めている。新税による財源確保はこうした取り組みの追い風となる。

企業にとっても状況は変わりつつある。国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」が話題となる中、森林資源活用は地域経済との共存共栄を目指せる事業領域として注目されている。コマツは創業の地である石川県小松市の工場で、県や森林組合と組んで調達した木質チップを燃やして得た圧縮空気・電気・熱を、生産に活用している。また、福井県あわら市の「あわら三国もりもりバイオマス」事業では木質チップを燃やして沸かしたお湯を宿泊施設に安定供給し、地域経済をけん引する企業・旅館・銀行など地元のステークホルダーが総ぐるみで参画している(表)。今後は新制度を通じて、かつては考えられなかったような企業の参入も期待できる。

新制度では、年間2,500億円規模とされる国内林業の付加価値を今後10年間で倍増させる計画。新規参入による成功例が相次げば、市町村と地元のステークホルダーの意気も上がり、市場拡大を後押しする好循環が期待できる。実需をとらえて資源活用が進んだ先例に倣えば、付加価値倍増は夢物語ではない。

※1:2019年4月1日に施行された森林経営管理法に基づく自治体による森林整備に充てるため「森林環境譲与税」が自治体に譲与されることとなった。間伐などの森林整備、人 材育成などに充てられる。2024年度に導入される「森林環境税」に先行して施行された。

[図]自治体・企業による積極的な森林資源活用例