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2021年1月号トピックス1経営コンサルティング

未来起点のオープンプロセス・イノベーションを

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2021.1.1

未来共創本部鈴木 智之

経営コンサルティング

POINT

  • 従来のオープンイノベーションの多くは短期的な経済メリットが動機。
  • 未来起点で社会のために異領域のプレーヤーが共創することが必要。
  • プロセスを透明にして共感を醸成するオープンプロセスが鍵となる。
新たな事業育成を目指す企業にとって、オープンイノベーションはなじみの深い言葉になってきた。産官学をつなぐプラットフォームやイベントが増えてスタートアップへの国内投資も盛んになり、イノベーション共創の土壌は確実に広がっているからだ。しかし、実践面からすると、従来のオープンイノベーションの多くは、短期的な経済メリットが動機となるケースが多い。

社会課題を解決するには単一の事業やソリューションでは不十分である。一例として、血液一滴の検査でがんの有無が診断できるスクリーニング技術開発が挙げられる。がんを早期発見して体への負担も少なく治療できれば、健康で働き続けられる社会に一歩近づく。だが、包括的な課題解決に向けては、検診機関のオペレーション改革、受診者のリテラシー向上、精密検査を勧められた人の心のケア、進行の遅いがんを早期に見つけてしまうことへの倫理面の議論など、周辺課題が山積している。それらも含めて解決しなければ、真に社会へインパクトを与えるイノベーションには育たない。

それには異なる領域のプレーヤーが、共通の未来に向け解決に取り組む必要がある。インパクトを束ねて課題解決を共創していくのである。さらに、プロセスの透明化が重要だ。共に創る未来の意味をビジョンやミッションから議論し、過程を公開することで共感の輪を広げ、仲間を増やしていく(図)。こうした「オープンプロセス・イノベーション」の構図を築けるかが、成功の鍵となる。

この動きは国内でも広がりつつある※1。当社も2020年7月、社内外の有識者が座談会形式で議論してコンセプトを深化させ、アクションへつなげる共創コミュニティ・メディア「ThinkLink」※2 を立ち上げた。議論の内容を公開するほか、当社の未来社会研究 「50周年記念研究」※3 の中間成果の一部をコラムとしてまとめて発信している。これまでに、モノづくりの民主化、未来のクリニック、身体拡張とバリアフリー、消費が生産に合わせる社会、などのテーマをとりあげた。技術や事業ではなく、未来を起点として、Think(構想)とAct(実装)を公開しながら未来へのインパクト創出を目指している。

※1:「NEC未来創造会議」は有識者にとどまらず未来を議論していくため高校に授業を提供。東京工業大学の「未来社会DESIGN機 構」は検討した将来の社会像を明快な未来年表としてまとめ、公開している。

※2:https://thinklink.mri.co.jp

※3:https://www.mri.co.jp/50th/anniversary_research/

[図] オープンプロセス・イノベーションのイメージ