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新型コロナ パンデミック宣言から1年 第1回:防疫と経済のバランス

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2021.3.26

政策・経済センター森重彰浩

パンデミックで様変わりした世界

WHOによる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック宣言(2020年3月11日)から、1年が経過した。高い感染力と一定の致死率を有する新種のウイルスに対して、世界各国が手探りで対応を進めてきた。2020年4-6月期には、欧米を中心にロックダウンなど厳格な防疫措置が実施され、世界経済は戦後最大の落ち込みをみせた。

その後、世界主要国のGDP水準だけみれば、コロナ危機前の98%の水準まで回復してきたが、個人の生活、企業活動、金融などの姿はコロナ危機前から大きく変化した(図表1)。外出行動は依然として大きく抑制されている一方で、大規模な金融緩和や財政出動の効果もあり、株価はコロナ危機前を上回って推移している。企業の景況感(PMI)は改善しているが、経済政策の不確実性は高止まりしている。
図表1 コロナ危機後の主要経済指標(世界計もしくは主要国平均)
図表1 コロナ危機後の主要経済指標(世界計もしくは主要国平均)
注: 外出行動はGoogle community mobility reportの日米欧韓台主要国平均、消費・雇用者数は日米欧主要国平均、GDPは日米欧中主要国平均、貿易・生産はWorld Trade Monitor、PMIは世界総合、半導体売上は世界売上高、株価はMSCI世界株価指数。政府債務残高はグローバル計のGDP比。中央銀行資産規模はFRB・ECB・BOJの合計。

出所:Bloomberg、Google、CPB、PMI、BIS、EUI、Institute for Supply Management©より三菱総合研究所作成
こうした経済指標間のばらつきに加え、一つひとつの指標の中身をみると、二極化が進んでいるのもコロナ危機の特徴だ。GDPを例に挙げると、いち早く2020年4-6月期にコロナ危機前の水準を回復した中国に対し、米国・欧州・日本は2020年末時点で依然としてコロナ危機前の水準を下回っている。雇用も平均的には回復傾向にあるが、米国の雇用を所得階層別にみると、高所得層はコロナ危機の影響をほぼ受けていないのに対し、低所得層の雇用は依然として30%程度失われたままだ。企業利益や株価の業種間のばらつきも大きい。

本コラムでは、パンデミック宣言からの1年間を振り返り、世界経済がコロナ危機前からどう変わったのか、オリジナルの分析を踏まえて考察する。また、ワクチンの接種開始により防疫と経済のバランスが今後どう変化していくかを、可能性も踏まえ、展望する。全4回の連載を予定している。第1回は防疫と経済のバランス(今回)、第2回は「二極化する雇用・所得環境と消費」、第3回は「企業収益環境の変化」、第4回は「テールリスクへの金融政策対応」をテーマとする。

防疫と経済のバランスを模索した1年

高い感染力と一定の致死率を有する新種のウイルスに対してわれわれが取りうる対抗策は、非常に限られていた。ワクチンや治療薬がない状況では、手洗い・うがい・マスクといった基本的な衛生対策を徹底するとともに、不要不急の外出や通勤を抑制し人と人との密な接触の機会を極力減らす、旅行や出張など長距離移動の制限により地域間の伝播を抑制する、といった外出行動の抑制策が、限られた有効な施策であった。

外出行動の抑制は、少なからず経済的な犠牲を伴う。旅行をはじめ、外食・レジャーなど、家の外でなければできない消費は、消費全体の20%程度を占める。このほか、通勤や出張によって誘発されてきた消費(飲食、交通、被服・履物など)や、リアル店舗での買い物が必要な消費も影響を受ける。こうした需要の減少は、当該産業の業績悪化を通じて雇用・所得に波及し、一段の経済悪化を招く。

この1年間の外出行動と消費の動きを振り返ろう(図表2)。2020年3月のパンデミック宣言から同年4-6月にかけては、米国・欧州・日本のいずれも外出行動が大幅に抑制され、消費も落ち込んだ。国・地域による濃淡はありつつも、共通するのは、「外出行動を▲10%抑制することで、消費が▲4%落ちる」という関係性である。外出抑制によって影響を受ける消費が全体の40%程度を占めることの裏返しかもしれない。
図表2 主要国の消費と外出行動
図表2 主要国の消費と外出行動
注:消費は名目季節調整値。外出行動は4項目(娯楽・商業施設、食料品店・薬局、駅、仕事場)の平均。欧州4カ国(ドイツ・フランス・英国・イタリア)はGDPで加重平均。2021年1-3月期は3月中旬までの平均。

出所:Bloomberg、Google「Community Mobility Report」より三菱総合研究所作成
なお、2020年7-9月期以降、米国が平年比▲20%超の外出行動抑制を続けながらも、消費の下振れ幅が大幅に縮小している理由として、2つの仮説が考えられる。第1は、コロナ危機への対応として実施された失業給付の増額※1や現金給付※2による一時的な所得の上振れである。第2は、リアル店舗での消費からオンライン消費への代替である。2020年の米国小売売上高を業種別にみると、従来型店舗での売り上げが大きく落ち込む中、Eコマースなどノンストアが前年比+21%と大幅に伸び、消費を押し上げた。日本でもオンラインでの消費が2020年に前年比+14%の伸びとなったが、オンライン消費が全消費に占める割合はおおむね米国の半分にすぎない※3

ワクチン普及で防疫措置を緩めることができるか

上記の米国のような例外はあるものの、世界的にみれば、欧州や日本をはじめとして、防疫と経済のトレードオフの関係は依然として強い。経済活動の正常化を進めるには、ワクチンの普及により防疫措置を緩和できる環境を整備していくことが不可欠だ。

ワクチン普及の効果は大きく2つある。第1に、重症化率の高い高齢者などへの優先的な接種などにより、重症化率を下げることができれば、医療への負荷も抑制され、経済活動への制約を弱めることができる。重症化を防ぐ治療薬の普及によっても、同様の効果が期待される。第2に、ワクチンによる抗体形成が国民全体の一定割合に達すると、集団免疫が形成され、感染の拡大が終息に向かうとされる。重症化率が下がり、集団免疫が形成されれば、新型コロナも季節性インフルエンザと同様な扱いとなり、平時に近い形で経済活動を行うことが可能になる。

集団免疫達成のめど

では、ワクチン普及による集団免疫達成の時期はいつ頃になるだろうか。米国・英国では、累積感染者数と累積ワクチン接種数を合わせると、3月下旬時点で人口の30%近くに達する(図表3)。ウイルスの感染力などにも左右されるが、人口の70-90%がウイルスへの抗体を有する状態になれば「集団免疫」が形成され、感染拡大は終息に向かうとされる。
図表3 主要国の新型コロナ感染者数とワクチン接種数
図表3 主要国の新型コロナ感染者数とワクチン接種数
注:新型コロナのワクチンは通常2回の接種で抗体を形成することから、累積ワクチン接種数は、実際の累積接種回数のデータを2で割って計算したもの。また、感染からの回復者がワクチンを接種するケースも多く、両者が重なる部分もある。直近は2021年3月23日。

出所:Our World in Dataより三菱総合研究所作成
現状のペースでワクチン接種や感染が進んだ場合の「集団免疫の達成時期」について、米国、英国、ドイツ、イスラエル、日本を対象に試算を行った。試算にあたっては、①ワクチン接種ペースは直近1カ月の平均、②感染拡大ペースは2020年3月から直近までの平均、③陽性反応のない感染者数は陽性者の半数、という前提を置いた。結果としては、米国および英国では、2021年3月下旬を起点として、おおむね半年後には集団免疫を達成する可能性がある(図表4)。鍵を握るのはワクチン接種のペースである。接種ペースが極めて速いイスラエルは既に達成している可能性があるのに対し、接種ペースが遅いドイツは接種ペースが現状のままでは、集団免疫達成に1年半程度を要する。日本については、医療従事者を中心に先行接種が始まったばかりであり限られた期間での試算にはなるが、下図のとおりワクチン接種ペースは非常に遅い。集団免疫の早期達成には、接種ペースの大幅な改善が必要なことは言うまでもない。

もっとも、上記結果は幅をもってみる必要がある。重大なワクチン副反応の発生、既存ワクチンの効かない変異株の流行といったリスクのほか、ワクチンによる抗体の持続期間についても不明な点が多いためだ。
図表4 主要国の集団免疫の達成時期(現状延長による試算)
図表4 主要国の集団免疫の達成時期(現状延長による試算)
注:新型コロナのワクチンは通常2回の接種で抗体を形成することから、累積ワクチン接種数は、実際の累積接種回数のデータを2で割って計算したもの。また、感染からの回復者がワクチンを接種するケースも多く、両者が重なる部分もある。抗体の持続期間については考慮せず計算。ワクチン接種ペースについて、日本のみ接種開始からの期間が短いことから、直近2週間の平均で計算。直近は2021年3月23日。

出所:Our World in Dataより三菱総合研究所作成
加えて、より現実的な問題として、現状のワクチン接種ペースを維持できるか、という点がある。接種体制など供給力の問題は今後徐々に解消されていくとみられるが、一方の需要面、すなわちワクチン接種を希望する人の割合の低さが集団免疫形成に向けての障壁となる可能性がある。Ipsos社のアンケート調査によると、ワクチンの接種を希望する人の割合は、国によるばらつきが大きい(図表5)。特に、ロシア、フランス、南アフリカ、日本、ドイツでは、接種が可能になったとしても接種したくない人の割合が30%を超えている。

これらの国々では、現状のワクチン接種ペースも遅いという共通点もあり、集団免疫形成や経済活動正常化のタイミングが相対的に遅れるリスクがある。
図表5 ワクチン接種意向(2021年1月時点)
——仮に、ワクチンの接種が可能になった場合に、接種したいか?
図表5 ワクチン接種意向(2021年1月時点) —— 仮に、ワクチンの接種が可能になった場合に、接種したいか?
注:サンプルは15カ国の16-74歳の合計12,777人。既にワクチンを接種した人は除く。
出所: Ipsos Global Advisor January 28-31, 2021
https://www.ipsos.com/en/global-attitudes-covid-19-vaccine-january-2021(閲覧日:2021年3月18日)。

まとめ

新型コロナに対する防疫と隣り合わせの生活は、早くも1年を超えたが、出口に向けた希望もみえてきた。異例のスピードで開発されたワクチンの接種が2020年末から始まったことにより、高齢者の重症化率が低下することで医療逼迫が改善されれば、防疫措置を緩めることが可能になる。さらに集団免疫が形成されれば、新型コロナも季節性インフルエンザと同様な扱いとなり、平時に近い形で経済活動を行うことが可能になる。

もっとも、本稿で述べたとおり、各国のワクチン接種ペースや接種意向にはばらつきがあるほか、感染率や重症化リスクが高いともいわれる変異株の流行拡大もあり、防疫措置の段階的な緩和や撤廃がどのようなスケジュールで進むかは、国による差が大きくなりそうだ。先進国に比べて新興国の接種ペースが遅いほか、先進国の中でも先行する米英と、遅行する日独では接種ペースが大きく異なる。国内の感染拡大が継続する国に対しては、人の往来も規制され、ビジネスや観光の回復も相対的に遅れる可能性がある。また、米国が早いタイミングで経済活動を正常化させた場合、金融政策も正常化に向けた動きが強まるだろう。米国の国債利回りが急上昇すれば、株式や商品などリスク資産から安全資産への資金の逆流が起き、新興国市場からも資金流出の動きが加速するおそれがある。

日本としては、集団免疫達成には時間を要するものの、まずは米国の20分の1にとどまるワクチン接種ペースを引き上げ、高齢者の重症化率を低下させることが重要である。また、米国経済が予想以上に速いペースで回復していることによる日本経済への影響にも注目だ。ワクチン接種と大規模な追加経済対策による米国経済の持ち直しは、輸出の回復という意味では日本経済にプラスにはたらく。一方で、株価の割高感や、相次ぐSPAC(特別買収目的会社)の新規上場など、金融市場の過熱感が強まっており、FRBが金融政策の調整前倒しを余儀なくされる可能性がある。コロナ危機から経済が回復する過程での国際金融市場の不安定化には注意が必要だ。

※1:失業者に対する週当たり600ドルの失業給付の上乗せを2020年7月にかけて実施、8月以降は300ドルに減額。失業給付の給付期間は、通常の6カ月から9カ月に延長された。

※2:国民一人当たり1,200ドルの給付を2020年4月に実施。2021年1月には一人当たり最大600ドルが給付され、更に同1,400ドルの追加給付も予定されている。

※3:米国は小売売上高に占めるノンストアの割合が2020年平均で15%、日本は総務省「家計調査」の支出総額に占める同「消費状況調査」におけるインターネットを利用した支出総額の割合が2020年平均で7%。