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【提言】スキル可視化で開く日本の労働市場

2035年にミスマッチ480万人─生成AIの雇用影響を乗り越える労働市場改革

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2023.9.13

English version: September 13, 2023

株式会社三菱総合研究所

人材
株式会社三菱総合研究所(代表取締役社長:籔田健二、以下 MRI)は、米国Lightcast社とともに、求人ビッグデータを用いたスキルの可視化をテーマとする共同研究を実施しました。その結果を踏まえ、日本の労働市場改革と人材活性化に向けた方策を本日公表します。

生成AIは人材不足を緩和する一方でミスマッチを拡大

労働力人口の減少が深刻化する日本は、デジタル技術を活用した生産性向上を実現しなければ労働供給制約による経済停滞を避けられない。当社の試算では、DX推進が2035年時点で970万人規模の省人化をもたらす可能性がある。特に、昨今注目される生成AIは定型的なタスクにとどまらず幅広い業務に影響を及ぼすことが見込まれ、その雇用へのインパクトは少なく見積もっても460万人相当に上るとの試算結果が得られた。しかし、DX・GX・半導体産業再生といった産業構造変化に必要な人材を考慮すると、依然190万人規模の人手不足が残る。また、全体としての需給ギャップに加えて、産業・職業間のミスマッチが480万人規模に拡大する。
2020~35年にかけての労働需給バランス(各項目は10万人単位で四捨五入)
2020~35年にかけての労働需給バランス(各項目は10万人単位で四捨五入)
出所:三菱総合研究所

求められるスキルの恒常的な変化に対応するうえで人材流動化は不可避

日本には、産業構造変化に必要となる人材が不足している。いわゆるデジタル人材のみならず、半導体産業や再生エネルギー産業を支える現場人材も足りない。また、生成AIは幅広い職業における仕事のやり方を変える可能性を持っており、産業・職業を問わず、求められるスキルが大きくかつ恒常的に変化することが見込まれる。このような状況に対応するうえで、企業や産業を超える人材移動はもはや避けて通ることはできない。政府、企業、働き手は、組織を超えた人材流動化が進むことを前提に、ミスマッチ解消に向けた備えを講じることが必要である。

人材流動化が進むなかで企業に求められるのは「理念の共有」と「スキル可視化」

来るべきスキル要件変化と人材流動化に対して、企業は「人的資本経営」、政府は「三位一体の労働市場改革」という形で布石を打ちつつある。ここで特に重要なのが、労働市場参加者(企業と求職者・就業者)が人材要件について情報共有することである。とりわけ、企業からの情報開示の方向性として、「企業理念の共有」と「求めるスキルの可視化」を開示の両輪とすることが望まれる。経営者は、企業の理念・目的・戦略の開示と対話を通じて従業員と求職者の共感を得ると同時に、両者に対して求めるスキルを明確に示す。これによって、人はリスキリングを行い、成長領域に移動し、適正な報酬を得て活躍するための道しるべを得ることとなる。

人材のスキル要件を可視化する求人ビッグデータ

では、労働市場におけるスキル可視化を、具体的にどのように進めるか。ここで注目されるのが、オンライン上のジョブポスティング・データを収集・蓄積・分類した「求人ビッグデータ」に基づくスキル体系(タクソノミー)である。労働市場データ解析を行う米国企業Lightcast社は、米国・英国・カナダ・豪州・シンガポール等においてオンライン上にポスティングされる求人情報を日々収集・蓄積し、そこから得られる情報に基づくスキル体系を常時アップデートしている。こうしたスキル体系を用いて、職業間のスキル類似度やスキル・ディスラプション(デジタル技術普及によるスキルの代替や陳腐化)、賃金プレミアム、キャリアパスなど多彩な指標が構築されている。こうしたスキル情報を自社のHRデータとひもづけることで、外部労働市場と連携した採用戦略や可視化した人材ポートフォリオを提示することが可能となる。

スキル可視化をてこに労働市場改革を進めよ

DX推進、再生可能エネルギー拡大、半導体産業再生など、内外の要請に基づいて新たな人材需要が発生し、それが労働市場の流動化を推し進めつつある。しかし、労働市場の参加者が理解できる共通言語がない限り、人材の適材適所が実現せず、ミスマッチは解消されない。本レポートで紹介した求人ビッグデータに基づくスキル体系を活用しつつ、人材サービス産業、業界/職能団体、教育セクター、地域経済団体、個社が連携して、スキルベース共通言語を整備するための6つのポイントを提言する。
スキルベース共通言語の構築・連携・活用に向けた6つの提言
スキルベース共通言語の構築・連携・活用に向けた6つの提言
出所:三菱総合研究所

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