マンスリーレビュー

2023年5月号特集2スマートシティ・モビリティ経済・社会・技術

行動変容を促進するサービスの具体アプローチ

2023.5.1

English version: 23 June 2023

地域イノベーション本部田口 友子

POINT

  • ポイントをきっかけにした取り組みが行動機会の創出につながる。
  • 企業価値向上に社内外のステークホルダーの行動が重要な役割。
  • 個社の取り組みに限界がある中でactfulnessが共創のきっかけになる。

actfulnessがウェルビーイング創出の鍵

コロナ禍を経てリアルな日常が戻りつつある中で、個人の新たな価値観・ニーズをくみ取り、ウェルビーイング(永続的な幸福)を実現するために何が必要だろうか——。当社は「actfulness(行動機会の創出)」の施策が鍵を握ると考える※1

その際、企業は個人のウェルビーイングをどう支援し、自社の価値向上に結び付けることができるのか。一例として複数の企業によるSDGs達成に向けた行動変容の促進事例を紹介する。取り上げるのは、東京の大手町・丸の内・有楽町地区(大丸有エリア)のSDGs実現に向けた企業間連携の取り組み「大丸有SDGs ACT5(以降、ACT5)」だ。

ACT5によるSDGs貢献活動の定量把握

ACT5では、SDGsというテーマのもと、スマホアプリを基盤にして行動変容の実態を定量的に把握している(図)。3年目の2022年にはエリア内外84の企業・団体とパートナーシップを組み、2,500人以上がアプリを利用した。

特徴は2つある。第1に約4,300事業所が集積し約28万人が働く大丸有エリア内外の多数の企業が資金・人材・ノウハウなどのリソースを持ち寄り、個社では不可能な幅広いテーマ・活動の探求をプロジェクトベースで実現している点。第2は、SDGsセミナーへの参加や資源回収などの活動に対してポイントを発行している点である。

具体的には、利用者がスマホアプリをダウンロードしてエリア内の店舗などでSDGs活動をするごとにポイントを受け取り、サステナビリティに配慮した特典と交換したり社会貢献団体に寄付したりできる。アプリから取得されたデータで行動変容の実態も定量的に評価して、後述する価値向上施策の高度化を図ることができる。
[図] 大丸有SDGs ACT5における施策→行動変容→価値向上の道筋
[図] 大丸有SDGs ACT5における施策→行動変容→価値向上の道筋
出所:三菱総合研究所

ポイントを契機に新たな行動機会を創出

SDGsポイントの付与※2※3では実際に行動変容の促進効果が確認できた。2022年度のアンケート調査では、アプリ利用者の約60%がACT5への参加理由として「ポイントがもらえること」とした一方、利用者の約87%がアプリを利用した活動を通じて「SDGsを意識して活動することが習慣になった・増えた」と評価した。

一日の歩数が8,000歩に達するとポイントが獲得でき、社会貢献団体に同額の寄付が行われる「チャリティウォーキング」でも、寄付機能を実装する前後で歩数の目標達成数が前年比約160%に向上したという結果が得られた※4。ポイントインセンティブの有効性とSDGsに対する理解・関心の醸成を通じた個人の選択・行動の変化は顕著といえそうだ。

さらに最初はSDGsポイントの獲得を目当てにセミナーイベントに参加した人が、発展途上国の衣類廃棄の問題について学び、実際に店舗での衣類回収に協力するといった行動の連鎖も生じた。一つの行動を起点に正の連鎖が始まることもactfulnessの醍醐味といえよう。

企業価値向上につながる行動変容を見極める

こうした行動の連鎖は、SDGs貢献活動の輪の広がりに加えてユーザーが大丸有エリアで過ごす楽しみにもつながっている。参加企業にとっても、新しい価値の創出そのものである。

実利もある。ポイントを発行した店舗のブランド力、認知度が向上し、来店客数の増加に伴う収益機会の拡大につながることになる。

特筆すべきはインナーブランディング効果も認められたことだ。参加企業の多くから、従業員のSDGsへの理解が深まり、これまで関わりのなかった分野の社会課題に対する関心が広がったという声が上がった。これはACT5を通じて他店舗・企業のSDGs活動に触発された結果だと分析できる。その意味でACT5は、従業員の意識啓発を通じて人材価値向上を促したといえよう。

これらの実例を踏まえると、actfulnessを実践するサービスを企業が提供する際、社内外のステークホルダーに対してどのような行動機会を提供し、自社の取り組みにどうやって還元させるか思索することが肝要でないだろうか。

ただし個社だけではサービスの提供範囲や持続性に限界もある。その場合はactfulnessをきっかけとしたプロジェクトベースの共創が突破口になる。当社もACT5の一員としてSDGsポイントのプラットフォーム提供を行ってきた。引き続き価値創造に向けて、行動創出と行動変容を実現するサービスの社会実装に取り組んでいきたい。

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