エコノミックインサイト

内外経済見通し

新型コロナウイルス感染症の世界・日本経済への影響

2020~2021年度の内外経済見通し

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2020.5.19

株式会社三菱総合研究所

株式会社三菱総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:森崎孝)は、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大を踏まえ、4月6日に「新型コロナウイルス感染症の世界・日本経済への影響と経済対策提言」を、4月13日に「緊急事態宣言・緊急経済対策を受けた日本経済見通し改定値」を発表してまいりました。今回は5月半ばまでの状況を踏まえ、世界・日本経済見通しの最新版を公表いたします。

世界経済

世界における新型コロナウイルス感染者の拡大ペースは、4月以降、頭打ちとなってきたものの、依然として高水準で推移している。世界の人・モノの動きや各国経済活動が強く制限されるなか、世界経済は20年1-3月期に11年ぶりのマイナス成長に陥り、4-6月期はさらに落ち込むことが予想される。各国は大規模な経済対策で企業の資金繰りや雇用を支える構えだ。5月入り後は経済活動を再開する動きもみられるが、各国とも段階的な正常化プロセスの初期に過ぎない。感染終息時期が見通せないなかで、順調に正常化に向かうのか予断を許さない状況だ。

今後の感染拡大ペースや終息時期も不透明なため、世界経済・日本経済の見通しを複数のシナリオで提示する(シナリオ詳細は総論P.8参照)。本予測は、一定の前提に基づき試算したものであり、今後の世界の感染拡大状況や、各国の政策対応とその効果、金融市場の動向などにより試算結果も変わるため、幅をもってみる必要がある。

シナリオ①:強力な経済活動の抑制を5月末まで実施、再流行は回避。6月以降に抑制度を緩めるも、最低限の社会的距離の確保など一定の経済活動抑制は1年程度継続
— 20年の世界経済成長率は前年比▲3.0%、21年は同+5.7%
— 20年の各国成長率は、米国▲4.7%、欧州▲6.0%、中国+0.6%、日本▲4.9%
— 経済損失は世界全体で760兆円(世界GDP比8%)

シナリオ②:経済活動再開と再流行を繰り返す形で、断続的な経済活動抑制を12月末まで実施。21年入り後に抑制度を緩めるも1年程度は一定の経済活動抑制を継続
— 20年の世界経済成長率は前年比▲4.9%、21年は同+5.8%
— 20年の各国成長率は、米国▲6.1%、欧州▲8.9%、中国▲3.2%、日本▲6.5%
— 経済損失は世界全体で1,120兆円(世界GDP比12%)

シナリオ③:年内の感染抑止に至らず。21年は経済活動の抑制度を徐々に緩めつつも、断続的な抑制を22年にかけて継続
— 20年の世界経済成長率は前年比▲4.8%、21年は同+3.7%
— 経済損失は世界全体で1,310兆円(世界GDP比13%)

上記シナリオに含まれないリスクシナリオとして、第一に金融危機への発展がある。民間・政府ともに歴史的に高い債務水準にあるなかで経済活動が収縮している。さらなる債務の拡大や不良債権の増加を通じて、金融システム不安が発生するリスクが高まっている。第二は、潜在成長率の低下だ。失業長期化による人的資本の毀損やイノベーションの断絶などにより、中長期的な成長率が低下する可能性がある。感染拡大が長期化するほど、これらのリスクは高まる。

コロナ危機後の経済社会にもたらされる変化にも注目だ。地政学面では、排他的風潮の強まりや感染源を巡る米中対立により、世界の分断が一段と加速、国際秩序の不安定化が懸念される。経済安全保障の観点から、外資規制やサプライチェーン再編が、保護主義的方向に進む可能性がある。

一方、社会的距離の確保への社会的な要請が、非接触型技術の社会実装やサービスのオンライン化などデジタルシフトを加速する可能性が高い。コロナ危機を契機とする「ニューノーマル」への移行は、世界経済、ビジネスにとって大きな潮流の変化となる。

日本経済

日本経済は深い景気後退局面に入った。消費税増税の影響が残るなか、コロナ危機による経済収縮が直撃し、3四半期連続で大幅なマイナス成長となる見通しだ。緊急経済対策により20年度の実質GDP成長率は同+1.6%ポイント程度押し上げられる一方で、感染拡大と緊急事態宣言による経済活動の収縮により、同▲6.3%(シナリオ①)~▲9.0%(シナリオ③)ポイント下押しされるとみる。

当社が4月下旬に実施した生活者5千人調査では、緊急事態宣言発令前の3月調査と比べ、特定警戒都道府県(東京、大阪など)を中心に外出を伴う消費(外食や室外娯楽)の減少幅が拡大。経済活動の収縮度が強まっている。現時点では、感染終息後には消費を平時の状態に戻す意向が確認されているが、感染拡大が長期化し雇用・所得環境が一段と悪化すれば、潜在需要もしぼみかねない。

緊急事態宣言が解除された地域を中心に経済活動抑制は徐々に緩和されつつあるが、20年度の成長率は、シナリオ①で前年比▲4.5%、シナリオ②で同▲7.1%、シナリオ③で同▲7.4%と大幅なマイナス成長を見込む。21年度はシナリオ①、②では4%程度の成長回復を見込むが、シナリオ③では2%程度の弱い回復にとどまる見込み。

米国経済

米国の感染者数は3月半ば以降に爆発的に拡大、全国的に外出・営業規制が実施され、実質GDPは20年上半期に10%程度縮小する見込みだ。世界金融危機時の減少幅(4%)を上回る景気後退局面に入った。4-6月期の失業率は20%台前半まで跳ね上がる見込みだが、政策的支援で維持されている雇用を含めれば、潜在的な失業率は40%近くに上るだろう。5月に入り経済活動再開の動きもみられるが、感染の再拡大で失業が長期化すれば所得・消費への影響も深刻化する。また、原油価格の急落によるシェール企業の破綻増加が金融市場の不安定化要因となる点にも警戒が必要だ。

20年の実質GDP成長率は、シナリオ①で前年比▲4.7%、シナリオ②で同▲6.1%とマイナス幅が拡大する見通し。21年はシナリオ①、②では5%程度の成長回復を見込むが、断続的な経済活動抑制が長期化するシナリオ③では3%程度の弱い回復にとどまる見込み。

欧州経済

3月以降の爆発的な感染拡大を受けて各国で外出制限や国境封鎖などが実施され、南欧諸国を中心に4-6月期にかけて大幅なマイナス成長が予想される。4月以降、外出規制を解除する動きがあるが、社会的距離を確保しながらの経済活動の再開であり、V字回復は見込みにくい。欧州5カ国の20年の実質GDP成長率は、シナリオ①でも前年比▲6.0%と世界金融危機時並みの大幅なマイナス成長を見込む。再流行が発生するシナリオ②では同▲8.9%までマイナス幅が拡大する見込み。

中国経済

中国での感染はひとまず終息に向かいつつあるが、世界的には感染拡大が続くなかで、経済活動の正常化には程遠い状況だ。実質GDPは、1-3月期をボトムに4-6月期は前期比でみれば緩やかな回復が見込まれるものの、前年比ではマイナス成長が続く可能性が高い。サービス業の需要低迷などを背景に雇用への影響も顕在化している。すでに高い水準にあった民間債務が、コロナ危機による景気悪化で一段と積み上がっているとみられ、不良債権の増加や金融機関の信用収縮リスクが高まっている。20年の実質GDP成長率は、シナリオ①で前年比0%程度まで落ち込むとみられ、シナリオ②では同▲3.2%と文化大革命の最終年にあたる1976年以来のマイナス成長となろう。

新興国経済

その他の新興国・途上国では感染が拡大傾向にある。先進国に比べて医療体制や経済基盤が脆弱なことから、社会・経済へのダメージは相対的に大きくなる可能性が高い。国際金融市場における新興国からの資金流出圧力は3月半ば以降に強まり、世界金融危機時を上回る流出規模となっているほか、産油国にとっては原油安の影響も大きい。新興国経済の成長率は、内外需の下振れを背景に、軒並み世界金融危機時を超える落ち込みとなるだろう。

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