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日本の温暖化対策、まずは約束草案に向けた着実な取り組みを

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2016.2.23

政策・経済研究センター清水紹寛

エネルギー・サステナビリティ・食農

■プレッジ&レビュー方式のパリ協定が採択される

 昨年末11月30日から12月12日にかけて、パリで気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が開催され、パリ協定(Paris Agreement)が採択された。1997年に採択され2005年に発効した京都議定書(Kyoto Protocol)に続く、2020年以降の枠組みを規定するための、節目の会議だった。
 採択されたのが“協定(Agreement)“となっている点にご注意いただきたい。COP3の京都会議の際には京都議定書(Kyoto Protocol)が採択された。トップダウン式に各国目標が割り振られるという形をとっていたが、温室効果ガス排出大国の米国や中国がこの枠組みの中に入っていなかったこと、先進国のみの目標を定めるにとどまったことなどが反省点として挙げられている。“議定書(Protocol)“とは、会議で議定した事項を記録した文書のことで、会議に出席した一定割合の賛成とその文書への署名がないと発効せず、署名した加盟国のみに適用される。会議に参加しても反対した国や、参加しなかった国には適用されないのだ。
 今や先進国からの温室効果ガス排出量よりも新興国からの方が多いご時世である。世界中の多くの国々が参加できる目標の定め方をしなければならず、しかも産業革命以降の気温上昇を2度に抑えるという、いわゆる2度目標も達成しなければならない。
そこで“協定”である。“協定”では会議に参加した全員が署名するのが普通で、逆に言えば、全会一致できるように調整されることになる。各国に自らの目標を宣言させ(約束草案)、その達成状況を確認するという、ボトムアップ的なプレッジ&レビュー方式がとられたのだ。これに難を唱える国は少ないのではなかろうか。

■各国の批准対象は、「目標の提出、検討、評価、見直し」の一連の手続きに関して

 パリ協定は「COP決議(COP Decision)」と「パリ合意(Paris Agreement) 」からなり、前者では「現行の目標では2030年の排出量は55Gtとなるが、2度以下とするためには40Gtにする必要がある」、「1,000億ドルの資金拠出」などが、後者では「温度上昇に関して2度を十分下回る水準に抑え、1.5度以下にするための対策を講じる」、「約束草案を5年おきに提出する」などが規定されている。
 「決議」は各国の批准が必要なく、一方、「合意」は批准対象である。排出削減義務を課したり、資金拠出の金額が記載されたりした「合意」内容とはせず、各国目標の提出、検討、評価、見直しの方法について規定したものとなっており、各国が批准しやすくなっている。一連の手続きが法的拘束力の対象となっているが、目標の達成自体は法的義務とはなっていないのである。
 表 パリ協定の概要
項目 決議案 (COP Decision)
(各国批准対象外)
合意案 (Paris Agreement)
(各国批准対象)
全体目標 現行の目標では2030年の排出量は55Gtとなるが、2度以下とするためには40Gtにする必要がある。 温度上昇を、2度を十分下回る水準に抑え、1.5度以下にするための対策を講じる。今世紀後半には排出と吸収のバランスをとる。
各国目標 各国は約束草案を2020年までに提出またはアップデートし、5年ごとに再提出を求める。発効前の2018年には再検討。 約束草案を5年おきに提出することを記載。 排出削減だけではなく、適応、資金、技術、能力育成、透明性確保に関しても強化(先進国による支援の強化を含む)。
柔軟性メカニズム 「協力的アプローチ」が具備すべき要件。 「協力的アプローチ」について記載(国際派的な排出削減量の移転は当事者間の合意で実施可能)。
損失と被害 住民移転の防止、最小化、対応の方法について検討する等。 現行制度の果たす役割及びそれらの強化(第8条)。
資金 1,000億ドルの「floor」からの増加を2025年までに検討すべきこと。 資金支援を実施すること、先進国は2年おきに報告すること。
その他 透明性の担保、2020年以前の対策など。 透明性の担保、発効要件など。

■簡単ではない日本の約束草案の履行

 COP21に先立って各国は約束草案の提出を求められたが、提出された約束草案を積み上げても、2度目標を達成するためには2030年時点で150億トンものCO2をさらに削減しなければならないと分析されている。日本の温室効果ガス排出量が13億6,500万トン(2014年)であるから、10倍以上にのぼる量である。各国にはさらなる努力が求められることになる。
 ところで、日本の約束草案はどのような内容になっているのであろうか。
 国の資料によると、「2020年以降の温室効果ガス削減に向けたわが国の約束草案は、エネルギーミックスと整合的なものとなるよう、技術的制約、コスト面の課題などを十分に考慮した裏付けのある対策・施策や技術の積み上げによる実現可能な削減目標として、国内の排出削減・吸収量の確保により、2030年度に2013年度比▲26.0%(2005年度比▲25.4%)の水準(約10億4,200万t-CO2)にすることとする。」としている。
 この目標に対して環境NGOからは、目標の野心度が「不十分」であるとの評価を受けている。同様の評価を受けたのはオーストラリア、カナダ、韓国、ロシアなど。一方、中国、アメリカ、EUなどは「中程度」と位置づけられている。
 前述の資料には、目標を実現するため、エネルギー起源CO2の部門別排出量の目安が示されている。業務部門、家庭部門では2013年から2030年にかけて約4割削減しなければならない。これまでなかなか削減が進まなかった部門で、これだけの削減率である。そう簡単な削減目標ではない。国際エネルギー機関(IEA)が出している「世界エネルギー見通し2015」においては、今後のCO2削減のけん引役として、EU、日本、米国が挙げられているほどだ。まずはこの約束草案に向けた取り組みが求められる。
  表 部門別の排出量の目安

  2005年
排出量
2013年
排出量
2030年
排出量
2013-30年
排出削減率
エネルギー起源CO2 1,219 1,235 927 ▲25%
産業部門 457 429 401 ▲7%
業務部門 239 279 168 ▲40%
家庭部門 180 201 122 ▲39%
運輸部門 240 225 163 ▲28%
転換部門 104 101 73 ▲28%
その他温室効果ガス 178 173 152 ▲12%