マンスリーレビュー

2020年3月号トピックス5デジタルトランスフォーメーション経済・社会・技術

マイナンバーを高齢社会のデジタルインフラに

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2020.3.1

政策・経済研究センター綿谷 謙吾

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • マイナンバー活用が進まない最大の理由は単に必要性を実感できないため。
  • 普及拡大に向けては行政手続きの機会が増加する高齢期での活用が鍵。
  • 高齢者本人だけでなく子ども世代の負担軽減に着目した措置が非常に有効。
マイナンバーカードの普及率は15.0%である(2020年1月20日時点)。2016年の制度開始以降、低率にとどまっている理由は意外とシンプルなようだ。内閣府が実施したアンケート調査※1によると、「取得する必要性を感じられないから」が57.6%とトップで、「個人情報の漏えいが心配だから」は3番目の26.9%だった。つまり、必要性が実感できるようになれば、取得を大いに後押しできる。実際にデンマークでは、日本のマイナンバーに似たCPR番号が、納税や口座開設など生活に不可欠なレベルで認証に使われているため、国民のほぼ全てに浸透している。

政府は、マイナンバーカードを健康保険証としても活用できる仕組みなどを通じて、普及拡大を目指してきた(表)。しかし、取得するモチベーションを感じられるようにするには、さらなる一手が必要であろう。

それには、マイナンバーや、そのインターネット上の窓口であるマイナポータル※2を、高齢化に対応したデジタルインフラとして位置づけるのが有効ではないだろうか。政府はマイナンバーを活用して、年金手続きに必要な添付書類を減らすほか、介護や相続に関する行政手続きもワンストップ化させる方針である。さらに利便性を向上させるには高齢者自身だけでなく、その子どもの世代に着目すべきであろう。介護や相続の手続きは、本人ではなくその家族が行うケースが多いからだ。

介護保険の利用手続きは現在、親が住む自治体の窓口で行う必要があるが、子どもが遠方に住んでいる場合に大きな負担となる。時間や場所を問わず、オンラインでこの手続きが完結すれば利便性は増す。

電気・ガス停止や届け出住所の変更など、転居時に必要な手続きについて、行政は、民間のポータルサイトで一括して可能にすることを検討している※3。同様に高齢者の死亡・相続に伴う各種手続きをワンストップで完了できるようになれば、遺族だけではなく行政や企業の負担も軽減される。こうした国民・企業・行政の三者がメリットを感じられる措置があってこそ、マイナンバーは本格活用に向かうだろう。

※1:「マイナンバー制度に関する世論調査」(2018年11月発表、複数回答)

※2:オンラインで行政サービスなどを利用できるポータルサイト。利用にはマイナンバーカードが必要。2017年1月に開設された。パソコンだけでなくスマートフォンにも対応している。

※3:内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室が導入を検討中。

[表]高齢化関連で現在検討されているマイナンバー活用促進策