元プロサッカー選手 長谷川太郎氏 セカンドキャリアインタビュー(3)

引退アスリートのキャリア成功の鍵

2020.9.3

現役時代から自分自身をマーケティングすることの大切さ

—— 長谷川さんは、サッカー選手時代に引退後を見据えて取り組んでいたことはありましたか?

長谷川 2002年にアルビレックス新潟へ移籍した時に、海外の選手たちは現役時でも引退後のことを考えていることを知りました。そこで、自分も何か資格などがある方が良いのではと思い、本屋さんで資格に関する本を徹底的に調べて、たくさん購入しました。無知だったので、まずはどういう資格があるのか、どういう仕事があるのかを学ぶことからはじめました。セカンドキャリアを意識したのはそこからでした。
そうした中で、Jリーグ引退後ビジネス界で活躍していた外池大亮氏(現・早稲田大学ア式蹴球部監督)の紹介で、現役中に2回、一般企業のインターンシップに参加しました。1回目は2004年でした。ただこの時は会社見学と商品戦略の会議に参加させてもらったくらいでした。2回目は2009年です。個人事業や起業に興味がある人を対象とした研修を受け、企業とは何か、起業のために必要なこと、事業計画の立て方などについて3日間学びました。

—— 2014年の引退後はどうされたのですか?

長谷川 サッカー以外の仕事は、アルバイトも含めてそれまで一度も経験したことがなかったので、まず友人を介して警備員のアルバイトをしてみました。昼間はサッカースクールのコーチをし、夜の12時から朝の11時までは警備員。そうしながら、正社員雇用の会社を探しました。人から紹介を受けると断れなくなってしまう性格のため、自力で探しました。

—— 自分で求人を探して面接に行ったのですね。

長谷川 元プロサッカー選手ということをアピールし、幾つか内定をいただきましたがしっくりきませんでした。どういう会社が良いのかもわからず、また会社員としてやっていく勇気もなく、最初の一歩が踏み出せなかったです。そんなときに、知人を介してスポーツのアンダーウエアなどを販売している会社に出会いました。この会社であれば、アスリートたちに貢献できるのではないか、今までの経験が活かせるのではないか、自分の成長につながるのではないかというイメージをもったのです。

—— 入社前に悩んだことはありましたか。

長谷川 パソコンもできないし、サッカー以外は何もできないという不安はありました。名刺交換はしたことがありましたが、それが正しいビジネスマナーなのかもわかりませんでした。ただ、経験してみないと自分の可能性はわからないし、わからない中でも会社員を経験したいという気持ちはありました。

—— 現役中にビジネススキルを学ぶ機会はなかったのですか。

長谷川 Jリーグの研修でマナー研修やパソコン研修がありました。そこで基礎は学びましたが、現役中はマナーやパソコンを使う機会がなく、忘れてしまっていました。
また国内にいた時は意識しませんでしたが、海外に行って自分が「商品」であると痛感しました。自分をプロデュースできないといけない、それには自分を知らなければならない。さらに、自分を選んでもらうにはどうするべきか。例えば、たくさんあるチョコレートの中から、何でそれを選ぶのだというときに、健康に良いとかストレスを軽減する効果があるといった理由があります。こうした考えのもと、自分は何ができるのか、何に強いのかを意識するようになりました。

—— サッカー選手としてのキャリアの終盤ではありましたが、海外経験を踏まえて、自分自身のマーケティングの大事さに気づかれたのですね。これはビジネスに通じるのではないでしょうか。

長谷川 日本にいた時は、自分を商品だと思ってほしくないという気持ちがありました。商品じゃなくて選手だというイメージが強かったです。今になって振り返ると、現役中に自分を商品として見立てて、自分の何かを売り出してみようというプロデュース研修みたいなのがあったら良かったかなと思います。サッカー教室をやるにしても自分を売り出す必要があります。このサッカー教室は何で売り出すのか、何を教えるのか、ターゲットは誰かとか。そのチラシを自分でつくる。色はどうするか、パワポでつくるかとか。そうした場があると覚えるし意識づけにもなります。抵抗なく、気持ちよくお金を払っていただいて、資金が回るようにするには、どうするべきなのか。現役選手の多くは、企画力や営業力や行動力があまりないので、そこを向上させるために自分を商品として売ってみようという入り方だとやりやすいように思います。そういった経験や考え方を現役中から身に付けておけば、引退後のセカンドキャリアもスムーズではないかと思います。

—— 自分を題材にしたマーケティングはサッカー選手としても役に立ちますし、引退後、ビジネスパーソンとしても役立つ知識となりますね。これこそがデュアルキャリア構築に有効なノウハウですね。
写真
写真:小村氏(すごラボ)撮影
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