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2020年5月号トピックス2ヘルスケア・ウェルネス

感染症対策に分野横断的なデータ活用を

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2020.5.1

ヘルスケア・ウェルネス事業本部滝澤 真理

ヘルスケア・ウェルネス

POINT

  • 感染症対策での「ヒト、動物、環境、食品」連携が日本では不十分。
  • データを収集・共有する新たなプラットフォーム構築が有効。
  • 行政だけでなく民間の視点も活用すれば感染症対策に多大な効果。
重症急性呼吸器症候群(SARS)※1はコウモリ由来とされ、マラリアを媒介する蚊の生息域も温暖化により広がっている。ヒトが健康であるには動物、環境、食品も健全でなければならない。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な大流行もあって、ヒト、動物、環境、食品の衛生に関する課題解決に関係者が連携して取り組む「One Health※2アプローチ」の重要性が増している。

海外では欧州疾病予防管理センター(ECDC)がデータ収集・交換のための共同組織※3を設立した。だが、日本ではヒトの医療と環境分野をはじめとして有識者の交流が乏しく、分野横断的なデータの共有や解析があまり進んでいない。このためリスク評価が十分にできず、課題認識の共有や効果的な対策の検討に至っていない。

One Health アプローチには、リスク評価や対策の検討、施策評価に使用できる情報を導くための「One Health Data」を定期的に収集・共有するプラットフォームづくりが必要である。対象データは感染症の発生や拡大に関係するもので、具体的には気温・水温・湿度・土壌・気象に関する環境情報、病原体の性状、予防接種率、野生動物の生息状況、ヒトやモノの流動実態などである。こうしたデータをプラットフォーム上で共有して有機的に統合すれば、自然界での病原体の動きや発生メカニズムが捉え切れるようになる。これに伴い、科学的な根拠に基づいた感染症対策の強化が可能になり、ひいては健康寿命の延伸や医療費抑制、経済的損失の縮小にもつながる(図)。有識者の交流拡大に向けてはヒト、動物、環境、食品に関係する学会が情報共有や議論ができるよう一堂に会する場を設けることも効果的だ。

One Health Dataのプラットフォームは、行政が感染症対策に関して急な施策判断を迫られた際などに有効活用できる。民間にとっても、感染症に関する新たな科学的知見やデータを活用すれば、抗微生物剤などの医薬品や、個人の感染防止に資するアプリ、感染症の拡大や対策の効果を可視化するシステムなどの開発が可能となる。そうすれば、官民連携による感染症対策に多大な効果が見込めるだろう。

※1:2003年に大流行したSARSや現在のCOVID-19のように、新たに感染源の存在が発見されたり、一時的に制圧されたかに見えながら再び猛威をふるうものは「新興・再興感染症」といわれる。

※2:One World,One Healthの略。2004年に野生生物保全協会(WSC)が米国での国際会議で提唱した。

※3:組織名はEuropean Environment and Epidemiology (E3) Network。環境や社会の変化が感染症疫学に与えうる影響をモデル化するため、気候、環境、人口統計、感染症に関するデータを関係者が収集・共有する。

[図]One Health Data活用の具体像

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