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2020年5月号トピックス6経済・社会・技術経営コンサルティング人材

働き盛り世代の精神的「人的資本」を向上させる

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2020.5.1

プラチナ社会センター奥村 隆一

経済・社会・技術

POINT

  • 「人的資本」は精神面を含む広がりのある概念に変化してきている。
  • 30〜50代就業者は、精神面の人的資本の満足度が低い可能性がある。
  • やりがいのある仕事とチーム力が精神面の人的資本向上の鍵に。
働き方改革関連法※1が大企業から順に適用されつつある。企業の労働環境を改善するための取り組みにおいて何が大切なのか—。この問題について「人的資本」の観点から考えると、30〜50代の「働き盛り世代」の就業意欲を満たすための労働環境の整備が不十分である状況が浮かび上がる。

人的資本とは、人間がもつ能力を「資本」として捉えた経済学上の概念であり、就業者の能力の発揮度を示している。近世の工場労働社会から現代の知識労働社会への移行に伴い、「稼得能力」に限らず「就業満足」を含む、広がりのある概念に変化した。

当社では国内の就業者約2万5,000人を対象としたアンケートの結果を活用し、OECDの人的資本概念※2を参考に、年代別の人的資本の大きさを指標化するための調査を実施し※3、因子分析※4を試みた。「主に年収や労働生産性の影響の大きい因子(経済的価値因子)」と、「主に労働満足度や能力発揮満足度の影響の大きい因子(非経済的価値因子)」の二つが抽出されたことから、それぞれを横軸と縦軸に置き、年代ごとに人的資本に関係する因子スコアの傾向を調べた。注目すべきは、30〜50代になっても非経済的価値因子スコアが20代と変わらない点である(図)。

精神面の満足度(人的資本向上度)が不十分な可能性がある。経済的価値因子と非経済的価値因子のバランスを保ちつつ人的資本を高めるにはどうしたらよいか。調査では満足度や充実感のあるワークスタイルも調べている。30〜50代においては、「満足感や充実感のある仕事」(1位)「自分の強みを活かせる仕事」(2位)「ストレスをかかえない仕事」(3位)が、それぞれ上位を占めた。このほか、「仕事関係のつきあい」「同じ価値観をもつ仲間」などのキーワードも浮かび上がった。

働き方改革で重視される「同一労働同一賃金の実現」と「残業抑制」とは別に、前出の要素を充実させることが、企業活動を支える働き盛り世代の人的資本を向上させる手だてになろう。仕事の中身(充実できる仕事や、強みを発揮できる仕事)とチーム力(良い職場関係)への注目は今後も高まるだろう。

※1:2018年6月成立。2019年4月1日から順次施行。

※2:OECDは2001年に人的資本を「個人的、社会的、経済的厚生の創出に寄与する知識、技能、能力及び属性で、個々人に具わった もの」と定義した。内閣府「人的資本の測定に関する指針(仮訳)」(2016年)

※3:調査概要
20歳以上を対象に2015年から2019年にかけて当社で実施したWebアンケート調査計15万人の回答サンプルから、「会社員(正社員)」「団体職員」を抽出し、24,990人のデータを得た。

※4:「年収(個人)」「生産性」「仕事満足」「能力発揮」「社会貢献」「みんなの幸せ」の6種類のデータを投入変数として、因子分析を行った。第1因子は主に「個人年収」と「生産性」の2項目で構成されており、「経済的価値」因子と命名した。第2因子は主に「仕事満足」と「能力発揮」の2項目で構成されており、「非経済的価値」因子と命名した。第2因子である非経済的価値は、大きければ大きいほど、仕事を通して自分自身にプラスの価値を与える能力が高いと考えられる。

[図] 人的資本に関係する因子の年代別平均スコア<sup>注</sup>