それでは、なぜ「日本的雇用慣行」は高度成長期に普及したのか。森口(2013)は、以下の表にある7つの相互補完的な人事政策※2が高度成長期において全てそろい、安定的な均衡が成立したため、とみる。高度成長期は、日本のGNPは世界2位となり、世界経済におけるプレゼンスは高まっていた時期である。その時期においては、家電の三種の神器に代表されるように、人々の嗜好は画一的であり、経済はキャッチアップの過程にあった。企業としては、安価で質の高い労働力が正確な仕事をできることで競争力を高める方向を重視し、その結果として企業内として長期的に人材を育成していく仕組みの構築が促された。また、1960年代後半には高校進学率が急上昇し、大企業におけるブルーカラー労働者の人的資本の質が飛躍的に向上したことにより、ホワイトカラーとブルーカラーの双方から構成される「正社員」を一元管理することが容易となった。それらの要因が相まって、日本型モデルが確立したのである。企業内における人的資本投資と長期雇用保障を約束する日本型モデルは、高い生産性を実現することで高度成長の推進力となった。終身雇用や年功賃金に伴う人件費の増大やポスト不足の問題も、高い成長が解決を可能にする。それにより両立困難な「豊かさ」と「平等」が同時に達成されたのである※3。
②体系的な企業内教育訓練
③査定付き定期昇給、昇格
④柔軟な職務配置と小集団活動
⑤定年までの雇用保障
⑥企業別組合と労使協議制
⑦ホワイトカラーとブルーカラー従業員の「正社員」としての一元管理