元プロサッカー選手 長谷川太郎氏 セカンドキャリアインタビュー(7)

引退アスリートのキャリア成功の鍵

2020.9.3

アスリートだったからこその強み

—— アスリート経験は、ビジネスでは、どのように活きていると思いますか?

長谷川 人生のゴールを考えた時に、豊かでいることとは、どういうことなのか。しっかりキャリアアップしていること、そして健康でいること、さらに人との交流があること。「サッカー」では、それらが全部得られていたと思います。サッカーで、キャリアアップ・健康・交流を得て、自分自身も成長させてもらいました。これからは、自己満足だけでなく、次世代に発信していかねばという段階です。ダメかもと思ったときこそ、さらに一歩先へ踏み込む力は、サッカーを続けていたからこそ、突き詰めて考えていたからこそ、身に付けた大事なことです。

—— アスリート出身のビジネスパーソンとして、自覚している強み、弱みは何ですか?

長谷川 「しつこい」「勘違い力」「根拠のない自信」「曲げない」「頑固」、これらが強みと思っていますが、他人からは、プライドが捨てられないと見られるところもあると思います。特に競技を長くプレーしていたり、スポーツ選手時代の成功体験があることが、会社員になった時にかえって弱みにつながる要素にもなってしまうことも多いのです。だからこそ区切りが必要で、自分自身のキャリアの解釈と転換が必要なのだと思います。

—— TREでは、Jリーグの育成プログラムやさまざまなメソッド、海外のトレーニング様式などに頼らず、独自のオリジナルを目指した理由は何でしょうか。

長谷川 ゴール前だけに特化して伝えた方が「色」が出ると思いました。一般論では、ボールの回し方やドリブルの仕方が重要ですが、ゴールから逆算してどういうプレースタイルをつくるかというメソッドも必要であろうと思ったからです。自分が選手として培った「必ずゴールをする」という目的の中で、どのようにそこまでの道筋をつくるのか、イメージできるようにするのか。そのつくり方や姿勢を伝えたかったのです。ドリブル、ボールの回し、戦術面も大事ですが、サッカーは最後に必ずシュートがあります。ゴールを常に意識した中で逆算して、どういうプレーをしていくのかを伝えたいのです。シュートを打つ時も、具体的でなければいけません。顔の位置はどうするか、体の向きはどうするか、声がけはどうするか。ゴールをよく見ろと言いますが、見てしまうとあごが上がりスピードダウンする。だから、間接視野で見てシュートを打つ、ゴールは見るのですが見方が違うとか。言葉で表現するのは難しいのですが、実は奥深いのです。

—— 逆算で考えるイメージが詰め将棋に似ていますね。

長谷川 自分はプロになるまでは「逆算力」があったと思います。プロになってから、「逆算力」があいまいになってしまいました。一試合一試合出ることだけに集中してしまい、一喜一憂してしまう自分がいた。引退に追い込まれたときに、まだサッカー選手でありたいが、今はこの位置にいる。ではどうすれば良いのか。そうしたギャップを考え、目的達成のためにどうやってギャップを穴埋めしていくのかを具体的にしてきました。現状と目標との差分を見極め、目標に至る道筋を考えるという癖は今もあると思います。

—— 自分をコンサルティングしていくような生き方ですね。そのような人生を振り返ってみて、長谷川さんにとっての大きなターニングポイントは何でしたでしょうか。

長谷川 2015年10月に自分の引退試合をブリオベッカ浦安にご協力いただきプロデュースしたこと、区切りをつけられたことですね。もうサッカー選手には戻らないというピリオドを打ったこと。それが終われば、もう新しい自分で前を向くしかないだろうという気持ちをつくれたことは大きかったかもしれません。この経験が今の活動にもつながっているし、引退選手にそのような気持ちづくりをつくってあげる活動(サポーツマン)にもつながっています。サッカー選手としては、2004年の半年契約の時と、2013年に海外でプレーしたこともターニングポイントですね。

—— 最後に、現役選手に先輩としてセカンドキャリアのアドバイスをお願いします。

長谷川 今を大事にしながらも、自分という商品価値をどうすれば高められるか、そういう経験がセカンドキャリアをつくります。人に伝える能力、表現の仕方がポイントになってきます。自分を発信する力が大事です。言霊という言葉があるように自分がどういうふうにやってきたのか、どうしたいのかを言葉に変換して伝えられると良いと思います。 
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写真:長谷川氏提供
長谷川太郎(はせがわ・たろう)プロフィール

1979年8月17日生。東京都足立区出身。1998年柏レイソルU-18からトップチームに昇格しJリーグで高校生デビューを果たす。翌年、ナビスコカップ優勝に貢献。2002年アルビレックス新潟を経て、2003年ヴァンフォーレ甲府に移籍。J2日本人得点王となりJ1昇格の立役者となる。2007年徳島ヴォルティス、2008年 横浜FC、2009年ニューウェーブ北九州(現・ギラヴァンツ北九州)、2011年浦安JSC/SC浦安(現・ブリオベッカ浦安)でプレーした。2014年インド・Iリーグ1部のモハメダンSCを最後に現役引退。2015年、一般社団法人TREを発足。「2030年 みんなで育てよう! W杯得点王」をミッションに、ゴールを通じて、決断力・覚悟・責任感を養い、世界に通用する選手を育成する活動『TRE2030 Striker Project』を実施。日本人初ストライカーコーチとしてブリオベッカ浦安、慶應義塾大学体育会ソッカー部に所属。また選手が区切りをつけるためをサポートする「アスリートの1.5キャリアを応援するプロジェクト『サポーツマン』活動」や、ストライカー選手権大会「キングオブストライカー」の主催など幅広く活動している。
【一般社団法人TRE HP】http://www.tre2030.com/
【サポーツマン】http://supportsman.spo-sta.com/
【長谷川太郎プレー集】https://youtu.be/qjvBe3oJoIU
TRE2030 STRIKER PROJECT
取材・文 : 小村大樹(おむら・だいじゅ)
草創期のメンタルトレーナーを経て、総合学園ヒューマンアカデミー、一般社団法人日本トップリーグ連携機構などに従事。
現在は、NPO法人スポーツ業界おしごとラボ理事長・小村スポーツ職業紹介所所長。
株式会社三菱総合研究所 アスリートキャリア支援事業プロジェクトに協力。

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