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人材流動化時代の企業戦略 第1回:中途採用は「最適な手法」で「欲しい人材」を獲得する時代に

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2021.11.29

キャリア・イノベーション本部大橋麻奈

MRIトレンドレビュー

POINT

  • これからの中途採用は欠員を補充する受け身の採用ではない。
  • 転職潜在層も対象にし、戦力的に欲しい人材を獲得する。
  • この視点に立って、企業は潜在層へのアプローチや働き方改革などを工夫し最適な手法を考える。
日本の企業は、従来型の中途採用を見直すべき時期を迎えつつある。本コラムでは、その背景事情を探るとともに、企業事例を通してこれからの中途採用戦略について考察する。

日本の「人手不足」は解消されていない

2021年9月時点で、新型コロナウイルス感染症の収束は道半ばであり、飲食業や観光・宿泊業などの産業では事業遂行において厳しい環境が続いている。2020年度の平均完全失業率は前年度より0.6ポイント上昇、完全失業者数は前年度比36万人増加、平均就業者数は前年度に比べて69万人減少するなど、労働市場全体にマイナスの影響が生じているといえる※1

一方で労働需給に着目すると、日本全体での人手不足傾向が解消されたわけではない。1人の求職者に対して求人が何件あるかを示す有効求人倍率は2021年4月には1.12倍まで回復している。2019年度を通してみられる1.5倍前後の水準からは下落したものの、いわゆる「売り手市場」の状態に戻りつつある※2。また、マイナビが2020年12月に実施した「マイナビ人材ニーズ調査」によれば、2021年の採用予定数は正社員(新卒採用、中途採用とも)に加えて非正社員(契約・嘱託社員、パート・アルバイト、派遣社員)でも採用予定数は増加予定となっており、企業の採用意欲も依然高いことが伺える※3

転職、中途採用という人材流動の視点で整理しても、労働市場は活発であった。転職者数は2011年頃から増加傾向にあり、新型コロナウイルス感染症拡大前の状況ではあるが、2019年には2002年以降で過去最多の351万人となった。転職の理由についても、「より良い条件の仕事を探すため」が2013年以降増加傾向となっており、労働市場の活況を背景により良い条件、より良い環境での就業を求めて労働者が移動していることが考えられる※4

労使双方が期待する中途採用

近年、中途採用が活発になっている背景としては、求人を出す企業側、転職活動を行う転職希望者側双方にとって流動化メリットが増したからと考えられる。

企業側が中途採用を実施する理由は2点。第1は企業の人手不足の進展である。日本社会全体が人手不足傾向の中で、企業は新卒採用のみで必要な人材を獲得することが難しくなっている。また、就職氷河期やリーマンショックなどの過去の不況時に採用を絞り込んだ企業では社内の人員構成に偏りが生じており、中堅層から若手管理職層など次世代を担う世代が不足していることもある。

第2は、多様な人材獲得の必要性が高まっていることである。技術革新や社会課題が複雑化する中で、企業の継続的な発展・成長のためにはこれまでに社内にいないタレントやノウハウ、人材の登用が必要になっている。

一方で転職活動を行う労働者側にとっては、自身がより活躍できる、あるいは働きやすさを職場に求める傾向が強まっている。理由の一つは働き方の変化である。何らかの条件(家事、育児、介護、病気治療など)を前提に働くことは一般的となり、多くの人が仕事とプライベートを両立する環境を求めるようになった。もう一つはキャリアの長期化である。「人生100年時代」の到来によって「働く」時間が長くなる中で、長期に活躍できるスキルの獲得やキャリアの構築が必要になっている。

転職は労働市場における企業と転職希望者の出会い、マッチングの機会である。より良いマッチングが実現すれば、企業は自社の企業理念や成長の実現を支える即戦力を獲得でき、転職希望者は自身がより活躍できる環境に身を置くことができる。企業の成長と労働者の活躍実現のため、中途採用市場の環境整備は就業者の活躍を目指す行政にとっても重要な政策課題となっており、「転職したい人が転職活動しやすくなる」「転職希望者がより自分に合った職場(企業)とマッチングできる」環境の実現を目指して取り組み※5を進めている。

独自の手法を模索する企業

以上のように、転職に対する企業、人材側の期待が高まる一方で、より良い転職環境の整備には遅れが見られ行政なども急ぎ対応を進めている。こうした中、自助努力により現状の打開を図ろうとする企業も登場している。従来の採用手法から転換し独自の工夫を模索する事例を2つ紹介※6する 。

第1の事例では、「自社を見つけてくれた人」を採用するための工夫を実施している。通信販売を中心に展開する、ある企業では、数年前に中途採用を紹介会社による推薦や紹介ではなく、自社への直接応募に切り替えた。これは、「自分で会社を見つけて応募してくれた」人たちを大事にしたい、という企業の判断によるものである。採用活動は、原則自社ウェブサイトに求人情報を掲載し、希望者本人からのエントリーによる応募に一本化している。

さらにエントリー時に動画の提出を求めた。あえて応募時の作業負荷を高めてハードルを上げることで、「この企業で働きたい」という転職意欲が高い人による応募に絞るための工夫である。求人への応募数自体は減少したが、採用担当者にとっては選考の効率化につながった上、同社にとって望ましい人材の応募が増えた。結果として中途採用は好調だという。

次いで紹介するのは、転職潜在層への直接的なアプローチに打って出た生活用品の製造小売業の事例である。「同社にぜひ入りたい」という強い気持ちで選考に臨む人を増やすために、潜在的な転職層に同社自らが直接アプローチする採用戦略に転換した。特に採用競争が厳しいエンジニアを対象としたハッカソンを開催。採用に直結しないイベントをあえて開催することで、同社においてIT人材が活躍する可能性を知ってもらうための機会としている。このイベントのポイントは、これまで同社を自分の働く場として認識してこなかった層に、「転職したら活躍できる企業なのだ」と知ってもらうこと。イベント参加者を観察して、採用候補者には企業側から個別にアプローチ。参加者に企業理解を深めてもらうとともに、ダイレクトリクルーティングの場としても活用している。

これからの中途採用戦略

前出の2つの企業事例からは、「欠員募集の中途採用」から「計画的な中途採用」への移行、人材紹介会社を経由しない独自の採用、人材像の明確化や理念への共感の重視といった、人材の長期定着を目的とするマッチング確度をあげる採用戦略上の工夫など採用戦略上の工夫がみられる。

日本のいわゆる大企業の正社員については、新卒一括採用を基本として人材を獲得・育成することが採用戦略の中心となっており、欠員が生じた時に実施する「不定期」かつ「例外的」な施策として中途採用を位置付けることは、これまではよくみられた。そのため、人材紹介会社などを活用して、確実に転職希望者にアプローチし求人募集に対して早期に人材を獲得することが合理的な選択であった。しかし、社会環境の変化や中途採用の重要性が高まる中で、中途採用も戦略的に実施する必要性が高まっている。特に売り手市場の近年は転職希望者が複数内定を獲得することも珍しくない。企業は「選ばれる立場」となっているのだ。そのため、優秀な人材を転職市場で獲得するために、自社の採用戦略を見直し、その中で、独自の採用手法や工夫に取り組む、前述のような企業も出てきている。

既に中途採用は人材獲得の重要手段となりつつある。中途採用市場での競争を企業が勝ち抜くために必要なことは何か。

企業は採用戦略を見直し、明確化すべきである。採用候補者に期待する職務要件や求める専門性の内容は企業の経営戦略や人材戦略と合致しているだろうか。活用している採用チャネルは欲しい人材を獲得するために最適な手法だろうか。「転職者から選ばれる側」に立った時に人材戦略に沿った人材とコンタクトを取ることができ、その採用候補者に魅力的と思ってもらえるような情報提供・採用活動を実施しているだろうか。これらの点について、改めて考える時期に来ているだろう。

一方、企業を顧客とする人材紹介会社などの人材サービス事業者には、サービスの高付加価値化が期待される。転職希望者の母集団を随時形成し、企業の求人に対して候補者を紹介できることは大きな強みである。本コラムで紹介した取り組みはそれなりに手間がかかるため、あらゆる企業で行えるわけではない。中途採用の現場において人材サービス事業者への期待や果たす役割は引き続き大きい。また、中途採用の重要性が高まり、社内で中途採用者が増加すれば、人材サービスを活用して獲得した社員の定着・活躍等の入社後のパフォーマンスを評価することが一般的になるだろう。顧客満足度を高めるためには、今後はより「求める人材要件に合致した採用候補者を紹介できるか」「早期に適応し活躍する人材を紹介できるか」が重視されるだろう。企業に対しては募集要件策定の支援、転職希望者に対しては本人のスキルや経験を元に、より活躍できる職場の提案など、精度の高いマッチングを実現するサービスの展開が期待される。

新型コロナウイルス感染症による社会の変革は、企業の事業構造変革をさらに進めるだろう。今後、企業の持続的発展を牽引する人材の獲得はより重要な経営課題となることが予想される。転職希望者から“選ばれる”企業となるために、人材戦略の刷新が求められている。 

※1:厚生労働省労働力調査
https://www.stat.go.jp/data/roudou/rireki/nendo/pdf/2020nd.pdf

※2:新卒学生およびパートタイムを除く数値。本コラム執筆時の最新数値(2021年9月)は1.17である。
「新型コロナウイルス感染症関連情報:新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響 国内統計:有効求人倍率」(労働政策研究・研修機構)
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/c07.html#c07-1

※3:「マイナビ人材ニーズ調査」(株式会社マイナビ)
https://www.mynavi.jp/news/2021/01/post_29467.html

※4:総務省統計局 統計トピックスNo.123
https://www.stat.go.jp/data/roudou/topics/topi1230.html

※5:具体的には法律(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)を改正し、2021年4月1日より大企業(常時雇用する労働者が301名以上の企業)において正規雇用労働者の中途採用比率の公表が義務化された。日本ではいわゆる大企業を中心に新卒採用中心の採用戦略により、全社に占める中途採用者の比率が少ない傾向にあるが、個別企業が中途採用比率を公表することで、漠然とした「中途採用者は活躍できないのではないか」といった不安を払しょくし、転職希望者が転職市場に踏み出す後押しとなることを期待する取り組みである。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=341AC0000000132

※6:本コラムで取り上げる企業の取り組みは厚生労働省委託事業「企業等の採用手法に関する調査研究事業」での実施によって得た情報を元にしており、2019年度時点の情報に基づく。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000089556_00009.html

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