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北海道夕張市のコンパクトなまちづくり構想

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2015.4.23

政策・経済研究センター白戸智

経済・社会・技術

■急速な人口減少と財政破綻

 北海道夕張市はかつての炭鉱の町であり、最盛期は1960年代に人口約10万8千人(昭和35年国勢調査)を擁したが、相次ぐ炭鉱閉山により人口減少を続け、2014年にはついに1万人を切った。わが国の人口減少・高齢化の極端な先行事例である。
 市では炭鉱の後継産業として1980年代前半から第3セクターによる観光開発に着手、その後も拡大を図った。しかし、バブル崩壊とともに2007年に財政再建団体(制度変更により現在は財政再生団体)の指定を受け、いわゆる財政破綻となった。
 財政破綻に陥った自治体は、国、都道府県の指導のもと、財政再建計画に沿った厳格な緊縮財政を余儀なくされる。夕張市も職員人件費や物件費が大幅に減額され、新たな地方債の発行も原則として禁止された。現在は、2008年から2年間、東京都から支援職員として派遣された鈴木直道市長(元東京都職員)の下、財政再建の取り組みが進められている。

■住民のQOL向上と都市経営コスト軽減の両立を目指したマスタープランを策定

 夕張市の特徴は、住民5,486世帯に対して総戸数3,709戸、入居戸数2,264戸(2014年4月時点)という公営住宅の多さにある。炭鉱閉山時に、事業会社の炭鉱住宅を譲渡されたものも多く、空き家率は約39%と高くなっている。
 2007年の財政再建計画書と2009年の財政再生計画書で公共施設関連の費用削減の方向性が示され、2012年3月に「夕張市まちづくりマスタープラン」が策定された。同プランは、厳しい財政状況下で住民の“生活の質(QOL)”を確保するため、「安心して幸せに暮らせるコンパクトシティゆうばり」という、コンパクト化の方針を積極的に打ち出したものとなった。「当面」と「将来」の二つの市街地像が提示され、「当面」の市街地像では地区ごとのコンパクト化を進めるが、「将来」の市街地像では南北軸への市街地の集約化を目指し、そこから外れる地区については市の地理的中心にあたる清水沢地区などへの集約を図る、という方針が示されている(図1参照)。
図1 夕張市まちづくりマスタープランの概要
図1 夕張市まちづくりマスタープランの概要
出所:「夕張市まちづくりマスタープラン」2012年3月、夕張市

■住民合意による住宅移転事業の実現

 2011年には、コンパクト化施策実現の第一歩として、市の中心に位置する清水沢地区の市営住宅建て替え(地区内コンパクト化)と周辺住宅からの住民移転が着手された。清水沢地区は、マスタープランで今後の夕張市の中心地区に位置づけられており、新たな公営住宅整備や民間賃貸住宅の誘導によって、住民が集中的に居住することが期待されている。
 2012年より、市の南北軸から外れ高齢化率6割超の真谷地地区では、「住棟集約」による再編・整備が進められている。鉄筋コンクリート造3階建て団地14棟のうち、6棟分の入居者を他棟に移転し、空き家の解消と6棟分の維持管理費の削減を図る。住棟集約に当たっては、住民の意思を尊重するため、市は北海道大学や北海道立総合研究機構と連携・協働して、移転に関するアンケートやヒアリングを入念に実施し、住民意向に極力配慮した移転が実施された。

■他地域は何を参考とすべきか

 筆者が2014年8月に夕張市を訪問した際に、市の案内で真谷地地区の住民集会に同席する機会を得た。その日は、再編事業に関わってきた北海道大学・瀬戸口研究室の学生が、住民の持ち寄った野菜を使って、住民にこれまでの協力への感謝の意としてカレーやサラダの昼食をふるまっているところであった。高齢の住民の方々が、孫のような学生たちと、楽しそうに語らう姿が印象的であった。
 地域の再編は、これから多くの自治体に生じてくる問題である。ただし、その実現には「住民の理解と合意」という高いハードルが待ち構えている。時には、夕張のように、時間と手間をかけた取り組みも必要となってくる。
 その際に重要なのが、行政だけでなく、瀬戸口研究室のような外部の協力者も含め、地域が一体となった体制を構築すること、関係者が目標を共有して根気強く取り組むことである。夕張は、マスタープランを策定することで目標を共有することができた。今後の道のりは長いが、関係者の思いは強く、きっと前に進み続けるだろう。
 これから人口減少のピークを迎える全国各地においても、人口減少・高齢化の将来に対する冷静な見通しと、その地域を残すための熱い思いの両方を共存させ、地域全員でそれらを共有することが何より重要ではないか。