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内外経済見通し

新型コロナウイルス感染症の世界・日本経済への影響と経済対策提言

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2020.4.6

株式会社三菱総合研究所

株式会社三菱総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:森崎孝)は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を踏まえ、世界経済・日本経済の成長率見通しを改定するとともに、経済対策の提言をいたします。

コロナ危機の世界経済への影響

新型コロナウイルスの感染は欧州・米国へと飛び火し、発生源である中国を大幅に上回るペースで拡大している。感染拡大の影響は3つのルートで経済に波及する。①人・モノの動きの世界的な遮断、②国内の経済活動抑制、③国際金融市場の不安定化だ。コロナ危機による経済影響の本質は、外出規制などによる需要蒸発であり、潜在需要は存在することだ。感染拡大の間に、企業の資金繰りや雇用が維持できれば終息後に景気は回復するが、維持できなければマインドや雇用・所得が悪化し、終息後も経済低迷が長期化しかねない。

今後の感染拡大ペースや終息時期も不透明なため、世界経済・日本経済の見通しを複数のシナリオで提示する。本予測は、一定の前提に基づき試算したものであるが、日々状況は変化しており、今後の世界の感染拡大の深刻度や期間、各国の政策対応とその効果、金融市場の動向等により試算結果も変わるため、幅をもってみる必要がある。

シナリオ①:経済活動抑制のピークアウトが6月末の場合
— 20年の世界経済成長率はコロナ危機前の前年比+2.7%から+0.5%へ下方修正
— 米国▲0.4%、欧州▲1.9%、中国+2.3%、経済損失は世界全体で200兆円(GDP比2.2%)
シナリオ②:経済活動抑制のピークアウトが12月末の場合
— 20年の世界経済成長率は前年比▲0.5%へ下方修正(※09年以来のマイナス成長)
— 米国▲1.7%、欧州▲3.3%、中国+0.4%、経済損失は世界全体で320兆円(GDP比3.4%)

また、新型コロナウイルスは、終息後の国際社会に大きな爪痕を残しかねない。排他的風潮の強まりや感染源を巡る米中対立により、世界の分断が一段と加速するリスクがある。各国国内でも、失業の長期化により所得格差が拡大すれば、社会の分断を一段と深めかねない。一方、今回の教訓から、世界でデジタルシフトが一気に進み、新ビジネスが創出される可能性も秘めている。

コロナ危機の日本経済への影響

日本経済は、消費税増税の影響にコロナ危機が加わったことで、深い景気後退局面入りを予想する。一方で、当社が3月末に緊急実施した生活者5千人調査では、感染終息後は消費を平時の水準に戻す意向が確認されており、潜在的需要は蒸発していない点が確認された。この間に、企業の資金繰りと雇用が維持されることが肝要だ。

日本のGDP成長率は、19年度、20年度ともにマイナス成長を見込む。上記シナリオ①では、19年度が前年比▲0.3%、20年度が同▲0.5%であるが、シナリオ②では、20年度が同▲1.7%までマイナス幅が拡大すると予測する。経済損失はシナリオ①で▲10兆円(GDP比1.7%)、シナリオ②で▲16兆円(同2.9%)となる。GDPギャップは一時的に▲20兆円(潜在GDP比4%)程度まで拡大する見通し。

危機克服に向けた経済対策提言:3つの柱

今回の危機の場合、まずは危機の根源である感染抑止に全力を挙げるとともに、終息までの間、企業の資金繰りと雇用支援により倒産や失業を最小限に抑えることが肝要だ。感染期間中の経済へのダメージを最小限に抑え、終息後の景気の回復を助けるために、次の3つの柱からなる経済対策を提案する。真に困っている企業・人への支援とともに社会構造変革の契機とすることが重要となる。

第一の柱:倒産・失業・生活困窮の負の連鎖を阻止

①未来の売上を前借りするための政策支援
  • 影響の大きい業界(旅客、宿泊、飲食、レジャー等)を念頭に、指定ウェブサイトで、1年先以降に使える旅行券・商品券・食事券の発行・販売を政府が支援
  • 指定ウェブサイトで商品券等を割引販売。割引分を政府が補助(企業が申請)
  • 6つの効果:a)企業が借金を増やさずに現在の流動性を確保、b)新たな形の資金繰り支援、c)ウェブで商品券をプール販売することで中小零細企業の販路確保(中小零細支援)、d)今の需要を喚起しない(感染拡大防止)、e)家計への所得補助、f)応援したい気持ちの見える化
②企業の資金繰り支援と雇用維持支援のさらなる拡充
  • 政府系金融機関の危機対応業務予算枠の大幅拡充、社債買取ファンド創設
  • 信用保証枠の拡大、受け入れ体制の拡充
  • 税金の支払い猶予(納税期限を1年延長)
  • 解雇等を行わない場合の中小企業向け雇用調整助成金を100%助成に拡充
③失業者・生活困窮者への集中的な生活支援
  • 生活困窮者(緊急小口貸付の対象者)への現金給付を終息宣言まで毎月継続
④感染拡大阻止に向けた措置
  • 感染疑い者、軽症者は受診歴なしでも初診からオンライン診療(急拡大への備え、感染防止)
  • ワクチン・治療薬の開発、マスクや消毒剤等を必要とする事業者へ優先配給
  • リスクコミュニケーションの充実

第二の柱:終息後の景気を回復軌道に戻す

①影響が大きい業界・地域の復興支援
  • 第一の柱①の仕組み活用、キャッシュレスポイント還元延長・拡大(機器導入支援)等
②インバウンド喚起策
  • 正確な情報発信、免税対象拡大、訪日外国人向けのオンライン旅行クーポン等
③感染症リスクを前提とした企業の体制・投資支援
  • 企業のグローバルサプライチェーン再構築・業界再編支援
④起業やイノベーションの芽を絶やさない仕掛け
  • ベンチャー投資等オープンイノベーションを対象とする税制優遇措置
⑤感染症対策体制の継続的な強化
  • 国際的な連携下での今回経験に対する評価・研究と知財化
  • 検査・治療・ワクチン開発・公衆衛生にわたる人材育成や拠点・資機材整備

第三の柱:社会構造変革の契機に

①デジタルシフトで感染症・自然災害・人口減に強いスマート社会を創出
  • 遠隔診療・遠隔投薬(適用範囲拡大、医療機関のオンライン診療導入支援)
  • オンライン学習(人材育成等ソフト面の支援、リアル・リモート最適事例の横展開)、キャッシュレス、デジタル・ガバメント(給付手続きのオンライン化等デジタル化基本三原則の徹底)
  • 自動運転、MaaS、ドローン物流の加速等
②人々の行動変容を踏まえた成長基盤整備、新ビジネス創出支援
③レジリエントな経済社会モデルを世界へ提示・貢献

新型コロナウイルス感染症の世界・日本経済への影響と経済対策提言

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