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進む都市化とHabitat3

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2015.10.21

政策・経済研究センター 主席研究員白戸智

経済・社会・技術

■世界中で進む都市化

世界の都市人口は2000年代半ばに農村人口(非都市人口)を上回り、現在は世界人口の54%、約39億人に達している。さらに国連の予測によれば、世界の都市人口は、2030年には全人口の60%(約51億人)、2050年には66%(約63億人)に増加する。

世界の都市人口の増加の中心となるのはアジアとアフリカである。2050年までに都市人口増加が著しい国は、インド(4.04億人)、中国(2.92億人)、ナイジェリア(2.12億人)と予測されている。

従来、都市化は、人口集積地周辺への工業集積の形成と、そこへの農村人口の流入から始まるとされてきた。やがて都市人口集積がもたらす都市型のサービス経済の発展が国全体の産業高度化を促し、その国のGDPを押し上げていく。日本の戦後の高度経済成長はまさにこのパターンであった。韓国、台湾など第二次大戦後に急成長を遂げた東アジア諸国も、おおむねこのパターンで発展を遂げてきた。

一方で、東アジア諸国よりも遅れて都市化が始まった国々では、必ずしもこのパターンが実現していない。例えば南米諸国は、第二次大戦後の一時期に急速に工業化が進展したものの、その後の世界的な産業競争の中で成長が停滞し、農業輸出国としての発展に切り替えている。アフリカ諸国では、工業化にも農業の近代化にも失敗した結果、農村から都市にあてのない人口流入が続いている。中国は急速な工業化と経済成長に成功したが、その成長があまりに急激だったため、都市への人口集中の「オーバーシュート」状況が発生している。紛争の続く中近東でも、健全な都市発展が図られていない。近年では、都市化が必ずしも国全体の発展に結びつかない状況となっている。
都市問題の構造図
出所:三菱総合研究所

■スラムの拡大と都市の環境悪化

こうした状況は都市の人口過剰とスラム化をもたらす。発展途上国で進む都市の巨大化の多くは、その縁辺部に大規模なスラムの形成を伴っている。国際連合人間居住計画(UN-HABITAT)の推計によれば、世界のスラム人口は、2000年の7.6億人から、2013年には8.6億人に達した。UN-HABITATでは、スラム住民が都市住民全体に占める比率も推計している。最も高い地域はアフリカのサブサハラ(サハラ砂漠以南)圏で、スラム住民比率は61.7%にも達している。インドなどの南アジア諸国もスラム住民比率が35%に達しているほか、紛争国のスラム住民比率も極端に高くなっている。

都市が経済的に発展することで、こうしたスラムは自動的に解消していくという見方もある。実際に2000年から2012年にかけてのスラム住民比率の減少傾向を見るとこうした見方が支持されているようにもみえるが、実はこれは都市人口の母数の増加によるものであり、スラム人口の絶対数は減少していない。
世界の都市スラム住民比率
世界の都市スラム住民比率
出所:“Streets as public spaces and drivers of urban prosperity”UN-HABITAT

■UN-HABITAT福岡本部の取り組み

世界のスラム問題を解決するために重要な役割を果たしてきた国際機関の一つがUN-HABITATだ。国連機関の中でも日本ではあまり知名度は高くないが、実はこのUN-HABITATのアジア太平洋地域の拠点は福岡市にある。

先日、UN-HABITAT福岡本部を訪問し、深澤良信本部長にお話を伺う機会を得た。UN-HABITAT福岡本部は、アジア太平洋地域担当として、アフガニスタンから太平洋諸島までを担当範囲として、コミュニティレベルまで入り込んだ都市の環境改善や災害復興などを実施している。特に最近は、地域外の機関が支援をするのではなく、現地のコミュニティの中から活動をするメンバーを育てていくことに重点を置いているとの言葉が印象的であった。国際機関としては珍しい日本の地方都市立地についてお伺いしたところ、国際便も発着する福岡空港のアクセスの良さが、メンバーの活動に大変助けになっているとのことであった。日本の地方都市を起点に、このような国際的に有意義な活動が展開されていることは、われわれにとっても誇らしいことに思われた。

■HABITAT3開催

UN-HABITAT は正式名称を、United Nations Human Settlements Programmeと言い、社会面・環境面で持続可能な都市・まちづくりを進めることで、全ての住民に十分な居住環境を与えることを目的としている。1976年に国連の特別総会としてバンクーバーで開催された「居住に関する会議(The 1st United Nations Conference on Human Settlements:Habitat)」を契機に設立され、その際に採択された「人間居住に関するバンクーバー宣言」が現在の活動の基礎となっている。

1996年には2回目の国連人間居住会議(Habitat 2)がイスタンブールで開催された。この時点から、関係者の意識はスラム問題から都市問題全般に広がってきた。

UN-HABITATの「世界都市白書2012/2013」(STATE OF THE WORLD'S CITIES 2012/2013 Prosperity of Cities)では、経済、環境、生活質などの側面から「都市の繁栄」を捉え、そのバランスのとれた発展を図っていく施策方針が提案されている。これまでの都市の貧困層に対する国家施策や国際援助がいわば貧困に対する対症療法が中心となっているのに対して、貧困の発生自体を抑えるべく、都市構造や都市の産業構造にまで変えていくことを目指している。

2016年10月17~20日には、エクアドルのキトで3度目の国連人間居住会議(Habitat3)が開催予定である。既に世界各地で関連する下部会合が動き始めている。Habitat3では、これまでのUN-HABITATの考え方をさらに一歩進めた「新しい都市アジェンダ(The new urban agenda)」が採用される予定である。UN-HABITATでは、この新しいアジェンダで、都市と農村の均衡ある発展、平等な社会の実現、都市計画に沿った計画的な都市発展などを取り上げていく予定だ。21世紀の都市が住みよい場所であり続けるよう、世界の都市関係者の英知が結集されることを期待したい。
UN-HABITATの提唱する「都市の繁栄の車輪」コンセプト
UN-HABITATの提唱する「都市の繁栄の車輪」コンセプト
出所:「STATE OF THE WORLD'S CITIES 2012/2013 Prosperity of Cities」UN-HABITAT