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日本の防災対策への国際的な評価

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2015.12.10

政策・経済研究センター東暁子

経済・社会・技術

● 仙台市における第3回国連防災世界会議の開催

 今年の3月14日~18日に仙台市において、計187の国連加盟国の参加のもと第3回国連防災世界会議が開催された。同会議は、国際的な防災戦略について議論を行う国連主催の会議であり、1994年の第1回会議は横浜、2005年の第2回会議は神戸と、過去2回の会議も日本において開催されている。特に第2回会議では、2005年から2015年までにわたる国際的な防災活動の指針とされる「兵庫行動枠組(Hyogo Framework for Action)2005-2015」が採択され、その後10年間の世界的な防災の取り組みのあり方を方向づけることとなった※1。
 日本政府による第3回国連防災世界会議の日本誘致表明に合わせ、仙台市は2011年5月に同会議の仙台・東北への誘致を表明し、誘致活動を行ってきた。そして2013年12月に、国連総会本会議において、第3回国連防災世界会議の開催地を仙台市とすることと、会議の日程に関する決議が採択された。「兵庫行動枠組2005-2015」の最終年に当たる2015年に開催された第3回国連防災世界会議では、新たに「仙台宣言」、ならびに今後15年間の国際的な防災活動の指針となる「仙台防災枠組(Sendai Framework for Disaster Risk Reduction)2015-2030」が採択された※2。
 「仙台防災枠組2015-2030」では、①災害リスクの理解(関連データ収集・分析や災害リスク評価など)、②災害リスク管理のための災害リスクガバナンス(防災戦略計画の採択など)、③強靭化に向けた防災への投資(ハード・ソフト対策を通じた防災への官民投資など)、④効果的な応急対応に向けた準備の強化と「より良い復興(Build Back Better)」(土地利用計画の改善を含めた災害予防策など)、の4つの優先行動が策定されている。
 図1が示すように、世界の自然災害による被害額は増加傾向にあり、有効な防災対策の構築は各国の重要な課題となっている。
図1 世界の自然災害による被害額と災害発生件数
図1 世界の自然災害による被害額と災害発生件数①
図1 世界の自然災害による被害額と災害発生件数②
出所:「ルーバン・カトリック大学疫学研究所のデータ」から三菱総合研究所作成

● 世界でも高レベルの日本の自然災害リスク

 国連事務局の組織の一つであり、国際防災戦略を目的として2000年に発足した国連国際防災戦略事務局(UNISDR)は、隔年で世界の災害リスクに関する報告書である「Global Assessment Report on Disaster Risk Reduction」を公表している。2015年には第3回国連防災世界会議の開催に合わせて、同報告書の最新版が公表された。
 「Global Assessment Report on Disaster Risk Reduction 2015」では、主な自然災害として地震、台風、津波、洪水をあげており、また近年研究が進められてきた自然災害として、火山噴火を新たに取り上げている。表1が示すように、日本はいずれの災害においてもリスクの高い地域となっており、日本は世界でも最も自然災害のリスクの高い国の一つとして位置付けられている。
表1 世界の主要な自然災害とその地域性・リスクの高い地域
自然
災害
特徴 主なリスクの高い地域
地震 発生頻度は低いが、国内で広範囲にわたり被害を与える可能性がある。
      国別では日本、アメリカの太平洋沿岸地域、イタリア、チリなど。

    地域別では中南米地域・中東地域など。
台風 地震、津波などの災害と比較すると、発生頻度は比較的高い。 アジア諸国(フィリピン、台湾、日本など)、マダガスカル、アメリカなど。
津波 発生頻度は低く、被害範囲は比較的狭いが、発生した地域には壊滅的な被害を与える 東アジア地域(特に日本)、太平洋地域。
洪水 影響を受けるおそれのある人口は他の災害の場合より多い。 世界の広範囲な地域で発生。
火山 火山噴火のリスクは特定の地域に集中しているが、火山灰の影響なども考慮すれば、被害はより広範な地域に及ぶ可能性がある。 被害を受けるおそれのある人口のうち95%は、インドネシア、フィリピン、日本、メキシコ、エチオピア、グアテマラ、イタリアに集中※3

 出所:「Global Assessment Report on Disaster Risk Reduction 2015」から三菱総合研究所作成
 直近の大規模な地震の事例として、「Global Assessment Report on Disaster Risk Reduction 2015」は2011年の東日本大震災を取り上げている。また地震に起因する場合が多い津波に関しても、東日本大震災時の東北地方の事例について多くの記述を行っている。日本における津波被害の深刻さは海外でも広く知られており、英語でも「津波」には「tsunami」という単語が用いられているほどである。
 台風に関しても、日本を含むアジア地域は被災リスクが高い地域としてあげられている。また世界でも一部の地域に集中して発生している火山噴火に関しても、日本は重大な影響が懸念される国の一つとして数えられている。そして最も噴火するリスクが高い火山はインドネシア、メキシコ、フィリピン、日本に集中しており、日本は世界の中でも火山の噴火によるリスクを最も警戒すべき国の一つにもなっている。
図2 世界の自然災害による被害額と災害発生件数
図2 世界の自然災害による被害額と災害発生件数
出所:「ルーバン・カトリック大学疫学研究所のデータ」から三菱総合研究所作成

● 国際的に評価される日本の防災対策

 長年にわたり、このような自然災害のリスクに直面して日本が培ってきた防災対策は、国際的に高い評価を受けている。図3に示されるように、「Global Assessment Report on Disaster Risk Reduction 2015」は、防災のための投資を積極的に行うことにより、洪水の被害を抑えることに成功した国の事例として、日本における洪水被害の推移を扱っている。また同書は、災害後の迅速な防災への取り組みの事例として、2011年3月の東日本大震災後の同年12月に制定された「津波防災地域づくりに関する法律」(津波防災地域づくり法)を紹介している。
 また「Global Assessment Report on Disaster Risk Reduction 2015」は、地震の発生が集中している日本では、アメリカと同様に他国よりも厳しい建築基準を設定しており、このことが建造物の損壊などによる被害の拡大を抑制することにつながっていると言及している。建造物が損壊しやすい地域では地震や台風の被害は拡大するため、図4が示すように、中・低所得国において自然災害による死者数が大きくなっていることが懸念されている。
図3 日本における洪水被害の推移※4
図3 日本における洪水被害の推移※4
出所:「Global Assessment Report on Disaster Risk Reduction 2015」より
図4 自然災害による1984年~2013年の世界の死者数と割合※5  (単位:千人)
図4 自然災害による1984年~2013年の世界の死者数と割合※5  (単位:千人)
出所:「平成27年版防災白書」から三菱総合研究所作成
 日本では今後も、世界の中でも最も高い自然災害のリスクと常に向き合い、さらなる防災対策を整備していくことが不可欠である。同時に、これまで日本が蓄積してきた防災対策は国際的にも高いレベルに達しており、この蓄積を各国に提供していくことが期待される。これらの防災対策の蓄積には、インフラ整備などのハード面の対策だけでなく、ハザードマップ作り、避難訓練・避難警報、携帯電話での緊急連絡や災害用伝言板など、ソフト面の対策も含まれ、国際的にも大きな貢献となるだろう。

※1:「兵庫行動枠組2005-2015」(暫定和訳)は外務省ホームページ(HP)(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/kikan/pdfs/wakugumi.pdf)より取得可能。

※2:「仙台宣言」(仮訳・英文)、「仙台防災枠組2015-2030」(骨子・英文)は外務省HP(http://http://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/gic/page4_001062.html)より取得可能。

※3:この他の火山噴火のリスクが高い国としてはアイスランドがあげられる。

※4:原データはJICAより提供。

※5:原データはEM-DATをもとにアジア防災センターが作成。