マンスリーレビュー

2023年5月号特集3スマートシティ・モビリティ経済・社会・技術

行動とウェルビーイングの関係を解き明かす

2023.5.1

政策・経済センター酒井 博司

POINT

  • 行動とウェルビーイングの関係の「定量化と可視化」に注目。
  • 定量モデル化でウェルビーイング向上の要素が整理可能に。
  • 属性、嗜好、価値観の違いでウェルビーイング向上要素も異なる。

actfulness行動設計の課題は何か?

個人の「行動」と「ウェルビーイング(永続的な幸福)」の関係はおぼろげにイメージできても、具体的な影響の及ぼし方は明らかではない。都市計画やモビリティの分野はその設計に当たり人流データの活用が求められることから、この問題を解き明かす意義はとりわけ大きい。

当社は主要研究テーマの「actfulness(行動機会の創出)」の社会実装を推進するべく、多くの交通関連事業者との意見交換を通じ、行動とウェルビーイングの関係を計測する際の2つの課題を認識するに至った。

1点目は、actfulnessによる住民満足度と沿線価値の向上がウェルビーイング向上に資すると事業者も理解していても、具体的な対応プロセスが見えないこと。2点目は、地域住民の「愛着」や「思い入れ」の持続化に必要なきめ細かな施策を提供する際、属性の違い、嗜好(しこう)や価値観の差異に応じきれていないと事業者自ら実感していることだ。

これらの課題に共通する背景として、各種施策の客観的な効果を計測する分析モデルや指標を事業者が持ち合わせていない点が挙げられる。

メカニズムを解明する2つの方法

課題の解決に向けては、actfulnessの推進・実現により、利用者のウェルビーイングや事業者の収益向上につなげるべく「適切な効果測定」による可視化を推進する必要がある。

2022年5月に行ったアンケート調査※1の個票を用い、当社は2通りの方法でactfulnessに関わる行動とウェルビーイングの関係の定量化を試みた。

初めに、個人の行動量がウェルビーイングに与える影響を評価する関数※2により推計をした。次いで特集1「行動と価値を結ぶ『actfulness』の挑戦」でも触れた4つの価値「WiNGS(Wish、New、Great、Smooth)」を潜在変数と見なしてウェルビーイング変数との因果関係をみる共分散構造分析※3を行った。ウェルビーイングに影響を与える要素は、属性や嗜好の違いに伴い各価値で大きく異なることを両分析によって確認できた。

ウェルビーイングに至る行動を特定する

一例として、ウェルビーイングへの影響度が大きい婚姻状況と外出行動の増加意向の2軸による4象限に分けた分析結果を紹介する。

ウェルビーイングに正の影響を与える行動要因は、第1象限(既婚者かつ外出行動を増やすニーズが強い層)は「おしゃれ」「スポーツ」「外出趣味・娯楽」などがウェルビーイングに寄与する一方、第3象限(未婚者かつ外出行動を増やすニーズが弱い層)では「ゆとり・休息」「自身の学び」「コミュニケーション」などの寄与度が大きい※4

この結果は、属性や嗜好に応じたactfulnessを具現化するサービス群の提供が、利用者のウェルビーイング、事業者収益の双方にとって重要であることを示唆している。例えば第1象限ではウオーキングルートの提案や新しいレストラン、娯楽施設の情報提供が有効であり、一方で第3象限は勉強会情報や交流会の案内などの効果が大きい。

さらに共分散構造分析による定量化を通じて、ウェルビーイングの向上に有効なサービスの姿が浮かび上がった。ここでは4つの価値観が個人の意識に潜在すると仮定して、Wishには「自身の学び」や「おしゃれ」、Newは「ゆとり・休息」や「家事関連」などアンケートから得られた行動項目を仮にひも付けした(図)。
[図] 共分散構造分析による行動とウェルビーイングの要因分析の例
[図] 共分散構造分析による行動とウェルビーイングの要因分析の例
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出所:三菱総合研究所
ウェルビーイングに影響を与える要素をパス係数※5(標準化解)から検証すると、第1象限ではWish、Great、Smoothと幅広く要素が分散する一方、第3象限ではほぼWishに限定される。このことから第1象限向けには複数の価値を総合的に満たすサービス、第3象限向けには目的に特化したサービスの提供がウェルビーイング向上に有効であることが示唆される。

望ましい行動設計への道

当社が実施した定量分析からも明らかなように、属性や嗜好、価値観の違いがウェルビーイングに与える影響は振れ幅が大きい。事業者がactfulnessの実現に向けたサービスを目的別かつ適切に提供するには、時々刻々と変化する環境や関心を把握しつつ利用者属性や各種の嗜好、価値観などによりセグメント化を行い、それぞれを定量化、可視化したデータに基づいてサービス内容をきめ細かく検討し、最終的に設計に結び付けることが前提となる。

それにより初めて、個人の行動変容とウェルビーイングの向上、さらには企業・地域の持続的発展が可能となるのである。

※1:「生活者市場予測システム(mif)」モニターを対象に、2022年5月20日~5月24日に行った「行動に関する調査」。回答数は1,964。

※2:具体的な関数形は当社リリース(2022年9月27日)「actfulness-行動が価値を生むプロセスの見える化-」

※3:複数の変数間の因果関係の仮説を立て、検証することができる多変量解析の一手法。

※4:回答者のウェルビーイング得点は全平均で5.46点(10点満点)に対し、第1象限は平均7.03点、第3象限では平均4.96点と大きな開きがある。

※5:共分散構造分析において項目間の関係性の強さを示す係数(標準偏回帰係数)。

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