コロナ禍は、以前からのトレンドであった働き方の多様化、リモートワークの浸透、あるいはECの浸透などを加速した。加えて、人々の衛生意識の高まりや、居住に関する意識の変化など、新たなトレンドも生み出した。ここまでの議論をまとめると、鉄道事業者が注視すべきトレンドとして、①混雑回避のニーズ継続、②移動目的の多様化、③居住地・オフィス立地の変化の3点が挙げられる。以下、このような変化に鉄道事業者が対応し、ポストコロナにおいて新たな需要を創造するための施策の一例を示す。
(1) 混雑回避のニーズという点では、フィジカルディスタンスを確保できる座席のほか、混雑状況のリアルタイムでの見える化、混雑予測の提供により、乗客が自ら混雑を避けて移動できる仕組みを提供する方法が考えられる。また、駅員や乗務員は当然ながら、体調不良な乗客に鉄道利用を避けてもらう措置ができれば、多少混雑していたとしても安心して利用できるだろう。並行して、前述の今後の時差出勤の導入意向を見ても、オフピークの推進に向けた乗客へのコミュニケーションは継続すべきだろう。混雑への忌避意識が高まっている今こそ、適切なコミュニケーションで乗客の行動を変えられる可能性がある。恒常的にピークを下げて需要を平準化できれば、中長期的にはピークに合わせている現状の車両数や人員数を保有する必要がなくなり、固定費の削減につながる可能性がある。
(2) 移動目的の多様化に対しては、今後新たに移動の需要を生み出していくことが求められる。オンラインで顧客接点を構築することにより顧客一人ひとりに対して最適な余暇活動の提案を行うことや、目的地側と連携して、魅力的な商品の開発に注力することも有効だろう。また、テレワークが浸透すれば定期券の需要が減少し、日常において今まで以上に発地・着地・頻度が固定的ではない移動パターンが生まれる可能性がある。そのようなフレキシブルな勤務にも対応するような、新たな料金体系も検討に値する。それでも一定の需要減少が不可避であれば、旅客需要以外へのアセットの転用などによって資産効率の向上を図る必要がある。
(3) 居住地・オフィス立地の変化に対しては、これまで都市部に注力していたまちづくりや駅開発も見直す必要がある。具体的には、東京や大阪などの都心への集中が緩和し地方中核市などへの居住の意向が増え、都市部の中でも準ターミナル駅や郊外に企業の立地が移る可能性がある。それを見据えたエリア・駅の再開発を検討することが考えられる。また、勤務地への近さの重要性が低下し、地方中核市などから長距離列車で都心に通勤する働き方も増える可能性がある。これらの都市を結ぶ鉄道事業者は、長距離列車の通勤向けサービスを拡充することで新たな需要を創造できるのではないか。
図表11 鉄道事業者を取り巻くトレンドと検討すべき施策(例)
出所:三菱総合研究所