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空飛ぶクルマという新規事業:第3回 空飛ぶクルマの事業化に向けたヒント

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2021.3.3

経営イノベーション本部舟橋龍之介

辻 早希子

原田晃次

山口 涼

重松研太

1. はじめに

前稿「空飛ぶクルマという新規事業:第2回 空飛ぶクルマのサービス」では、現在想定されている空飛ぶクルマのサービスの中でも、都市内・都市間輸送や都市・空港間輸送が主たるユースケースとなる可能性に触れた。また、これらのサービスが実現していく中で、さまざまな業種の企業に参入チャンスがあることを紹介した。各種報道で名前を見かけるJoby AviationやSkyDriveなどの機体メーカー以外にも、離着陸場を核とした街づくりでのゼネコンや不動産デベロッパー、機体への電力供給での電力事業者、離着陸場へのアクセスでのMaaS事業者、その他として気象・3D地図情報の提供事業者や保険事業者などに参入チャンスがある。

本稿では、空飛ぶクルマが世間の注目を集めるようになった経緯を振り返り、市場獲得に向けた各社の動向を紹介することで、空飛ぶクルマの事業化検討の端緒となる情報を提供したい。

2. 空飛ぶクルマの注目度が急上昇した理由

空飛ぶクルマの基本コンセプトは垂直離着陸型の航空機であるが、この考え方自体は新しいものではない。空飛ぶクルマにつながるTilt wing(機体に対して翼ごと傾ける方式)やFanなどの機体方式は1960年前後から研究例が存在しており、空飛ぶクルマの技術開発は少なくとも60年前から継続的に行われてきたことになる。しかし、連載の第1回「社会実装に向けたポイント」で言及したように、空飛ぶクルマが世間の注目を集めるようになったのは2018年以降である。なぜ、この2~3年で空飛ぶクルマの注目度が急上昇したのだろうか。その理由は、2016年にUberから発表された空飛ぶクルマのWhite paper※1やその後のUber elevate summitで運航機体数やサービス価格などが定量的に示されたことで、ビジネスとしてのリアリティーが高まったためと筆者らは考えている。

Uberは、米国などで提供している自動車の配車サービス「uberX」で得た移動データから、都市部で慢性的に発生している渋滞によって経済的損失や環境への悪影響が生じているとの気づきを得て、この課題を解決する新規事業として空飛ぶクルマによる旅客輸送サービスに着目した。White paperでは、空飛ぶクルマの機体価格、機体寿命、インフラコスト、運航コスト、整備コスト、および間接費を見積もり、初期市場では現在のuberXと同程度(タクシーの1/2~2/3程度)、長期的にはuberXより大幅に安価な料金で旅客輸送サービスを提供できると分析した。空飛ぶクルマはエアタクシーとも呼ばれるが、文字通り、uberXなどのタクシーを利用するような気軽さで乗れる新たな旅客輸送サービスが実現し得ることをUberは定量的に示した。

またUberは、自社保有の移動データを用いて空飛ぶクルマの路線ネットワークを検討した上で、空飛ぶクルマの利便性(移動時間短縮効果)と費用の観点から利用客数を分析し、これらの需要分析結果に基づいて運航に必要となる機体性能やインフラを発表している。例えば、空飛ぶクルマの離着陸場は1つの都市に数十カ所設置し、離着陸場1カ所あたりの輸送能力は1時間で4,000人以上を必要条件としている※2。このことは、離着陸場1カ所で1日あたり数万人の利用客を見込んでいることを意味している。一方、成田国際空港の2019年利用客数は国内線と国際線を合わせて年間4,241万人であり※3、1日あたりの平均利用客数は11.6万人である。すなわち、利用者数ベースで考えた場合、成田国際空港の数分の1規模の離着陸場が1つの都市に複数カ所作られるイメージとなる。さらに、旅客輸送サービスを実際に提供するにあたり、長期的には年間5,000機の機体生産が必要になるとUberは見積もっている※1。2018年に世界全体のジェット輸送機の納入機数が約1,600機であったことを踏まえれば※4、Uberが示した分析結果はこれまでの航空機産業の延長線ではない、新産業の創出を期待させるものであったと言える。

Uberは空飛ぶクルマの事業化に向け、多様なステークホルダーとパートナーシップを締結してきた。ただ自社の構想を発表するのではなく、空飛ぶクルマの需要予測や機体・インフラの要求仕様を移動データの分析結果に基づく形で定量的に示し、各ステークホルダーにビジネスとしてのリアリティーを抱かせることで、新規参入を促すとともに、多様な業界のステークホルダーを巻き込むことに成功した。2020年12月、主力事業への専念のために、Uberの空飛ぶクルマ事業は機体メーカーであるJoby aviationに売却されることが発表された※5。しかし、Uberが提示したビジョン、そして開発したシミュレーションツールは、今後も空飛ぶクルマの社会実装に活かされることだろう。

なお、Uberのように移動ビッグデータから需要予測などを行っているわけではないが、都市別人口やアンケート・インタビュー調査に基づいた空飛ぶクルマの市場分析は、複数の機関から発表されている※6※7。参考情報としてその一例を図1に示す。旅客輸送サービスの世界市場は、2030~2040年では最大300億ドル規模、2050年では900億ドル規模になると予測されている。
図1 各機関で試算されている空飛ぶクルマの世界市場規模
図1 各機関で試算されている空飛ぶクルマの世界市場規模
出所:参考文献6~7を基に三菱総合研究所作成

3. 空飛ぶクルマの事業化の現状と今後

第2章では、空飛ぶクルマは次世代モビリティとして非常に大きな市場規模が予測されていることを紹介した。では、直近の動きはどうであろうか。

機体開発で先行するEHangは、広西チワン族自治区の賀州市で、2020年末頃までに遊覧用途の離着陸場を設置する計画を2020年4月に発表した(現時点での設置状況は不明)※8。直近では、戦略的パートナーであるGreenland Hong Kong Holdingsとともに、空飛ぶクルマを用いた遊覧サービスの提供を2020年12月よりトライアルで開始している(図2)※9。しかし、事業化が具体的に進められているのは遊覧用途に限らない。

例えばLiliumは、米国やドイツでの事業開始を見据えて既に動き始めている。同社は2020年11月にデベロッパーのTavistock Developmentと共同で、米フロリダ州オーランドに都市間輸送を想定した空飛ぶクルマの離着陸場を2025年に設置する計画を発表している※10。Liliumが最初に設置する離着陸場は、ディズニーワールドがあるオーランド国際空港近くのLake Nonaを予定しているが、オーランド市が離着陸場の誘致に向けて80万ドルの税制優遇措置を講じたことは注目に値する。また、ドイツでは、デュッセルドルフ空港やケルン・ボン空港とも提携し、空港をハブとした空飛ぶクルマによる旅客輸送サービスの提供に向けた準備を進めている※11。さらにLiliumは、これらの地域パートナーの探索と並行し、Lufthansa Aviation Trainingと共同でパイロットの訓練プログラムの開発も進めている※12

こうした動きを見せているのはLiliumだけではない。Volocopterは3年以内にシンガポールで旅客輸送サービスを開始し、2026年までには路線ネットワークをシンガポールで構築する計画を2020年12月に発表している※13。計画の実現に向け、同社は今後3年間で、50人のパイロット、エンジニア、運用スペシャリスト、およびビジネスマネジャーのチームを構築し、2026年までにシンガポールで200人以上の正社員を雇用する予定である。そしてこの計画には、シンガポール経済開発庁(EDB)、およびシンガポール民間航空庁(CAAS)が協力している。また、VolocopterはGroupe ADP(パリ周辺の空港運営会社)とRATP Groupe(パリとその周辺部の公共交通機関運営事業者)が計画するパリ地域の空飛ぶクルマプロジェクトのパートナーに選定されている※14ほか、ドイツでは航空医療オペレーターであるADAC Luftrettungから2機の機体を予約受注しており※15、欧州でのパートナーも積極的に開拓している。

空飛ぶクルマの巨大な将来市場を見据え、海外の機体メーカーは旅客輸送サービス提供に向けて既に先手を打っている。そして、空飛ぶクルマの事業化はメーカー単独で構想するレベルではなくなっており、国・自治体、デベロッパー、空港、既存の交通機関などの各ステークホルダーを巻き込んだチームによる市場争奪戦が始まっているのだ。
図2 EHang、Lilium、Volocopterのパートナー連携図
図2 EHang、Lilium、Volocopterのパートナー連携図
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出所:参考文献9~15を基に三菱総合研究所作成

4. 空飛ぶクルマの日本での実現に向けて

空飛ぶクルマのビジネスは、Uberがデータに基づいたリアリティーのある分析結果を示したことで注目されるようになった。旅客輸送の世界市場規模は、2030~2040年では最大300億ドル規模、2050年では900億ドル規模に達すると考えられている。先行企業による旅客輸送サービスの提供時期は2023~2025年が目標とされている。目標の実現に向け、中国、米国、ドイツ、シンガポール、フランスでは、機体メーカーを中心として国・自治体、デベロッパー、空港、既存の交通機関との連携体制が既に構築されつつある。

空飛ぶクルマは最大300km程度の移動で用いられることが想定されており、基本的には各国や各地域に閉じた旅客輸送サービスになるだろう。旅客輸送ニーズは国や地域色が非常に強いため、その国や地域の事情を深く知る地場企業と連携し、インフラ整備を進めることが今後の成否を占う分水嶺(れい)になると考えられる。実際、中国では遊覧用途、米国フロリダ州では都市間輸送、シンガポールでは都市内輸送という各地域のニーズに合ったサービス提案がなされており、実現に向けたパートナー連携やインフラ整備が着実に進んでいる。

しかし、上記以外の世界のほとんどの地域では、空飛ぶクルマを活用したサービス導入の可能性が手つかずのまま残されている。日本国内では2019年8月に、福島県、三重県、東京都、愛知県、大阪府が自治体の視点から空飛ぶクルマの導入構想を発表しており※16、今後、各地におけるサービスの具体化や事業者連携が進められると考えられる。企業としても、空飛ぶクルマのエコシステムが構築される前に、自社の参入機会を検討してはいかがだろうか。空飛ぶクルマは産業振興の面のみならず、渋滞やアクセス難の解消や、災害・救急時の緊急輸送手段としての活用など、社会課題の解決手段にもなり得る。この「少し先の」潮流、時代変化を捉え、多くの企業が自社のビジネスチャンスとして活かすことが期待されている。

※1:Uber Technologies, “Fast-Forwarding to a Future of On-Demand Urban Air Transportation”
https://www.uber.com/elevate.pdf(閲覧日:2021年2月26日)

※2:Uber Technologies「Uber、大手建築事務所と提携し、uberAIR Skyportのデザインを初公開」
https://www.uber.com/ja-JP/newsroom/uberair-skyport-design/(閲覧日:2021年2月26日)

※3:国土交通省、「空港管理状況」
https://www.mlit.go.jp/koku/15_bf_000185.html(閲覧日:2021年2月26日)

※4:一般財団法人 日本航空機開発協会、「第II章 民間航空機材の推移と現状」
http://www.jadc.jp/files/topics/39_ext_01_0.pdf(閲覧日:2021年2月26日)

※5:Joby Aviation, “Joby Aviation Welcomes New $75M Investment from Uber as it Acquires Uber Elevate and Expands Partnership”
https://www.jobyaviation.com/news/joby-aviation-welcomes-new-75m-investment-from-uber-as-it-acquires-uber-elevate-and-expands-partnership/?uclick_id=8f63e8d4-5f56-4b1a-8722-241a49817258(閲覧日:2021年2月26日)

※6:Porsche Consulting, “The Future of Vertical Mobility”
https://fedotov.co/wp-content/uploads/2018/03/Future-of-Vertical-Mobility.pdf(閲覧日:2021年2月26日)

※7:Roland Berger, “Urban Air Mobility | USD 90 billion of potential: How to capture a share of the passenger drone market”
https://www.rolandberger.com/publications/publication_pdf/roland_berger_urban_air_mobility_1.pdf(閲覧日:2021年2月26日)

※8:EHang, “EHang to Build World’s First AAV E-port”
https://www.ehang.com/news/638.html(閲覧日:2021年2月26日)

※9:EHang, “EHang Launches Aerial Tourism Services with Strategic Partner Greenland Hong Kong”
https://www.ehang.com/news/715.html(閲覧日:2021年2月26日)

※10:eVTOL, “Lilium selects Orlando, Florida region to test regional air mobility model in the US”
https://evtol.com/news/lilium-regional-air-mobility-orlando-vertiport/(閲覧日:2021年2月26日)

※11:Lilium, “Lilium agrees partnership with Dusseldorf and Cologne/Bonn airports”
https://lilium.com/newsroom-detail/lilium-partnership-dusseldorf-cologne(閲覧日:2021年2月26日)

※12:Lilium, “Lilium partners with Lufthansa Aviation Training to select and train pilots for Lilium Jet”
https://lilium.com/newsroom-detail/lilium-partners-with-lufthansa-aviation-training(閲覧日:2021年2月26日)

※13:Volocopter, “Volocopter Commits to Launch Air Taxi Services in Singapore”
https://press.volocopter.com/index.php/volocopter-commits-to-launch-air-taxi-services-in-singapore(閲覧日:2021年2月26日)

※14:Volocopter, “Paris region, Groupe ADP and RATP Groupe announce the structuring of the Urban Air Mobility industry branch with the creation of a test area at Pontoise airfield and the opening of a call for expressions of interest”
https://press.volocopter.com/index.php/paris-region-groupe-adp-and-ratp-groupe-announce-the-structuring-of-the-urban-air-mobility-industry(閲覧日:2021年2月26日)

※15:Volocopter, “ADAC Luftrettung Reserves Two Volocopter Multicopters”
https://press.volocopter.com/index.php/adac-luftrettung-reserves-two-volocopter-multicopters(閲覧日:2021年2月26日)

※16:経済産業省、「地方公共団体による「空の移動革命に向けた構想発表会」」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/chiho_koso_20190802.html(閲覧日:2021年2月26日)

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