元プロサッカー選手 長谷川太郎氏 セカンドキャリアインタビュー(6)

引退アスリートのキャリア成功の鍵

2020.9.3

セカンドキャリアに必要なポイント

—— TREを起ち上げて5年がたちました。順調に感じますがいかがですか。

長谷川 ストライカープロジェクトだけですと、活動を共にしてくれる仲間に活動範囲の制約をかけてしまうので、もっと誰にでも当てはまる夢のプログラムなどをつくり、伝えていくことも大切だと感じています。今まではストライカーというテーマのもと、思いをカタチにすることしか考えていませんでした。ストライカーを起点にもっと広くサッカーを通して、その先のきっかけづくりをイメージできるプログラムをつくるのが今の課題です。指導者、親御さん、子どもたちの相乗効果を毎日継続できるワクワクするプログラムですね。

—— 素敵ですね。課題はありますが、現状には満足していますか?

長谷川 サッカー選手の頃と同じで、ずっと満足しないのだろうなと思っています(笑)。
コーチの指導を例にとってみても、最初は熱量でスタートしましたが、明確に動画などを通して見せることで、子どもたちの意識も変わりました。意識が変わるとうまくなっていく。子どもたちの成長と共にわれわれも進化し、当初より良いスクールになっていますが、これからも進化し続けると思います。自分自身も場の経験を積むうちに、教え方もシンプルにわかりやすい表現に変化していきます。相手によって投げる言葉も変わります。何よりも目標が大事で、2030年W杯で得点王を輩出することです。

—— これまでを振り返り、成し遂げたことや成功要因で考えていることを教えてください。

長谷川 一番大事にしているのは、仕事のお声がけがあったときは、内容で選ばずに必ずやらせてくださいという姿勢です。やれないとは言わないこと。チャレンジしていく気持ちを忘れないためです。自分に仕事をいただけるということは、期待をしてくださっているわけです。期待に応えれば、もう一度話をいただける。期待以上の成果を生み出せば、感動していただける。そうすればもっと良い仕事につながっていく。サッカー指導でも、子どもたちに真摯に向き合う。どんな子であっても気持ちをもって指導をする。例えば、足を触って蹴ることを教えてあげると、子どもはその感覚を忘れない。貪欲に日々を積み重ねたことで、今では、Jリーグの下部組織に入った子ども、ナショナルトレーニングセンターに選出された子ども、大会の得点王になった子どももいます。
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写真:長谷川氏提供

—— 逆にこれまででつらかったことはありますか?

長谷川 TREを起ち上げた当初はつらかったです。コーチと2人でのスタートでした。コーチに給与を支払う一方、自分には実入りがないということも多く、貯金もゼロに近づいてきたときは、とてもつらかったですね。ただ、そんな中で、いろいろな人たちが手を差し伸べてくれました。自分で発信するよりも、周りの方々がTREを発信してくださることがうれしかったです。また、感覚がルーキーの時代と似ていて、運動量を上げて、まずは1年やってやろうと。それが2年、3年……。そして今につながっている感じがしますね。

—— いろいろな話を聞いてきましたが、スポーツ選手のセカンドキャリアに関しては、どう思われますか。

長谷川 アスリート引退後も自己肯定感を継続させるためには、「世の中のためになっている自分」というのがポイントであると考えています。引退した後に世の中のためになっていないとか、未来が見えず、生活ができなくなってしまうと、子どもたちも親御さんもスポーツ選手を目指さない方が良いのではないかという雰囲気になってしまいます。そうなると、スポーツをしなくなってしまう。スポーツを通じたコミュニケーションの場も減ってしまうのではないでしょうか。スポーツは人を元気にさせることができるツールだからこそ、アスリートの価値をもっと引き上げていきたいと思っています。学校や企業の協力も必要ですが、自分たちが訴え続け、地域の方々にも理解してもらい世の中を明るくさせていく。「朝TRE」はそのための場でもあり続けたいと思っています。
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写真:長谷川氏提供

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