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2020年3月号トピックス1経営コンサルティングスマートシティ・モビリティ人材

「職」の将来を見据えた人的投資を

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2020.3.1

地域創生事業本部宮下 友海

経営コンサルティング

POINT

  • 10年後には、労働者の余剰が深刻化する。
  • 「職」の将来性を見通し、社員の能力開発のための環境整備が不可欠。
  • 経営者は、労働者の教育に投資するべきだ。
2019年12月末現在、日本の有効求人倍率は全都道府県で1倍を超え、完全失業率は2019年12月分で2.2%※1と、事実上の「完全雇用」状況にあるといえる。企業にとっても人手不足という課題をクリアすれば、業績も向上するはずだという見方も一部では広がっている。

しかし、今後の10年間を見据えた場合、このまま完全雇用を維持し続けられる状況にはない。当社の推計では、2030年には、現在就業者数の多い事務系職種や、人手不足で雇用吸収力の大きい生産・輸送・建設職種従事者などが、AI、ロボットなどの代替によって余剰となりそうだ。また、高齢者を中心とした人口減少によるマーケット全体の縮小などによって、労働需要が減少していく可能性も高い※2

一部の職種で「労働者が余る」という予測に対して、企業の経営者に今からできることは何か。まずは、将来自社に必要な社員の能力を予測することだ。例えば、ビジネス環境の変化へ柔軟に対応できるスキルなどが考えられるだろう。さらに、そのスキルを保有する人材を、社外から採用するだけでなく、社内でも育成することが重要になってくる。そのためには、能力開発を促進するための環境整備が不可欠だ。

しかし、日本企業は人的投資を絞り過ぎている。例えば、企業の能力開発費の対GDP比では、米国2.08%、フランス1.78%、ドイツ1.20%に対して、日本は0.10%にすぎない※3。海外では、企業と労働者がともに教育訓練へのモチベーションを高める試みが成果を上げている(表)。英国では、企業は「Levy(税)」として在職中の労働者に対する教育訓練支援金を収めなければならず、その請求権には2年という時効が設定されているため、「納付損」が起きないよう従業員が早期に訓練を受けることを推進している。スウェーデンでは、教育訓練機関の提供するプログラムが産業界からクオリティーを保証されていて、当該プログラム終了後の労働者の評価向上につながっている。

職に対する予測と教育、評価制度の整備は待ったなしだ。経営者には、労働者の目先の生産効率だけを見るのではなく、将来の能力向上に向けた投資を提案したい。

※1:2020年1月31日(総務省)。

※2:大ミスマッチ時代を乗り超える人材戦略 第2回 人材需給の定量試算:技術シナリオ分析が示す職の大ミスマッチ時代」など。

※3:「平成30年版労働経済の分析」(厚生労働省)。

[表]労働市場のニーズを職業能力開発へ活かす試みの事例