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MRIエコノミックレビュー海外戦略新興国

ウクライナ危機で存在感増す「グローバルサウス」②

問われる日本の向き合い方

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2023.5.16

政策・経済センター田中嵩大

POINT

  • 多国間協調枠組みを用いたルールに基づく国際秩序の再構築を
  • 官民一体で二国間連携を深化させることも重要
  • G7議長国としてプレゼンスを向上させる機会に

「ルールに基づく国際秩序」は共有可能な価値観

前コラムでは西側陣営と中露陣営の対立が続くと見込まれるなかで、そのどちらにもくみしないグローバルサウスに対するアプローチを今まで以上に強化していく必要があることを述べた。特に、今年G7の議長国を務める日本が果たすべき役割は大きい。日本として目指すべきアプローチの一つは、国際的な協力枠組みやルール形成を通じた「ルールに基づく国際秩序」の再構築だ。

一部のグローバルサウスが持つ欧米に対する根強い不信感や、中国との経済・政治的関係を考えると、グローバルサウスを西側陣営に取り込むことは現実的ではない。民主主義陣営と権威主義国陣営のどちらかを選択するように迫ることや、欧米的な価値観を一方的に押し付けようとすることは、かえってグローバルサウスからの反発を招くことになり逆効果だ。G7や日本は「上から目線」で接するのではなく、対等な関係として、協力できる分野を模索するべきである。

日本はこれまで既に、法の支配や主権、自由貿易といった、ルールに基づく国際秩序を、「自由で開かれたインド太平洋構想(FOIP)」などを通じて打ち出してきた。これらの価値観はグローバルサウスとも共有可能であり、それを推進する日本は一定の支持を得られている。ASEAN有識者への調査では、日本が国際法を尊重し、支持していることに対して好意的な見方が多くみられる(図表1)。
図表1 ASEAN識者へのアンケート調査(2023年)
ASEAN識者へのアンケート調査(2023年)
注:「2022年」は2021年11月11日~12月31日(回答者数1,677人)、「2023年」は2022年11月14日~2023年1月6日(回答者数1,308人)に調査を実施。
出所:ISEAS "State of Southeast Asia: Survey Report"を基に三菱総合研究所作成
加えて、2023年3月に岸田首相がインド世界問題評議会で行ったスピーチの中では、「FOIP協力の新たな柱」として4つの取り組みの柱を掲げ、気候変動や国際保健、食料安全保障などの世界共通の課題を、インド太平洋で連携することを打ち出している(図表2)。これらは、2023年1月に開催された「グローバルサウスの声サミット」でも議題となった分野であり(図表3)、グローバルサウスにとっても、連携による恩恵は大きい。
図表2 FOIPのための新たなプラン
FOIPのための新たなプラン
出所:外務省を基に三菱総合研究所作成
図表3 「グローバルサウスの声サミット」の議題
「グローバルサウスの声サミット」の議題
出所:各種資料を基に三菱総合研究所作成
日本は米中のようなハードパワーこそ持ち合わせていないが、米欧とのつながり(G7)やアジアの国々との良好な関係があり、日本が参加する多国間協調の枠組みには、グローバルサウスから多くのアジア諸国が参加している(図表4)。既存の枠組みも活用しながら、ルールに基づく国際秩序をアジアから他地域へも推進し、G7とグローバルサウスの橋渡し役を担うことが期待される。
図表4 日本が参加する多国間協調枠組み
日本が参加する多国間協調枠組み
注:加盟国は2023年3月時点。
出所:三菱総合研究所
図表5 各国首脳の訪問国数
各国首脳の訪問国数
注:2023年5月8日時点。
出所:各種資料を基に三菱総合研究所作成
もっとも、前掲図表1のASEAN有識者への調査の中では、日本が内政に気を取られることを懸念する声が過去1年で高まっていることには留意が必要だ。岸田首相はゴールデンウィーク期間中にアフリカ4カ国訪問を実現しており、G7の一員として日本がコミットメントの姿勢を打ち出せたと言える一方で、中国の影響力が強まっている中南米や中東には訪問できていない(図表5)。グローバルサウスとの関係を重視していることを示すためにも、首相や外相自身が積極的に外遊を行うことが求められる。

二国間連携でパートナー関係に

多国間協調枠組みの推進と同時に、二国間連携も強化すべきだ。理由は3点ある。①グローバルサウスは多様な国々であり、多国間協調によるアプローチでは限界があること。②理念だけではなく、目に見える形でグローバルサウスの成長に貢献することが必要である。③世界各国がグローバルサウスとの経済関係を強めるなかで、日本もより深い経済関係を築く必要があるためだ。

①について、グローバルサウスは多様な国々の総称であり、本来はひとくくりに論じることは困難だ。前述のウクライナ危機への対応でも、西側諸国に同調しない背景として、ロシアとの関係悪化を恐れる国もあれば、国際政治におけるプレゼンス向上を狙う国もあるなど、思惑はそれぞれ異なる。各国を政治・経済・社会規範の3つの側面から分類してみると(図表6)、グローバルサウス(黄円)の政治体制や文化・社会規範の多さ)、経済発展度合いはさまざまだ。相手国が置かれている状況やニーズに耳を傾けることが重要で、特に日本と立ち位置が離れる国(中東や中南米)に対しては、アプローチ方法を工夫する必要があるだろう。
図表6 各国の政治・経済・文化の立ち位置
各国の政治・経済・文化の立ち位置
注:青円が西側諸国、赤円が中露、黄円がその他(≒グローバルサウス)を示す。3指標がそろう国を対象に集計。政治体制は、EIU「Democracy Index」に従う。
出所:EIU、Michele Gelfand、IMFを基に三菱総合研究所作成
二国間連携を構築する方法の一つは、ODA(政府開発援助)などの公的資金を用いた支援だ。援助額を増加させている米国やドイツと対照的に、日本のODA金額は横ばいであり、DAC(OECD開発援助委員会)構成国の中での援助額シェアが低下している(図表7)。また、援助先もアジアに傾斜しており、アフリカなど最貧国に対する援助は多くない。援助分野も橋や港湾といった輸送インフラ案件が多く(図表8)、相手国の国民に日本の援助が伝わりにくいことなどを踏まえると、質や量の改善をする余地があると言える。
図表7 DAC構成国のODA金額(名目)
DAC構成国のODA金額(名目)
注:DACはOECD開発援助員会、ODAは政府開発援助。
出所:OECDを基に三菱総合研究所作成
図表8 ODA援助先・分野の内訳(2021年)
ODA援助先・分野の内訳(2021年)
出所:OECDを基に三菱総合研究所作成
もっとも、ODA等の支援を必要としている国もあるが、ASEAN・インドを始めとして、グローバルサウスの中には、今後経済面等で日本と同等以上の存在になってくる国もある。②③の観点からも、民間主導で「対等かつ持続可能な関係」を築くことがより求められるであろう。経済成長を重視するグローバルサウスにとっても、資金力と技術力を持つ外資系企業を招致することは重要課題の一つだ。

ただし、グローバルサウスへの進出は民間企業にとってハードルも高い。指摘されることが多い課題は、「製品・サービスのローカライズ(現地化)失敗」や「現地情報の不足」などが挙げられる。企業は、グローバルサウスを単なる「市場」や「生産拠点」と見なすのではなく、「パートナー」として見る発想の転換が必要だろう。従来の製品・サービスをそのまま輸出するのではなく、現地のニーズに合った形で提供することが求められる。新興国市場では、多くの有望なスタートアップが生まれつつあるので、そうした現地企業との協業も考えられる。

同時に、グローバルサウスへの事業展開を、官民一体で取り組むことも重要だ。外交を通じた関係構築のコミットメントや、リスクマネーの供給、現地パートナーとのマッチング、現地情報の提供といった政府の支援があることで、日本企業が長期的な経済関係を安心して構築することが期待できる。

例えば、韓国による中東外交は官民連携の好例と言えよう。脱原油依存を目指し、外資誘致に積極的な中東(特にサウジアラビア・UAE)は、「トップ外交」によるアプローチが重要と言われる。こうした中、韓国の尹大統領は2022年秋以降、サウジアラビアとUAE両国の首脳と会談を実施。UAE訪問時には約100社の韓国企業を随行し、数百億ドル規模の共同事業を締結している。韓国政府・企業にとっても、相手国であるグローバルサウスにとっても、「Win-Win」となった好例であり、日本も官民連携による戦略的なアプローチを進めていくことが求められる。

G7議長国としてプレゼンス向上の契機に

グローバルサウスの存在感が増し、関係構築が急務となっている中で、5月19-22日にG7広島サミットが開催される。サミットでは、ウクライナ危機への対応やグローバルサウスとの関係構築のあり方について議論される見込みだ。

議長国である日本としては、G7諸国と連携してグローバルサウスへの働きかけを強めるとともに、既存の枠組みを活用しながらルールに基づく多国間協調体制を世界へと広めることが望ましい。同時に、欧米や中国などがグローバルサウスと経済的な結びつきを強めるなかで、国際秩序の観点に加えて企業活動や経済安全保障の観点から、日本も二国間関係の深化を図ることも重要だ。

ウクライナ危機を機に国際情勢は目まぐるしく動いており、日本にとっても正念場ではある。G7議長国として率先してグローバルサウスとの連携を深め、国際舞台での存在感を発揮することに期待したい。

謝辞

本稿の分析・提言にあたっては、神保謙氏(慶應義塾大学)から貴重かつ有益なご意見をいただきました。ご多用のなか、ご協力いただき、厚くお礼申し上げます。