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空飛ぶクルマという新規事業:第2回 空飛ぶクルマのサービス

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2021.2.3

経営イノベーション本部山口 涼

辻 早希子

原田晃次

舟橋龍之介

重松研太

1. はじめに

本連載では、新たな移動手段として開発が進められている「空飛ぶクルマ」について、社会導入の意義や導入時のインパクトを考察している。第1回では、当社が2020年8月に実施した6万人規模のアンケートの結果を紹介しつつ、空飛ぶクルマが市民にどのように受け止められているかを示した。第2回となる今回は、空飛ぶクルマの機体メーカー等が構想しているサービスイメージ、およびその実現にあたって多様な業界の企業に参入の余地があることを紹介したい。

2. 空飛ぶクルマの開発状況

そもそも空飛ぶクルマとは、どのようなものであろうか。コンセプト段階のものも含めれば、ヘリコプターに近い形状のもの、航空機に近い形状のもの、自動車に近い形状のものなど、さまざまな形状が提案されている。世界的な学会の「Vertical Flight Society」は、空飛ぶクルマを推力偏向タイプ(Vectored Thrust)、リフト・クルーズタイプ(Lift + Cruise)、マルチコプタータイプ(Wingless(Multicopter))、ホバーバイクタイプ(Hover Bikes/Personal Flying Devices)の4タイプに分類している。

代表的な機体は1~2人乗りで短距離のマルチコプタータイプと5人乗り程度で長距離の翼付き(推力偏向タイプ、リフト・クルーズタイプなど)の機体である。一例として、マルチコプタータイプのイメージを図1に示す※1
図1 空飛ぶクルマの機体イメージ(マルチコプタータイプ)
図1 空飛ぶクルマの機体イメージ(マルチコプタータイプ)
出所:三菱総合研究所
本稿の主題である空飛ぶクルマのサービスを検討する上では、航行速度や航続距離、搭乗人員数といった機体スペックが制約となる。そこで、現在開発が進んでいる代表的な機体のスペックを確認しておきたい。各社の機体スペックとサービス開始年を図2に示す※2※3※4※5※6※7※8※9
図2 各社の機体スペックとサービス開始年
図2 各社の機体スペックとサービス開始年
出所:各社の公開情報および各種報道をもとに三菱総合研究所作成

2.1 Joby Aviation

Joby Aviation(以下、Joby)※2はJoeBen Bevirt氏が2009年に設立したアメリカのカリフォルニア州に本社を置くスタートアップだ。後述のトヨタ自動車の他、インテルのCVCであるIntel Capitalなどが出資している。Jobyが開発するのは、固定翼とV尾翼の両方に配置された6つのプロペラを持つ、電動垂直離着陸機(eVTOL:Electric Vertical Take-Off and Landing)だ。

この機体の特徴は、プロペラの角度が可変である点だ。離着陸時には垂直方向に向けているプロペラを、巡航時には水平方向に向けることで高速での巡航を実現することができる。機体の搭乗人員数は乗客4人とパイロット1人の5人。航行速度は322km/hとしており、一度の充電でおよそ240kmの飛行が可能である。

Jobyは2023年のサービス開始を目指して、FAA(アメリカ連邦航空局)の型式証明の手続きを進めている。また、並行して量産化に向けた準備も進めており、2020年1月にはトヨタ自動車が400億円を超える出資をすることを表明している。両社は機体の開発・生産で協業すると発表している※10

2.2 Volocopter

Volocopter※3は2011年に設立されたドイツのスタートアップだ。Volocopterが開発する機体は18枚のプロペラを搭載したeVTOLだ。この機体は2人が搭乗可能で、航行速度は110km/h、航続距離は35kmである。先ほど取り上げたJobyの機体と比較すると、近距離での利用を想定しているものと思われる。

VolocopterはEASA(欧州航空安全機関)の垂直離着陸機に関する設計組織承認(DOA:Design Organization Approval)を取得している※11。サービス開始時期は明示されていないものの、2~3年以内にファーストミッションを行うとしており、チケットの販売も行っている※4

2.3 Lilium

ドイツ企業のLilium※4はミュンヘン工科大学の卒業生らが2015年に設立したスタートアップで、36個のダクト付き電動ファンを搭載したeVTOLを開発している。電動ファンを搭載した翼を可変翼とし、離着陸時にはファンを垂直方向、巡航時には水平方向に向けることで、離着陸性能と巡航性能の両立を図っている。

Liliumが開発する機体は、航行速度が300km/h、航続距離は300kmで、搭乗人員数は5人を予定している。

2019年5月にはフルスケールモデルとなる5人乗りの機体での無人飛行に成功しており、2025年にフロリダでサービス提供を開始するとしている※12

2.4 Ehang

Ehang※5※6は2014年に中国で創業されたスタートアップだ。Ehangが開発するEhang216は、機体の下側に8本のアームと16枚のプロペラを備えるeVTOLだ。航行速度は130km/h、航続距離は35km、搭乗人員数は2人で、こちらもVolocopterと同様に比較的近距離での利用を想定していると思われる。

開発・実証としては最も先行しており、2020年7月には中国東部の沿岸都市・煙台での遊覧飛行を試験的に実施した※13。また、2020年11月には韓国の汝矣島、大邱の寿城区、済州島で飛行試験を行った他、カナダにおいても試験飛行の認証を取得している※14

2.5 SkyDrive

最後に取り上げるのが、日本発で機体開発を行うSkyDrive※7※8だ。SkyDriveが開発する機体は、機体の四隅に8枚のプロペラを持つ。航行速度は100km/hで、航続時間は20~30分、搭乗人員数は2人で、VolocopterやEhangに近い仕様と言える。

2023年のサービス開始を目指しており、2020年8月にはデモ機による有人飛行試験を実施している。


ここまで取り上げた主要なメーカーが開発する機体の間でも、機体のタイプ、搭乗人員数、航行速度や航続距離には違いがある。具体的なサービスイメージは次章で触れるが、比較的長距離の移動には、航行速度や航続距離に優位性を持つ固定翼があるタイプ(推力偏向タイプ、リフト・クルーズタイプなど)の機体を、近距離の移動には航続距離が短いマルチコプタータイプの機体を用いるなど、用途やサービス形態により使い分けられる可能性もあろう。

3. 空飛ぶクルマのサービス

ここからは、現在構想されている空飛ぶクルマのサービスイメージを考えていきたい。空飛ぶクルマにおいては、観光向けの遊覧飛行や離島間輸送、あるいは災害時の人員輸送などの用途が提唱、検討されている。特に、垂直離着陸が可能で滑走路が不要である点は、空飛ぶクルマの利点と言えよう。

さまざまな用途が提唱されている中で、より大きな市場として期待されるのが、都市内交通、都市間交通、そして都市・空港間交通だ(図3)。先ほど挙げた用途と比較しても、多くの利用者を見込むことができる。
図3 空飛ぶクルマの活用イメージ
図3 空飛ぶクルマの活用イメージ
出所:三菱総合研究所
これまで、いち早くサービスイメージを具体的に示してきたのが、世界各地で自動車のライドシェアサービスを展開するUber Technologies(以下、Uber)だ。Uberは自社がライドシェアで収集したデータを解析しながら、サービスの設計、提案をしてきた。Uberの試算では、将来的に空飛ぶクルマによる輸送サービスを、同社が海外で展開する配車サービスのUberXより下回る価格で提供できるとしており、現在のタクシーの料金を下回る水準ということになる。(なお、2020年12月、Uberは空飛ぶクルマ部門を機体開発メーカーのJobyに売却すると発表している※15)。

機体開発メーカー各社も、ホームページ上などで都市内交通、都市間交通や都市・空港間交通のモデルケースを公開しており、主要サービスとして想定していることがわかる。例えば、Liliumはアメリカ西海岸のサンフランシスコからサンノゼ、あるいはサクラメントといった都市間での活用を想定している。

空飛ぶクルマのサービスが実現すれば、利用者は移動にかかる時間を短縮することができる。特に、これまで直線距離に対して陸路での移動距離が長かった湾岸部や山を挟んだ都市間の移動時間を大幅に短縮できる。渋滞回避による大幅な時間短縮効果も見込める。当社が2019年に公表した2030年代のモビリティビジョンにおいても、自動車での移動中に経路上で事故があった際、空飛ぶクルマでの移動に切り替えることで渋滞を回避、移動時間を短縮する例を紹介した※16。空飛ぶクルマのサービスが実現することにより、人々の移動における利便性は大きく向上する可能性がある。

4. 新規事業としての可能性

ここまで述べたようなサービスを実現するためには、メーカーやサービス事業者、インフラ事業者など多様なプレーヤーの参画が不可欠だ。ここでは、空飛ぶクルマを開発・生産し、都市内、都市間、あるいは都市・空港間の交通サービスの提供に関わるプレーヤーをみておきたい(図4)。

機体を開発・製造する製造プラットフォームとしては、構造材料、プロペラやモーターなどの駆動系、バッテリーなどそれぞれに強みを持つメーカーが参画することになるだろう。生産にあたっては、トヨタがJobyへの出資を行っていることからも推察できるように、自動車会社が持つ生産ノウハウを活かせる可能性は高い。

運航プラットフォームとしては、空路の設定や管制が重要な要素だ。アメリカの航空局(FAA)は、初期的にはヘリコプターと同様の扱いをするものの、空飛ぶクルマの機体数が増加した場合には専用の空路を設けるとの考え方を示している※17。都市部で離着陸することを踏まえれば、空路の設定には3D地図情報が必要になろう。安全な飛行を実現するための高精度な気象情報や、万が一の事故に備えた保険も必須だ。

航空機に比べて運航する機体数が大幅に増えれば、メンテナンスの自動化ニーズも高まるであろう。各社が電動の機体を開発していることを鑑みれば、充電インフラの設置、電力供給が必要となるため、電力事業者などに参入余地が生まれる。

サービスプラットフォームとしては、需要予測に基づき利用者ニーズに沿った路線設計、運航計画を行うことが不可欠だ。これらの需要予測においては、携帯電話会社や交通事業者などが保有する人々の移動に関するデータが有用だ。また、比較的低い高度を飛行する可能性があり、その場合は携帯電話の通信基盤を活用した機内サービスの提供も検討の余地がある。

MaaS(Mobility as a Service)やまちづくりの分野とも親和性が高い。離着陸場へのアクセスでは、航空、鉄道、バス、あるいはライドシェアといった他の交通モードとの連携が必須になり、現在検討が進んでいるMaaSにおいて一体的にサービス提供される可能性もある。プライシングもその一環である。利用者としては、予約・決済サービスなどが共通化される方が、利便性が高いだろう。複数の自動車会社が空飛ぶクルマに対して投資を行っており、Liliumはスイス連邦鉄道と覚書を締結していることからも※18、空飛ぶクルマが他交通モードと連携していく可能性は十分にあると言える。

離着陸の建設・運営については、ゼネコンや不動産デベロッパーが得意とする領域である。離着陸場の設置により周辺エリアの利便性が向上すれば、離着陸場を核としたまちづくりが進むことも予想される。また、離着陸場として活用可能なビルの屋上や都心部の駐車場の価値が高まる可能性もある。

ここで挙げたプレーヤーはごく一部だ。現時点で空飛ぶクルマを「新規事業の機会」と捉えている企業は多くないが、新たなモビリティサービスを支えるエコシステムには多様なプレーヤーが必要であり、経済波及効果が期待できる。多くの企業が、少し先の未来の変化を捉え、自社のビジネスのチャンスとして活かすことを望んでいる。当社としても、空飛ぶクルマの社会実装およびサービス化に貢献していく考えだ。
図4 空飛ぶクルマのサービスに関わるプレーヤー(一例)
図4 空飛ぶクルマのサービスに関わるプレーヤー(一例)
出所:三菱総合研究所

※1:Electric VTOL News, “eVTOL Aircraft Directory”
https://evtol.news/aircraft(閲覧日:2021年1月6日)

※2:Electric VTOL News, “Joby S4”
https://evtol.news/joby-s4/(閲覧日:2020年12月3日)

※3:Volocopter, “Product”
https://www.volocopter.com/en/product/(閲覧日:2020年12月6日)

※4:Volocopter, “Tickets”
https://www.volocopter.com/en/tickets/(閲覧日:2020年12月6日)

※5:Lilium, “Jet”
https://lilium.com/the-jet(閲覧日:2020年12月4日)

※6:Ehang, “Passenger Transportation”
https://www.ehang.com/ehangaav/(閲覧日:2020年12月6日)

※7:Ehang, “EHang to Build World’s First AAV E-port”
https://www.ehang.com/news/638.html(閲覧日:2020年12月8日)

※8:SkyDrive, “AIR MOBIRITY”
https://skydrive2020.com/air-mobility(閲覧日:2020年12月4日)

※9:SkyDrive, “TIMELINE”
https://skydrive2020.com/timeline-2(閲覧日:2020年12月4日)

※10:トヨタ自動車、「トヨタ自動車、空のモビリティの実現に向けて、Joby Aviationと電動垂直離着陸機(eVTOL)の開発・生産で協業」
https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/31311579.html(閲覧日:2020年12月3日)

※11:Aviation Today, “Volocopter Receives First eVTOL Design Organization Approval from EASA”
https://www.aviationtoday.com/2019/12/11/volocopter-receives-first-evtol-design-organization-approval-easa/(閲覧日:2020年12月3日)

※12:Aviation Today, “Lilium to Launch New Electric Air Mobility Network in Florida”
https://www.aviationtoday.com/2020/11/14/lilium-launch-new-electric-air-mobility-network-florida/(閲覧日:2020年12月8日)

※13:Ehang, “Self-flying EHang 216 Showcases Aerial Sightseeing Trips Over the Sea in East China”
https://www.ehang.com/news/663.html(閲覧日:2020年12月4日)

※14:Ehang, “News”
https://www.ehang.com/news/(閲覧日:2020年12月4日)

※15:REUTERS, “Joby Aviation takes over Uber's air taxi business, Elevate”
https://jp.reuters.com/article/us-uber-divestiture/uber-to-sell-air-taxi-business-to-joby-aviation-idINKBN28I32P(閲覧日:2020年12月13日)

※16:三菱総合研究所、「MaaSの未来 三菱総研が描く2030年代のモビリティビジョン

※17:FAA, “UAM Concept of Operations”
https://nari.arc.nasa.gov/sites/default/files/attachments/UAM_ConOps_v1.0.pdf(閲覧日:2021年1月15日)

※18:ヨーロッパ経済ニュース、「スイス国鉄、空飛ぶ電動タクシーの導入検討」
https://europe.nna.jp/news/show/1857501 (閲覧日:2020年12月6日)

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