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危機管理産業展(RISCON TOKYO)2015開催

IoT拡大と地方創生の観点から

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2015.12.8

政策・経済研究センター白戸智

経済・社会・技術

■今回の特徴

 去る10月14~16日に東京ビッグサイトで、「防災・災害」、「セキュリティ」関連業界が一堂に会する危機管理産業展(RISCON TOKYO)2015が開催された。主催は(株)東京ビッグサイト、特別協力が東京都で、2005年に第1回が開催され、今回が11回目の開催となる。
 今年は、2020年の東京オリンピックを控えてテロ対策や防災などの、東京の脆弱性対策がメインテーマとして据えられた。また、ドローン、ロボットなどの新技術活用も本年度展示の大きな目玉と言えよう。一方で、最近相次ぐ火山噴火や豪雨被害など、地域の防災対策関連の動きも活発化しているようであった。

■急がれるテロ対策

 各国からの人々が集まる東京オリンピックにおいては、テロ対策が重要課題となる。1972年のミュンヘンオリンピックにおける「黒い9月事件」など、過去にも痛ましい事件が発生している。また、昨今の国際情勢悪化の中、これまで大規模なテロ事件と無縁な国でもテロ事件が発生している。
 わが国では、オウム真理教によるサリン事件を契機にテロ対策の必要性が認識され、9.11事件以降、一定の対策も取られたが、危険性を増す昨今のテロ攻撃に対する備えは十分とは言えない。例えば、今回のRISCON内のセミナーで、一般社団法人日本安全保障・危機管理学会の山口 芳裕氏(杏林大学医学部)が指摘していたように、わが国のテロ対策に関しては、NBC(核、生物、化学兵器)攻撃に対する救急医療体制の不備や、実際のテロに対する現場の経験・知見不足、テロに対応した救急医療教育の不足など、重要な課題が山積している。
 大都市部でもそうであるならば、地方都市においてはなおさらであろう。諸外国における最新のテロ対策や発生後の対応に対する経験・知見の共有と、一刻も早い医療・警備などの対応体制構築が求められる。
 今回展示の目立ったものとしてドローン、ロボット、顔認識機能を持った監視カメラなどがある。今後犯罪・テロが多様化し、それに対する警備側の人手不足も予測されることから、無人で広範囲をカバーできるドローンやロボットは、防犯・防災に重要な役割を果たす。一方で、当然のことながら、犯罪やテロの実行者もこうした新技術を活用してくるであろう。例えば監視カメラについても、朝日新聞の調査ではインターネットで接続されているセキュリティカメラ(いわゆるwebカメラ)の3台に1台はパスワードなどのセキュリティ対策がなされておらず、外部から操作も可能な状態にあるとのことである。IoT(モノの情報ネットワーク化)が現実化し、さまざまな社会システムのICT化が進む中、堅固なITセキュリティも重要となる。
 こうした危機管理に対する社会コストの増大や、個人のプライバシー保護など関連する課題も多様である。その中でテロ・犯罪対策を進めるには、こうしたテロ・犯罪に対する社会や個人の危機意識の共有が重要となろう。進むグローバル化の中、地方も良い意味でも悪い意味でもこうした国際的な流れから無縁ではないと考えるべきである。

■防災レジリエンスの向上

 東日本大震災の後、各地で地震や地下水の異変、火山の噴火などが発生したことから、日本は地殻活動の活発期に突入したのでは、という専門家の見方が報道されている。実際はそんなに簡単なことではないようで、例えば、先日毎日新聞が公開した火山学者へのアンケート結果では、東日本大震災前後に日本列島の火山活動は活発化したのかという問いに対して、3割近くは「活発化している」と回答したものの、4割超は「変わっていない」と回答したとのことである(10/18毎日新聞)。産業技術総合研究所(産総研)活断層・火山研究部門の山元孝広総括研究主幹など、むしろこれまでの100年間が平穏すぎたのではとの専門家意見もある。いずれにせよ、地震大国・火山列島である日本では、全国どこでも災害に対する備えの強化は急務であるということであろう。
 首都直下地震、南海地震に対する危機意識も高まりつつある。平成27年2月に国の地震調査研究推進本部が発表した「これまでの活断層及び海溝型地震の長期評価結果一覧」では、M8~9クラスの地震発生確率“10年以内20%、30年以内70%”という数字は据え置きであったが、前回の当該地震発生からの経過時間と平均発生間隔との比率である地震後経過率は0.78に達した。首都直下でM7クラスの地震が発生する可能性も30年間で70%と評価されており、「いつ発生してもおかしくない」状況は続いている。
 豪雨被害も注目されている。今年9月、茨城県下の鬼怒川流域で堤防が決壊し、5,000軒近くの床上浸水が発生して3人が死亡した、この洪水被害は、100年確率を超える降雨による越水が直接の堤防決壊原因ではないかと言われている。
 こうした多様な自然災害リスクの高まりを受けて、防災・減災対策の展示は、災害発生時の実践的な対応に向けた製品・サービスの紹介に力が注がれていた。
 地方自治体向けの対策として目立ったのは、防災情報集約・共有システム、防災訓練システムなど、ICTを活用した防災マネジメント支援サービスである。NTT、パナソニックなど大手企業による情報システムに加え、より小さな企業による、オープンソースによる普及しやすさを狙ったシステムも出品されていた。
 ドローンを活用した災害情報収集システムも今回の特徴である。鬼怒川水害の際にも、国土地理院がドローンによる浸水域の情報収集を行ったが、今後はドローンによる情報収集や災害情報収集システムとの連動が、地方自治体レベルにおいてもスタンダードとなる可能性がある。
 出展物の中には個人向けの防災シェルターなども見られた。災害被害を軽減し、社会活動・生産活動や個人の生活の早期回復を図る、「地域防災レジリエンス」の向上には、公共だけでは人的リソース、資金、タイミングなどさまざまな面で限界がある。今後、行政が地域の企業とどのように協力していくのか、また、個人の参加する自助・共助とをどう実現し、行政の活動と強調させていくのかは大きな課題である。東京の防災を語るシンポジウムに参加していた森ビルの河野雄一郎取締役常務執行役員からの報告では、ビル入居者だけのための防災ではなく、街と共存する防災に取り組む姿勢が紹介されていた。企業などと協力しながら、街や地域としての一体的な防災機能をどう高めていくのかも、今後の行政の課題である。

■地域産業としての危機管理

 会場を見る限りでは、防災・危機管理市場は拡大傾向にあるようだ。会場では、これまでの国内防災・セキュリティ関連産業だけではなく、大学や米国企業等の参入もみられた。企業と大学の連携も進んでいるようである。
 地域産業育成の観点では、山梨のベンチャー企業であるHACK JAPAN ホールディングス社が出展していたセキュリティロボット「KB-BOX」が興味を引いた。大手警備会社の警備ロボットとは異なり動かない監視ロボットであるが、ネットワークカメラを搭載し、農産物盗難防止や児童通学の安全確保を意識しているという。新しいプレーヤーの参加により、地域密着型、ユーザー志向、新技術活用の多様な製品・サービス開発が、地域ベースで進むことに期待がかかる。

■地方創生と危機管理

 RISCONは東京都で開催され、今回の内容も東京オリンピックが意識されたものであるなど、地方とは関係の無い話と取られがちであるが、内容を見ると、今後の地方創生にも重要なヒントとなる展示が多かったのではないかと思う。地方を愛し、地方に住む人を増やす、そのためには、いうまでもなく安全・安心の確保が重要である。地域を自らのものとして捉え、地域の安全実現に対して皆が意識を持ち、協力しあう、これが地方創生の基本条件であろう。また、安全上の課題は地域それぞれである。地域に合ったソリューションを実現するには地域の状況を熟知した地域企業への期待がかかる。こうした対策に取り組みたい起業家の支援やベンチャー企業の育成を含めて、地域力の強化を図っていく必要がある。
図 わが国の火山の噴火時期と噴火規模
図 わが国の火山の噴火時期と噴火規模
出所:「大規模火山災害対策への提言(参考資料)」広域的な火山防災対策に係る検討会(平成25年5月)