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2018年5月号トピックス1テクノロジー

新たな海洋立国を目指し自動航行で国際競争力を確保

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2018.5.1

科学・安全事業本部武藤 正紀

テクノロジー

POINT

  • 第3期「海洋基本計画」が閣議決定。今後5年間の方向性が示された。
  • 海運や造船の国際競争力確保に向けて航行自動化の実現が重要に。
  • 先端ICT利用と海外勢との共同開発で国際競争力あるイノベーションを。
四方を海に囲まれ世界第6位の管轄海域※1を有する日本は、海に経済活動を支えられている海洋国家である。現在日本は、「新たな海洋立国」を実現するべく※2、今後5年間の海洋政策の方針を示す第3期「海洋基本計画」※3で、海運や造船の産業振興に加え、海洋資源・エネルギー産業の発展に関する指針を重点テーマに打ち出している。とりわけ海運・造船分野への注目度は高い。現在、東南アジアなどの経済発展に伴い海上物流の需要が活況を呈している。中国や韓国などとの国際競争も厳しさを増している。

2018年4月には国内主要3社のコンテナ船事業を統合した新会社Ocean Network Express(ONE)が事業を開始するなど、体制面での事業構造改革が進みつつある。今後、技術面で日本が国際競争力を発揮するには、AIやIoT(モノのインターネット)、ビッグデータを利用するなど、船舶航行の自動化・効率化を推進することが重要となる。同分野では欧州が先行している。しかし、日本も政府と国内各社が連携し研究開発に着手し、欧州を猛追している。

自動航行が実現すれば、船舶事故の原因の約8割を占めるヒューマンエラーが削減される。船員スペースやブリッジも縮小でき貨物搭載量も増える。安全性、効率性の両面で向上を図ることができる。国内の社会課題を解決できるというインパクトも秘めている。例えば、離島航路での船舶航行を自動化できれば、運用コストの圧縮が期待できる。自動航行船の普及は、海洋立国として日本が取り組むべき重要課題と考えられる。

もともと日本はプロペラ効率や省エネ性能などの造船技術に優れている。船舶用センサーなどIoT関連の技術力も高く、船舶衝突回避や自動離着桟(出船・入船管理)といった技術面の課題解決に向けて、他国と競っている。しかし、国内には、漁業調整のため実証海域確保が難しいなどの課題もある。今後、海外海域での自動航行実証も考慮してよいだろう。海外勢と共同開発できれば国際競争力確保にもつながる。シンガポールなど海路の混雑が課題となっている国は連携先として有望だろう。広く戦略的な視野をもって、イノベーションを起こし(表)、海洋立国への道を着々と進むことが重要である。

※1:日本の領海および排他的経済水域(EEZ)。面積は約447万km2

※2:「海洋基本法」第1条で規定。

※3:おおむね5年に1回改定。2018年5月に第3期計画が閣議決定された。

[表]船舶の自動航行に関する主な技術課題とイノベーション戦略