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空飛ぶクルマという新規事業:第1回 社会実装に向けたポイント

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2020.12.4

1. はじめに

近年、人や物の新たな移動手段として、「空飛ぶクルマ」と呼ばれる電動で垂直離着陸が可能な小型の航空機の開発が進められている。諸外国では、都市部における自動車の渋滞や排出ガスの問題を緩和する手段として、空飛ぶクルマを用いた交通サービスの導入に関心が高まっている。日本においても、複数の企業が空飛ぶクルマに関わる事業への参入を表明しており、都市部における移動時間の短縮や離島・山間部での利便性の向上、緊急時の迅速な移動の実現に向け、今後導入が期待されている。

空飛ぶクルマはどのように社会に導入され、どのようなインパクトをもたらすのか。そしてどのような新規事業のチャンスとなりえるのか。複数回にわたる連載を通じて考えていきたい。

連載第1回の本稿では、空飛ぶクルマサービスの実装において大きな課題になると考えられる社会受容性をテーマに取り上げる。当社は、空飛ぶクルマに関する社会受容性について6万5,000人以上を対象に国内で初めてとなる大規模アンケートを実施した。空飛ぶクルマによって「空の移動の大衆化」がもたらされるといわれているが、果たしてどのように受け止められているのか考えていきたい。

2.「空飛ぶクルマに関する社会受容性アンケート」実施概要

  • 有効回答者数:65,703人(年齢:20~80歳の男女、対象地域:全都道府県、性別・世代別・都道府県別に均等割り付けを実施)
  • 調査方法:全国Webアンケート
  • 調査実施日:2020年8月25日~8月27日
  • 調査内容:現状の移動手段、空飛ぶクルマの認知状況、空飛ぶクルマの利用意向、空飛ぶクルマの利用用途、社会受容性、不安要因などに関する意識の把握
  • 実施主体:三菱総合研究所

3. アンケート結果

3.1 認知度

空飛ぶクルマについて知っているかを尋ねる質問では、「よく知っている」あるいは「ある程度知っている」、とした回答は全体の7%にとどまり、「聞いたことはある」が26%、「知らない」が67%に上った(図1)。
図1 空飛ぶクルマの認知度
図1 空飛ぶクルマを知っている人の割合を示した円グラフ
出所:三菱総合研究所「空飛ぶクルマに関わる社会受容性アンケート」(2020年8月実施)
諸外国の状況に目を向けると、2018年6月に米国で実施されたアンケートでは、空飛ぶクルマ(Urban air mobility)のコンセプトに詳しいか、という質問に「はい」と回答した割合は23%で、「いいえ」が63%、「わからない」が14%であった※1

図2に示した通り、空飛ぶクルマは2018年頃からメディアで取り上げられる機会が増えた。それにもかかわらず、2020年の今回の国内調査で空飛ぶクルマを知らないと回答した人の割合が67%と、2018年に行われた米国の調査と同水準にとどまったことは、日本における認知度に課題があることを示している。
図2 「空飛ぶクルマ」をキーワードに含む記事件数の推移
図2 メディアで「空飛ぶクルマ」が取り上げられた件数を示した2005年から2019年までの棒グラフ
注:「空飛ぶクルマ」をキーワードとして含むニュース記事の件数を年次ごとに集計して作成
出所:三菱総合研究所
認知度の低さは、空飛ぶクルマの社会受容性を高めるための課題となる。今後、日本で空飛ぶクルマの導入について議論するためには、まずは幅広い世代・地域の人々に空飛ぶクルマの詳細を知ってもらうための働きかけが必要になるといえるだろう。

3.2 受容性

空飛ぶクルマによる運航サービスを行うためには、飛行地域における受容性も重要となる。

居住地域上空を空飛ぶクルマが飛行するとして、どの程度の頻度であれば許容できるかという質問に対して、59%は1日に1回程度以上の頻度を許容できると回答した。また、緊急時ならよいと考える回答者は全体の31%であった(図3)。
図3 許容できる飛行頻度
図3 居住地域上空を空飛ぶクルマが飛行することをどのくらいの頻度であれば許容できるか、割合を示した円グラフ
出所:三菱総合研究所「空飛ぶクルマに関わる社会受容性アンケート」(2020年8月実施)
受容性に関しては、空飛ぶクルマの認知度と許容できる飛行頻度に相関がみられ、図4に示した通り、空飛ぶクルマをよく知っている回答者ほど頻繁な飛行を許容する傾向が顕著であった。一般に、新技術の社会受容性の醸成においては、技術のリスクを理解した上で、それを上回るメリットを人々が感じるかどうかがポイントとなる。空飛ぶクルマは、まだ商用化されていないモビリティであることから、「聞いたことはある」、「知らない」と回答した人の多くは、導入のメリットやリスクについてイメージがわいていない可能性がある。まずは積極的な情報発信や話題づくりによって認知度を高めることが、運航に関する受容性向上に有効と考えられる。
図4 空飛ぶクルマの認知度と受容できる飛行頻度の関係
図4 空飛ぶクルマの認知度と許容できる飛行頻度の相関を示した帯グラフ
出所:三菱総合研究所「空飛ぶクルマに関わる社会受容性アンケート」(2020年8月実施)

3.3 利用意向

回答者は空飛ぶクルマに何を望んでいるのか、利用を検討する際に重視することについて尋ねたところ、「安全性・信頼性」、「料金の安さ」、「時間短縮効果」が重視される傾向がみられた(図5)。
図5 空飛ぶクルマの利用を検討するにあたって重視すること
図5 空飛ぶクルマを利用する場合に何(安全性や料金の安さなど)を望むか傾向を示した横棒グラフ
出所:三菱総合研究所「空飛ぶクルマに関わる社会受容性アンケート」(2020年8月実施)
安全性・信頼性の高いモビリティとすることはもちろんであるが、料金設定、移動時間短縮の観点も含めて、魅力的なサービスの設計を進めることが事業者に求められているといえるだろう。

4. 今後の展望

日本では、メーカー、運航事業者、インフラ事業者、政府・自治体、研究機関など多くの関係機関が空飛ぶクルマの実現に向けて事業化や環境整備などの活動を積み重ねており、メディアで空飛ぶクルマが取り上げられる機会も年々増えている。しかし、今回実施したアンケート調査からは、日本における空飛ぶクルマという新しいモビリティの認知度はまだ低いことが明らかとなった。人々の関心を集める上でも、また運航地域における受容性を高めるためにも、まずは空飛ぶクルマを知ってもらうことが必要である。

認知度を高めるには、どのような活動が効果的なのか。例えば、ドイツStuttgartで行われたVolocopter社の公開飛行デモンストレーションの例が参考になるかもしれない。同社は2011年に設立されたドイツの企業で、空飛ぶクルマを用いたエアタクシーサービスの商用化を目指している。2019年9月に同社の拠点に近いStuttgartの街中で行われた公開飛行デモンストレーションは、報道関係者への公開にとどまらず、一般市民2万人が参加するイベントのハイライトとして多くの人の目の前で披露された※2。イベントに参加した市民に対するアンケートでは、空飛ぶクルマを「とてもよく知っている」、「よく知っている」、「ある程度知っている」と回答した人が85%に上り、「知らない」と回答した人の割合は15%とわずかであった※3

イベント参加者の多くは、もともと空飛ぶクルマに関心を持っていたと考えられるので、このアンケートにおける空飛ぶクルマの認知度が高いのは自然とはいえ、そもそも、2万人もの市民がイベントに参加していること自体、驚くべき注目度である。プロトタイプ機の飛行試験というだけではなく、一般の市民が実際の機体を身近に見ることができる欧州初のイベントとして、事前に周知することにより、地域の人々の関心を集めることができたと考えられる。Stuttgartのアンケートでは、空飛ぶクルマのことをよく知っている人ほど利用意向が高い傾向がみられ、全体の67%の人が地元企業であるVolocopterのエアタクシーサービスを利用する可能性が高いと回答した。また、84%の人が、StuttgartにおけるVolocopterのサービスを支持すると回答しており、利用意向、受容性ともに非常に高い※3

日本では今後、政府、自治体、メーカーや運航事業者などが連携して飛行試験、実証試験を進めながら、地域特性に応じた路線・サービス設計、体制構築を進めていくと考えられる。その際、地元の人々から身近に感じてもらえるイベントを仕掛けて認知度を高めていくこと、また既存モビリティとの連携や観光振興、生活支援、緊急時利用など地域ごとのニーズに即した魅力的なサービスを具体化し、地域へのサービス導入の支持を得ていくことが社会実装に向けた鍵となるだろう。

※1:Booz Allen and Hamilton, Inc. “Urban air mobility (UAM) market study”
https://ntrs.nasa.gov/citations/20190001472 (閲覧日:2020年10月22日)

※2:eVTOL, “One key to public acceptance of air taxis? Education”
https://evtol.com/news/public-acceptance-air-taxis-education/ (閲覧日:2020年10月22日)

※3:Stuttgart University, “Acceptance of air taxis in the society”
https://www.hft-stuttgart.com/news/acceptance-of-air-taxis-in-the-society (閲覧日:2020年10月22日)

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