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OPECの減産合意の意味

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2017.1.30

政策・経済研究センター清水紹寛

経済・社会・技術
 2016年11月30日に開催されたOPEC(石油輸出国機構)総会において、加盟国の原油生産量を調整することが合意された。歴史的な合意と評する声もあるが、その後に続く原油価格回復に向けた道程の一里塚に過ぎない。何が決まったのか、今後何を見ていく必要があるのかについて確認しておきたい。

達成できた課題:減産合意なるか

  2015年末に開催されたOPEC総会では油価回復に向け生産調整されるのではないかと期待されていた。しかし、経済制裁解除を目前に控えたイランが減産に反対し、OPEC全ての加盟国が同調すべきとするサウジアラビアと対立した。その結果、サウジアラビアが減産調整を放棄、米国シェールオイルとのシェア獲得争いに走ったことで、主だった産油国も増産を続けた。当然のことながら原油価格は下落し、一時WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)が1バレル30ドルを割り込んだ。これはリーマンショックの時よりも低い値である。

 その後も油価は概ね1バレル50ドルを切るレベルで推移し、財政が悪化した産油国は方針転換しなければならない局面を迎えていた。2016年9月の臨時総会においてOPEC全体として日量3250~3500万バレルに抑えることで合意、これを踏まえ各国に減産目標を割り当てたのが11月の総会である。

 合意内容の詳細を見てみよう。2016年10月の生産量を基準として、OPEC全体で日量120万バレルの減産を求めており、9月の臨時総会で決まった低い方の値に合わせたものとなっている。減産期間は2017年1月から半年間だが、状況によってはさらに半年間の延長もあるとしている。

 個々の国に対しては、インドネシア、リビア、ナイジェリアが減産を免除された。インドネシアは原油の純輸入国になりOPECから外れることになったためであり、リビア、ナイジェリアは政情不安により大幅に原油生産量を落としているためである。

 注目すべきは14カ国中イランのみが増産を許されたことだ。イラン自体は経済制裁前の日量400万バレルを回復しなければ減産はあり得ないとしていたが、大幅ダウンの日量380万バレルで合意、イラン、サウジアラビア両者のメンツを立てた格好となっている。この380万バレルという値もなかなか意味が深い。OPECは毎月“Monthly Oil Market Report”を発表しているが、OPEC加盟国の原油生産量として2種類の数字を出している。自己申告(direct communication)と外部の調査会社(secondary sources)による数字で、なぜこの2種類の数字を発表せざるを得ないのかは置いておくことにして、国によっては大きな開きがある。イランの場合、自己申告による10月の生産量は日量400万バレルに近い数字になっているが、調査会社によるものではとてもそんなレベルには達していない。380はこれらのちょうど中間の値となっているのである。

 その他の国はどうであろうか。サウジアラビアはOPEC全減産量の4割を超える日量49万バレルを引き受け非常に減産量が多いイメージがあるが、上述の例外国を除き4.6%程度の均等の調整割合となっている。
(表1の中で、生産量は生産水準と調整幅から産出した値。OPEC crude oil production based on secondary sourcesの10月の値とは異なるものがある。)
表1 OPEC加盟国の減産目標
表1 OPEC加盟国の減産目標
出所:“Monthly Oil Market Report”(OPEC)他各種資料より作成
 一方、非OPEC加盟国も日量60万バレルの減産を行うことが条件とされており、ロシアを中心に、メキシコ、オマーンなど11カ国が減産に協力している。そのレベルを見るためにIEA(国際エネルギー機関)のデータを用いてOPEC加盟国と同様の比較を試みたのが表2である。
表2 非OPEC加盟国の協調減産目標
表2 非OPEC加盟国の協調減産目標
出所:“Oil Market Report”(IEA)他各種資料より作成
 OPECの調整割合より少ない4%程度となっているが、ロシアは2.6%にとどまっている。OPEC並みの4.5%にすれば非OPEC加盟国の目標の約9割をロシア1国でカバーできてしまうが、話はそう簡単ではない。これについては後述する。

今後の課題1:減産目標を達成できるか

  これまで生産枠を設定しても守ってくることのできなかったOPECの歴史があるだけに、減産合意後は「目標を達成できるか」に注目は集まっている。OPEC総会でも、減産に関するモニター機構を設立することが決定された。クウェート、アルジェリア、ベネズエラに加えて非OPEC加盟国2カ国から成り、議長はクウェート代表が務める。

 そもそも目標はクリアすることが難しいレベルなのか。老朽設備の生産量の自然減により、容易に達成可能と見る向きもある。イランはそうした国の一つかもしれない。IEAの“Oil Market Report”のデータでイランの原油生産量の推移を見ると、2016年4月以降、日量400万バレルに達しないまま横ばいの状況が続いている。西側の資金や技術を導入して老朽設備を更新するか、増進回収法※1による採取を行わないと、さらなる増産は望めないであろう。たとえ日量400万バレルを生産しようとしても、これ以上の増産は短期的には難しいのではなかろうか。
図1 イランの原油生産量の推移
図1 イランの原油生産量の推移
出所:“Oil Market Report”(IEA)より作成
 OPECやロシアでは、特に2016年になって原油生産量を増しており、過去最高水準の生産量となっている。その増産分を減らすだけで目標は達成可能だと見る向きもある。
図2 OPECの原油生産量の推移
図2 OPECの原油生産量の推移
出所:“Oil Market Report”(IEA)より作成
図3 ロシアの原油生産量の推移
図3 ロシアの原油生産量の推移
出所:“Oil Market Report”(IEA)より作成
 ロシアは、2016年11~12月の生産量を基準に、今年前半に日量30万バレルの減産に応じるとしている。11~12月に生産量を積み増せば減産はさらに容易になり、減産する時期も1月からとは言っていない。より都合の良い状況を整えているかのようにも見える。

 実はこれには理由がある。ロシアの油田は中東と比べ1坑当たりの生産量が低く、自噴井からポンプ井に切り替わっているものが多い。これらを停止して生産調整し、その後再開するには膨大な手間とコストがかかってしまう。また、ロシアの原油の6割を占める西シベリア産原油はパラフィンを多く含み、冬に設備を止めるとパイプライン内で原油が固化してしまい、再稼働するのは非常に難しくなるのである。

 技術的問題ばかりではない。政府には石油生産量を直接コントロールする規定がないという法律上の問題もある。石油会社に協力を要請する、石油輸出税の増税によって投資意欲を抑え生産抑制する、といった方法しかとれないのである。

 ロシアにOPEC並みの対応を期待できず、あげられた条件の範囲内での取り組みがせいぜいといったところなのであろう。

今後の課題2:目標達成が原油価格の回復につながるか

 OPEC総会の結果を受け、原油先物取引市場は反応、WTIは直後に1バレル49ドル台まで値を上げた。闇雲な増産合戦が終結したことを評価したものであるが、今後何処まで回復するのか。

 原油価格が上がればシェールオイルも増産されてくるだろう。シェールオイル生産の先行指標となるリグ稼動数も2016年5月を底に増加に転じている。これまで1バレル40~70ドルといわれていた損益分岐点も、30~40ドル台でも採算の取れる井戸が出てきている。トランプ政権では、シェール開発にかけられていた規制が撤廃され、開発がさらに加速することが予想される。
図4 米国リグ稼働数と原油価格・生産量の推移
図4 米国リグ稼働数と原油価格・生産量の推移
出所:JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)資料をもとに作成
 こうした状況を考慮すると、1バレル60ドル台は望みにくく、50ドル台前半の状況が続くのではなかろうか。

 11月30日のOPEC総会前、産油国ばかりでなく、IEAも合意がまとまるようコメントを出していた。IEAはオイルショックの時に加盟国の石油供給危機回避を目的として設立された機関であり、このような石油消費国を中心とする組織が石油価格上昇に向けた動きを支持するのは意外に思われるかも知れない。行き過ぎた低油価は石油開発・設備更新への投資を鈍らせ、将来の安定供給を脅かすとして適切な油価を求めたのである。

 割り当てられた減産目標は達成できるのか、シェールオイルは生産量を伸ばすのか、その結果として原油価格は何処まで戻すのか、当面、6月までの動向を注視したい。
参考:OPEC総会後に発表された加盟国の減産目標(OPECプレスリリースより抜粋)
参考:OPEC総会後に発表された加盟国の減産目標(OPECプレスリリースより抜粋)

※1原油を採取するには、自噴あるいはポンプによる人工採取する方法(一次採取法)、生産量が減退すると、水を圧入して油圧層の圧力を回復し、産油量の増加を図る水攻法(二次採取法)が一般的に用いられてきた。さらに高い採取を目的とした方法が増進回収法(EOR:enhanced oil recovery)である。熱攻法、ケミカル攻法などがある。