世界における新型コロナウイルス感染者の拡大ペースは、4月以降、頭打ちとなってきたものの、依然として高水準で推移している。世界の人・モノの動きや各国経済活動が強く制限されるなか、世界経済は20年1-3月期に11年ぶりのマイナス成長に陥り、4-6月期はさらに落ち込むことが予想される。各国は大規模な経済対策で企業の資金繰りや雇用を支える構えだ。5月入り後は経済活動を再開する動きもみられるが、各国とも段階的な正常化プロセスの初期に過ぎない。感染終息時期が見通せないなかで、順調に正常化に向かうのか予断を許さない状況だ。
今後の感染拡大ペースや終息時期も不透明なため、世界経済・日本経済の見通しを複数のシナリオで提示する(シナリオ詳細は総論P.8参照)。本予測は、一定の前提に基づき試算したものであり、今後の世界の感染拡大状況や、各国の政策対応とその効果、金融市場の動向などにより試算結果も変わるため、幅をもってみる必要がある。
シナリオ①:強力な経済活動の抑制を5月末まで実施、再流行は回避。6月以降に抑制度を緩めるも、最低限の社会的距離の確保など一定の経済活動抑制は1年程度継続
— 20年の世界経済成長率は前年比▲3.0%、21年は同+5.7%
— 20年の各国成長率は、米国▲4.7%、欧州▲6.0%、中国+0.6%、日本▲4.9%
— 経済損失は世界全体で760兆円(世界GDP比8%)
シナリオ②:経済活動再開と再流行を繰り返す形で、断続的な経済活動抑制を12月末まで実施。21年入り後に抑制度を緩めるも1年程度は一定の経済活動抑制を継続
— 20年の世界経済成長率は前年比▲4.9%、21年は同+5.8%
— 20年の各国成長率は、米国▲6.1%、欧州▲8.9%、中国▲3.2%、日本▲6.5%
— 経済損失は世界全体で1,120兆円(世界GDP比12%)
シナリオ③:年内の感染抑止に至らず。21年は経済活動の抑制度を徐々に緩めつつも、断続的な抑制を22年にかけて継続
— 20年の世界経済成長率は前年比▲4.8%、21年は同+3.7%
— 経済損失は世界全体で1,310兆円(世界GDP比13%)
上記シナリオに含まれないリスクシナリオとして、第一に金融危機への発展がある。民間・政府ともに歴史的に高い債務水準にあるなかで経済活動が収縮している。さらなる債務の拡大や不良債権の増加を通じて、金融システム不安が発生するリスクが高まっている。第二は、潜在成長率の低下だ。失業長期化による人的資本の毀損やイノベーションの断絶などにより、中長期的な成長率が低下する可能性がある。感染拡大が長期化するほど、これらのリスクは高まる。
コロナ危機後の経済社会にもたらされる変化にも注目だ。地政学面では、排他的風潮の強まりや感染源を巡る米中対立により、世界の分断が一段と加速、国際秩序の不安定化が懸念される。経済安全保障の観点から、外資規制やサプライチェーン再編が、保護主義的方向に進む可能性がある。
一方、社会的距離の確保への社会的な要請が、非接触型技術の社会実装やサービスのオンライン化などデジタルシフトを加速する可能性が高い。コロナ危機を契機とする「ニューノーマル」への移行は、世界経済、ビジネスにとって大きな潮流の変化となる。