マンスリーレビュー

2018年5月号トピックス2スマートシティ・モビリティ

公共施設はリノベーションで再生する

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2018.5.1

次世代インフラ事業本部川口 荘介

スマートシティ・モビリティ

POINT

  • 公共施設の老朽化対策は財政難が大きな課題。
  • リノベーションによるコスト縮減に期待。
  • 成功事例のノウハウを共有すれば利用はさらに拡大する。
学校や保育所、公民館といった公共施設の多くで老朽化が進んでいる。需要が減った施設の廃止に着手している国や地方自治体も多い。建て替えや改修の大量発生は、公共の施設整備予算を確実に圧迫する。さらなるコストの抑制と効率化が求められるが、有力な解決策の一つに、リノベーションによる施設の用途変更がある。

リノベーションは建物の構造体(躯体)を残して外壁や内装、設備機器を更新したり、部屋の間取りを変更したりする建築・設計手法である。民間では老朽化したマンションやオフィスビルなどの不動産価値を、施工費用を抑えつつ向上させる手法として普及が進んでいる。

公共施設をリノベーションする利点は、行政にとっては新規に建設するより低コストで施設の転用を図れることにあり、地域の住民や企業にとっては、用途の変更により新たな付加価値が生まれることにある。外観の保全が可能なため、地域のシンボル的な施設を用途変更する際に地域住民の思い出を残せることも重要な利点だろう。

地域の特性やニーズに応じたさまざまなリノベーションが進み始めている。旧千代田区立練成中学校の校舎は、文化芸術振興と地域コミュニティ向けの多目的施設としてリノベーションされた。アーティストの滞在施設を設ける一方、カフェやオーガニック菜園を併設して卒業生や住民の憩いの場として利用可能にした。富山県氷見市では県立高校を市庁舎に転用した。富山市総合体育館内では施設の一画をリノベーションし、市内をランニングやウオーキングで巡る拠点として活用されている。

しかし、課題もある。リノベーションの特性上、標準規格での設計・工事手法を適用できない。人材不足や設計・工事期間の長期化、あるいは最新の建築法令への対応(既存不適格条項)などで、コストメリットが限定される可能性がある。それらに対処したノウハウが共有されにくいという公共施設固有の問題もある。実績豊富な設計者や工事業者のデータベースの作成や、認定・マイスター制度の導入によって、ノウハウを引き継げる環境を整備することも有効と思われる。
[図]学校校舎から文化芸術復興施設へのリノベーション(イメージ)