マンスリーレビュー

2022年8月号特集2エネルギーサステナビリティ

脱炭素化に向けた行動変容の促進のために

2022.8.1

サステナビリティ本部小川 崇臣

エネルギー

POINT

  • カーボンニュートラルに向けては行動変容の早期実現が重要である。
  • 脱炭素化効果が大きくても需要家の取り組み意向は弱い行動変容が存在。
  • 行動変容の後押しには経済的なインセンティブだけでなく情報提供も有効。

行動変容に対する需要家の取り組み意向

当社が2021年9月に発表した「2050年カーボンニュートラル実現に向けた提言」では、3つのキーポイント※1のうち、エネルギーを利用する企業や一般消費者である「需要家」の行動変容に最も早く取り組むべきだとしている。

日本企業も近年、RE100※2、SBT※3、TCFD※4のような環境関連の枠組みへの参加を加速させており、特にTCFD賛同数は日本企業が世界最多だ。エシカル消費※5の拡大など、一部の先進的な需要家による行動変容もすでに顕在化している。

しかし、現時点では取り組みの意向が弱く、温室効果ガスの削減効果が認識されていない行動変容も存在すると考えられる。このため、何の後押しもないままでは、変化が停滞してしまうと懸念される。取り組み意向が弱い行動変容の種類や、その理由を把握した上で、行動変容を効果的に後押しできる施策の内容を明らかにすることが求められている。

そこで当社は2022年4月、行動変容の具体的な項目に関する需要家の意向を把握するため、国内の企業と消費者にアンケート調査※6を実施した。その結果、企業・消費者とも、削減効果が大きいと認識している行動変容に対してほど、取り組む意向が強く、支払う意思のある金額も多い傾向が示された(図)。

しかし、再生可能エネルギー(再エネ)由来の電力への切り替え、オンサイト発電設備※7の導入といった「エネルギー選択の変更」については、削減効果が大きく、一定の支払い意思があるにもかかわらず、取り組む意向が弱い結果となっている。このような行動変容を後押しすれば、社会全体で効果的・効率的な削減が進むと期待される。
[図] 行動変容に関する需要家へのアンケート調査結果
[図] 行動変容に関する需要家へのアンケート調査結果
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出所:三菱総合研究所

コストに加え選択肢や情報の不足が阻害要因

同調査では、行動変容の項目ごとに6つの課題を示し、どれが阻害要因となっているかを尋ねた。行動変容の種類に応じて多少のばらつきは見られたものの、企業も消費者も「初期費用」「取り組み効果の情報不足」「そもそも選択肢が存在しない」を、相対的に大きな阻害要因として挙げた。

残り3つの選択肢は「継続費用」「企業活動・生活の質・利便性低下」「取り組み選択肢の情報不足」だった。

前述した、削減効果は大きいが取り組み意向が弱い「エネルギー選択の変更」においても、企業・消費者の双方が、これら上位3つの阻害要因を挙げた。特に企業は、「そもそも選択肢が存在しない」ことが最大の阻害要因であるとしており、コストよりも大きな課題であることがうかがえる。

選択肢と効果情報の提供が効果的

それでは、どのような促進策が、行動変容への取り組みを後押しするのに効果的なのだろうか。「経済的なインセンティブ」「投資家からの評価(企業向け)」「取り組みに対する充実感や達成感の付与(消費者向け)」「十分な選択肢や情報の提供」という、企業と消費者向けに各3つの施策を提示したうえで、取り組み意向の変化を分析した。

「エネルギー選択の変更」を促進するのに最も効果的な施策としては、企業・消費者ともに、「十分な選択肢や情報提供」を挙げた。

前述のとおり、阻害要因としては初期費用に加え、選択肢不足、取り組み効果の情報不足が挙げられた。このことからすると、選択肢と効果に関する情報の提供をこれまで以上に進めていけば、行動変容を後押しする余地は、まだまだ大きいと考えられる。

行動変容を促す仕組みの構築を

「エネルギー選択の変更」を促進する方法としては「特定地域の電源から電力を調達することで、地元に貢献したい」という需要家が、その意向に沿った電源を選びやすくするサービスの提供が考えられる。多様な需要家に再エネ発電所の選択肢を一括で提示して、エネルギー選択の変更を促すのである。このようなサービスについては 特集3「再エネ価値の顕在化に向けて」で詳述したい。

需要家の行動変容を停滞させないためには、行動を変えるための支援を提供することが求められている。その支援は必ずしも経済的なインセンティブによるものだけではないことが、アンケート調査からも示されている。

具体的かつ実践可能な選択肢に関する情報を効果的・効率的に需要家に届ける仕組みを、官民問わず構築していく必要がある。

※1:残る2つは電力部門の早期ゼロエミッション化と、戦略的なイノベーションの誘発。
MRIエコノミックレビュー(2021年9月7日)「2050年カーボンニュートラル実現に向けた提言」

※2:企業の事業活動における全消費電力を再エネ由来とすることを目指す国際組織。

※3:パリ協定と整合した温室効果ガス削減を目指す国際組織。

※4:気候関連財務情報開示タスクフォース。ここでの「賛同」は、TCFDの提言に沿った情報開示を指す。

※5:倫理的消費。人や社会・環境に配慮した消費。

※6:行動変容の具体的な内容を例示(企業には31種類、消費者には26種類)した上で調査を実施した。聞き取り対象(n)は、企業が2,057件、消費者は2,140件である。

※7:自らの敷地内に設置した再エネ発電設備。

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