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Google Project Ara から予見される未来産業の姿

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2015.2.25

政策・経済研究センター川崎祐史

経済・社会・技術
 Googleは、カメラやセンサーなどのモジュールをユーザーが自由に取り替えられるスマートフォンを開発する革新的プロジェクト“Ara”を進めている。1月14日の開発者会議では、2015年後半にプエルトリコで試験販売をスタートすることが発表された。

 Googleはモジュールを組み込む骨格の設計情報だけでなく、モジュールの設計用ツールをモジュール開発者に提供する。Googleが携帯電話やタブレット端末用として提供したOS Androidは、さまざまな企業のアプリ開発への参入を促した。“Ara”はハードウエアの世界でも同様のことをもたらすのではないかと予感させる。赤外線カメラ、360度カメラから放射線測定センサー、アルコール濃度測定センサー、ストレス度を測定するアミラーゼ測定センサーなどさまざまな機能モジュールが“Ara”というプラットフォームのもとで将来開発されるかもしれない。そうなれば製品のスペックや、モジュールのアップグレードをユーザーが決められるようになり、よりニーズにあった製品を提供できる。さらにはユーザー起点で思いもよらない製品が登場するかもしれない。

 プラットフォームは、IT分野ではアプリケーションソフトを稼働させるための基本ソフトやハードウエア環境を意味するが、多数の第三者が利用できる標準仕様やそれを具現化したものと広く捉えることもできる。過去の歴史を振り返ると、さまざまなプラットフォームの出現が産業構造の変革や新たな産業の創出をもたらしてきた。最近ではコンピューター数値制御による工作機械や産業用ロボットの出現が、工業製品のグローバルな分業体制を実現した。こういった生産効率を高めるためのプラットフォームは今後も進化を続けるだろうが、21世紀は生活者ニーズの多様化に応えるためのハードウエアのプラットフォームが出現する時代となるだろう。

 革新的設計者が、既存製品のカスタマイズ性を高めるという限定的な発想ではなく、まだ見ぬ未来のピースを誰かがはめ込むことを想定したプラットフォームを提供する。プラットフォームの提供者は大きな対価を手にする。しかし同時に、卓越した機能モジュールを開発した者が、大企業への部品サプライヤーとしてではなく、独立した最終製品モジュールの提供者として、大きな対価を手にする時代が到来する。日本には優れた部品メーカーが多い。プラットフォームの出現は部品メーカーにとって新たなチャンスとなるだろう。
図 プラットフォームの出現で変わるものづくり
図 プラットフォームの出現で変わるものづくり
出所:三菱総合研究所