日本の養殖もかつては奇形ハマチの問題や水質汚濁の問題などで、大きな問題となったことがあるが、現在は自然と共存した養殖が進んでいるように見える。それでは、日本の漁業のどこが資源を大事にしていないのであろう。
秋田県のハタハタ漁業者が平成4年から3年間、自主的に禁漁を行った。過去1万トン以上あったハタハタの漁獲高が、前年の平成3年に70トンまで落ち込んだための漁業者の決断である。その後ハタハタ資源は2,000トンレベルまで回復し、青森県、秋田県、山形県、新潟県の関係4県により「北部日本海海域ハタハタ資源管理協定」も締結された。
しかしながら、これは貴重な例外と言える。かつて北海道の沿岸を埋め尽くし100万トン近かったニシンの漁獲量は1900年代に入り減少を続け、今では数千トンのオーダーとなっている。(「魚はどこに消えた?」ウェッジ、片野歩著)
マルハニチロ水産の片野歩氏の同著では、同じくニシンが消えたノルウェーの漁獲枠を重視する漁業への転換が詳しく紹介されている。ノルウェーをはじめとする海外諸国では、資源保護のための漁獲枠(TAC)が設定されるとともに、その漁獲枠は総量だけが決められるオリンピック方式(皆が自分の取り分を増やそうと競争する)ではなく、個別の漁業者、漁船ごとに漁獲量が割り振られる個別割当制度(IQもしくは割り当てが譲渡可能なものがITQ)が採用されている。漁業者は、自分の枠を有効に生かすため、価格が高い大型の経年魚を選別的に漁獲し、小型魚はとらないため資源が保全される。こうしてノルウェーでは資源量の回復が進んでいる。
先日、東京で開催された日経エコロジー主催「魚から考える日本の挑戦」シンポジウムでは、マグロの自主的禁漁を行い資源回復に努める壱岐のマグロ漁業者の取り組みが紹介されていた。昨年2カ月間の禁漁でも今年の回帰には良い影響が出ているとのことである。それに対して国でも今年からメジマグロ(マグロの稚魚)の漁獲規制に取り組むことになったが、決定された今年の漁獲枠4,007トンは近年の漁獲実績を上回る値であり、どこまで効果があるのか疑問の声も上がっている。この漁獲枠は「中西部太平洋マグロ類委員会(WCPFC)」の各国協議に基づき設定されたものだが、外洋漁業の場合はこうした関係国間の協調も重要となる。
欧州では、衛星通信により漁船の居場所が把握できるVSMの普及も進んでいる。これは漁船の操業位置を明らかにし、操業違反をなくすものであるが、同時に事故時などには漁船の探索にも役に立つ。日本ではこれに対して自分の漁場がわかってしまうとの反発もあるという。漁師が、腕を競って捕れるだけの魚を捕るという意識から自ら転換するのは相当に難しいことであろう。水産にかかわる全ての関係者が早く危機意識を共有し、これまでの「捕れるだけ捕る漁業」から、「捕りながらじっくり資源を育てる漁業」に転換することが望まれる。