マンスリーレビュー

2023年8月号トピックス1ヘルスケア

医療・介護制度の維持に必要なこと

2023.8.1

イノベーション・サービス開発本部杉浦 千加志

ヘルスケア

POINT

  • 社会保障制度維持には「支え合い」と「自立」のバランスが大事。
  • 健康維持には一人ひとりの「自分事化」と「日常化」が鍵。
  • 健康データを軸に多様な業界・ビジネスを巻き込み社会実装を。

医療・介護費の増加は制度維持の大きなリスク

厚生労働省の試算では2018年度に56.8兆円だった医療・介護費は高齢化率上昇に伴い2040年度に100兆円以上に達する。国民一人あたり約89万円となり2018年度比で約2倍の増加だ※1

社会保障制度は皆で支え合うための制度であり、一人ひとりの自立がその前提にある。制度の健全な維持に向けては、適切な範囲での自立が欠かせず、普段の健康管理やフレイル(要介護の前段階の状態)予防が重要となる。

意識や行動を変えるには自分事化が効果あり

未病やフレイルを予防するヒントは、当事者意識をもって「自分事化」することにある。例えば健康診断の後で、将来の疾病の可能性を示す検査値を示されても、「自分には関係ない」と感じた経験はないだろうか。都合の悪い情報を無視したり過小評価したりする人の特性は、心理学では「正常性バイアス」として知られている。

正常性バイアスによって、自分の命に直結する災害時の避難行動などの際も適切な判断が妨げられることがある。自らの安心安全に関わるからといって「自分事化が容易」と考えるのは早計だ。ではいかにして実感を伴う自分事化を促すのか。直接的なアプローチではなく、「利用者視点の価値提供に置き換える」ことに解決策がある。

例えば当社も2022年に参画したSDGs活動にポイントを付与する実証実験では、参加者の約6割がポイント獲得を理由に参加し、結果として、9割近くが「SDGsを意識して活動することが習慣になった・増えた」と評価している※2。ポイントを利用者視点の価値とすることで、SDGsへの貢献という目的が達成されることを確認できた。

同様に体重や血圧の測定などの健康管理面でも、ポイントの付与により病気やフレイルの予防などを実現できるのではないだろうか。

健康データを軸とした業界連携を

もう一点重要なのは「日常化」だ。せっかく自分事化しても、活動頻度が低いとその意識は薄れて、行動も続かない。仕事、通勤、家事、買い物などの健康維持につながる普段の活動にポイントを付与することで、自分事化と日常化が図られ、医療・介護費の適正化にもつながる。

今後必要となるのは、「日常の活動をセンシングした健康データ」と「ヘルスケアに限らない多様な業界を巻き込んだ取り組み」である。体組成計やスマートウオッチなどの健康データを取得できる機器の普及も進んだ。マイナポータルで自分の過去の診療記録や健康診断結果の取得なども可能となっており、環境は着々と整っている。

医療・介護制度の維持には、スタートアップの参画を含めた業界連携によるヘルスケア事業の活性化と拡大がもはや必要不可欠である。

当社自身も、利用者の立場に真摯(しんし)に寄り添って、健康データの利活用を軸に、さまざまな業界をつないだエコシステムを構築し、医療・介護分野での社会課題解決に取り組んでいく。

※1:厚生労働省(2018年5月)「医療・介護費の将来見通し」。

※2:MRIマンスリーレビュー2023年5月号「行動変容を促進するサービスの具体アプローチ」